第55話 できたてのスープはいかが?
俺は鍋で温めてあるスープをよそってカウンター席に置いた。
騎士団長は美味そうに飲んで息を吐き、思い出したように言う。
「それと、第二騎士団と繋がりのあった貴族が仕掛けてくるかもしれない。あんたのせいで損害を受けた奴は多い。王国とは無関係の勢力だから、くれぐれも気を付けてくれ」
「……国が白を切るための言い訳か」
「違う。やり返しても問題にはならないってことだ。正体不明の犯罪者を殺しても、ギアレスでは大した騒ぎにならねえだろ。国の方針を守らない馬鹿どもだ。容赦なくぶっ飛ばしてくれ」
皮肉っぽく笑う騎士団長はどこか開き直っていた。
色々と面倒事が重なってやけになっているのかもしれない。
俺は片手で拳銃を回しながら提案する。
「邪魔な奴らを俺に差し向けたらどうだ。有料で消してやるよ」
「本気で便利そうだから誘わないでくれ……」
騎士団長は呆れと嘆きを同時に見せる。
まだ倫理や良心は残っていたようだ。
いや、ここで承諾した場合の問題を想像したのか。
第二騎士団の壊滅以上の損害が出るとなると、彼の責任追及にも及びかねない。
様々な可能性を危惧したように見える。
「今後、ギアレスにも第三騎士団の詰め所が設置されることになった。治安向上……は諦めるとして、迷宮調査が主な任務だな。俺もしばらくは滞在するが、この店に迷惑はかけないと約束しよう。それでも問題が起きた時は、第三騎士団長ダウスの名を出してくれ」
「分かった」
「他に何か要求はあるか?」
騎士団長ことダウスは親切そうに尋ねてくる。
ここで恩を売りつつ、協力関係を結んでおきたいのだろう。
俺は鍋を掻き混ぜながら答える。
「迷宮で魔物を狩ったら、死骸を店に寄越してくれ。金は払う」
「そんなことでいいのか」
「材料費が浮くんでな。普通に助かる」
「よし、了解した。格安で魔物を融通させてもらう。任せておけ」
ダウスは胸を叩いて立ち上がった。
俺は空になった皿を片付けながら呟く。
「人肉スープも作り飽きていたところだ。これでようやく料理の種類を増やせる」
「じ、人肉だって……?」
動きを止めたダウスが鍋を凝視した。
その時、やり取りを静観していたリターナが、自信ありげに発言する。
「自分の味はどうだろう。それなりに評判なんだがね」
次の瞬間、ダウスは飲んだばかりのスープを噴き出した。




