第59話 穴からゴブリンとか色々
客の冒険者達が壁際で待機している。
酔いもすっかり消えて、室内全域に注意を払っていた。
穴が一箇所だけとは限らないからである。
いつどこから襲撃されても対応できるように、彼らは武器を構えて集中している。
地下と繋がる穴にはゴブリンが詰まっていた。
突っ込んだテーブルが引っかかって抜け出せないようだが、いずれ突破してくるだろう。
事態を見守るリターナは愉快そうに微笑む。
「迷宮ではゴブリンの大繁殖が発生している。それが溢れてきたようだね。とんでもない事故物件だ」
「食い止める方法はないのか」
「物理的に塞ぐのが妥当だろうね。できれば結界で蓋もしたいな」
リターナの意見を聞いた数人の魔術師が動き出す。
次の瞬間、派手な打撃音が響き渡った。
押し込んだテーブルが吹っ飛び、変形した数匹のゴブリンの死骸も一緒に撒き散らされる。
煩わしそうに這い上がってきたのは筋骨隆々なゴブリンだ。
背丈が成人男性に近いので、正確には上位種のホブゴブリンだろう。
赤褐色の体表は高熱を発している。
おそらくは何らかの魔物の性質を受け継いだ変異種であった。
俺は散弾銃を向けながら舌打ちする。
(厄介な個体が出てきやがった)
いくら素体がゴブリンでも、ここまで来ると話が違う。
上位種の変異種なんてややこしい表現だが、その強さは本物なのだ。
もはや別種と考えるべきだろう。
俺は散弾銃から魔弾を放とうとする。
刹那、ホブゴブリンの首が刎ね飛ばされた。
断面から真っ赤な血が噴出して床を濡らしていく。
脱力した死体が前のめりに倒れる。
回転する生首が天井にぶつかってから冒険者達の足下に転がった。
間もなく穴の奥で人影が動いた。
ホブゴブリンの死体を押し退けて現れたのは、剣と斧を持つ遺品商ゴルドだった。
ゴルドは意外そうな顔を発する。
「ありゃ、まさか店に繋がるとは……いやぁ、お騒がせしやした。ちょいと手間取っちまいましたね」
照れ臭そうに笑うゴルドは血みどろだった。
本人が負傷している様子はないので返り血だろう。
剣と斧にはべったりと血肉が付着しており、刃がボロボロに欠けている。
「どうしてお前がそこにいるんだ」
「冒険者の皆さんに頼まれて、迷宮でゴブリンの駆除をしてたんです。巣を破壊して追い立てていたら、なぜかここに通じていやした」
ゴルドは穴から這い出て説明する。
全身から悪臭が漂うのは、ゴブリンの巣を動き回っていたからか。
とりあえず鼻が曲がりそうだったので、俺はゴルドを屋内訓練場へと追い出す。
ついでに桶いっぱいの井戸水も渡しておいた。
今すぐに洗い落とせば多少はマシになるはずだ。




