第56話 ゴブリン問題
最近、迷宮でゴブリンが大量に出没するらしい。
頻繁に怪我人が運び出されたり、誘拐される出来事が増えてきた。
中層辺りに巨大な巣があるらしい、と駆除に向かう冒険者から聞いた。
巣の破壊となると、かなりの手間が確約されている。
しばらくは探索どころではないだろう。
ゴブリンとは、弱い魔物の代表例である。
馬鹿で小柄で力が弱く、戦闘技術も拙い。
おまけに痛みに敏感ですぐに喚く。
単体との正面戦闘では、駆け出しの冒険者でも倒せるだろう。
戦いに慣れていない村人でもほぼ負けない。
間違いなく雑魚と言える。
しかし、一方で油断ならない性質も持っていた。
まずゴブリンは基本的に集団で活動する。
単体では弱くても、数に任せた攻撃は厄介だ。
状況次第では押し切られることも珍しくなかった。
奴らの知能は低いものの、簡単な罠を張る程度の工夫は見せる。
縄張りに入った冒険者があえなく殺されるというのはよく聞く話だ。
しかも迷宮のゴブリンは冒険者の遺品を装備しており、時には魔術効果を付与された武器を扱う。
戦い方が下手でも十分な脅威になり得るのだ。
そして、ゴブリンの最大の強みは繁殖力である。
周期が極端に短く、多産でどの種族でも平気で孕ませることができる。
雄しか産まれない生態など欠点にならず、巣にはだいたい捕まった女がいる。
さらに低確率で母体の種族特性を引き継ぐため、やたらと強い変異種のゴブリンが誕生することもある。
世界のどこかには、竜から産まれたドラゴニュートゴブリンだけが支配する砦が存在するそうだ。
想像するだけで厄介すぎる。
その砦がある国は討伐を諦めているらしいが、まあ妥当な判断だろう。
下手に刺激すると、反撃で国が滅亡しかねない。
ようするに貧弱なゴブリンでも、場合によっては災厄級の魔物になるわけだ。
狭い迷宮内で数十匹に囲まれたら面倒なことになるのは言うまでもない。
たとえ根絶が難しくても、定期的な駆除で総数を減らすことに意味がある。
冒険者にとっては半ば義務のようなものだった。
近頃は街に第三騎士団がいるため、彼らも参戦するはずだ。
特に団長のダウスは飛び抜けた実力を持つという。
人肉スープを噴き出した印象が強いが、確かにあいつは只者ではなさそうだった。
もし変異種のゴブリンが束になっても敵う相手ではないだろう。
何にしても、ここで店をする俺には無関係な話である。
誰がどうなろうと営業には響くことはない。
気ままに続報を待とうではないか。




