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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第58話 団体客がやってきた

 夥しい量のゴブリンを調理していると、客の話し声に紛れて木の軋むような音が聞こえてきた。

 最初は気のせいかと思ったが、だんだんと大きくなっている。

 そのうち数人の冒険者が不思議そうな顔をした。


「ん? 何か変な音がしないか」


「声が聞こえるぞ」


「どこだ?」


 気付いた人間の視線が自然と一点に集まる。

 そこは入口にほど近いテーブルの下で、床板が明らかに膨らんでいた。

 内部から無理な力が加わっており、今にも突き破られそうだった。


 カウンター席にいた客が不審げな表情で俺に尋ねる。


「なあ、店長。ここの下ってどうなってるんだ?」


「何もない。ただの地面のはずだ」


 答えながら厨房を出て、不気味な挙動を続ける床に近付く。

 手には散弾銃を持っていた。

 引き金に指をかけていつでも撃てるようにする。


「落ち着け。下がっていろ」


 客に指示を出しながら歩みを進める。

 邪魔なテーブルを蹴飛ばして、銃口の狙いを床に定めた。


 床板に亀裂が走り、勢いよく割れて弾けた。

 そこから顔を出したのはゴブリンだ。

 ゴブリンは床板を剥がして無理やり侵入しようとしてくる。


「ギャッギャッギャ!」


「やかましい」


 散弾をぶち込んで黙らせる。

 頭部が破裂したゴブリンは突っ伏して動かなくなった。

 しかし、その下から新たなゴブリンが店に入ろうとしている。

 見えるだけでも五匹……実際はその倍は下らないだろう。


 俺は顔を出したゴブリンを次々と散弾銃で殺す。

 そして、一瞬の隙を利用して穴にテーブルを突っ込んで防いだ。

 厨房から取ってきた煮え滾る油を注いで妨害しておく。

 穴の奥からはゴブリンの悲鳴と怒声が沸き上がっていた。

 押し込んだテーブルを跳ね返して飛び出してきそうだ。


 その光景を見た冒険者達は騒然とする。


「ゴブリンが出やがった!」


「酔っ払ってる場合じゃねえぞォ!」


「この店は問題ばかりだなー」


 非常事態に慣れて冷静な奴もいるが、大多数が慌てて武装を整えていた。

 店から逃げ出す者はいない。

 そんな人間はこの街でやっていけないのだ。

 これがもっと強い魔物なら身を引くのも分かるが、相手は数が多いだけのゴブリンである。

 油断しなければ命の危機には陥らない。

 何より俺やメルがいれば心配いらないと思っているのだと思う。


 俺は弾切れの散弾銃の装填を行う。

 給仕を中断したメルは、両手にナイフを持って穴を見た。


「倒しに行った方がいいですか」


「いや、どこに繋がっているかも分からないから危険だ。まずは這い出てきた奴らを迎え撃つ」


 穴の隙間からゴブリンが腕を伸ばす。

 メルのナイフが手のひらを突き刺して床に縫い付けた。

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