第60話 匠の大改革
少し経ってからゴルドが戻ってきた。
全身ずぶ濡れで汚れは粗方落とされている。
臭いも近付かなければ気にならないほどになっていた。
彼は穴を指差して告げる。
「とりあえず塞ぎやしょう。あっしが潰したのは巣の一部です。放っておくとまたゴブリンが来やすよ」
「ふむ、面倒だな……」
客の魔術師が結界を張る一方、俺は腕を組んで考え込む。
別に大した危険はない。
しかし、結界も万能ではないのだ。
このままだと常にゴブリンの出現を警戒しておかねばならない。
当然ながら店の営業にも支障が出る。
ただ塞ぐだけでは不十分だろう。
同じことを思ったのか、ゴルドが気さくに提案する。
「そうだ、いっそ地下部分を掘り抜いて店にしちまうのはどうですかい。一区画を丸ごと乗っ取れば、ゴブリンの奴らも逃げ出すでしょう。店との境目でちまちまと倒すより楽ですぜ」
「面白い案だ」
「そうでしょう、そうでしょう。旦那の腕なら稼ぎも期待できやす」
「よし。ちょうど手狭に感じていたところだ。店を拡張するぞ」
俺が宣言すると、冒険者達は大喜びする。
とりあえず何か騒ぐことができればそれでいい奴らなのだ。
この様子なら色々と手伝わせても文句は出ないだろう。
地下を作る工事となると出費も馬鹿にならない。
なるべく節約したいところである。
これからの段取りを練る途中、リターナが話しかけてきた。
「大胆だね。地下部分は迷宮の領域になる。予測不可能な問題が発生する恐れがあるんだよ。飲食店をやるなんて狂気の沙汰だと思うがね」
「どうにかなるだろ。設備強化のいい機会だ。こうなったら一気に大儲けしてやる」
翌日以降、さっそく工事が始まった。
店の常連と第三騎士団に依頼して、地下空間を掘り抜いていく。
魔術強化した支柱の設置の他に、樹木の魔物ことサズが根を張っているため、地上部分が崩壊するようなことはない。
全体の補強も並行させており、むしろ以前より堅牢な造りとなった。
様々な仕掛けも追加したので利便性も飛躍的に高まったと言える。
ギアレスは犯罪の巣窟だ。
過剰な対策でちょうどいいくらいである。
それに隣接していた迷宮がついに直結したのだから、ある程度の防備は必須と言えよう。
かなりの大金を支払う羽目になったが、後悔しないだけの仕上がりになりそうだ。
あとは完成の日を楽しみに待とうと思う。




