第53話 中間管理職ほど辛いものはない
騎士団長を名乗る赤髪の男は、真剣な態度で説明を始める。
まず彼が語ったのは、王国騎士団の組織図だった。
事の発端を語るにあたって必要なのだという。
王国騎士団は役割に合わせて三つに分類される。
城の守護を専門とする少数精鋭の第一騎士団。
主に貴族の縁者で構成された第二騎士団。
そして、王国全域の警備や治安向上を担当する第三騎士団である。
俺の店を襲撃したのは第二騎士団だった。
王都に拠点を持つ彼らは誇りや面子を重視し、平民を見下している。
騎士になったのも大半は出世や箔付けのためで、職務に対する意識は低い。
ただし資金面は潤沢なので、高品質な装備や設備や指導を揃えることで一定の戦力を確保していた。
優秀な人間を他組織から引き抜いていたのも大きいそうだ。
華々しさで言えば、三つの騎士団の中でも圧倒的らしい。
まあ、言ってしまえばお飾り軍団である。
もっとも、たくさんの有力貴族と癒着しているせいで誰も口を挟めない。
高圧的な態度は民からも嫌われており、騎士の評判を落としていた。
裏を返せば、民と権力者の立場の違いを突き付けて広める役割とも言えよう。
そんな第二騎士団の任務は、国内各地の調査である。
様々な問題を現地に出向いて解決するのだ。
ただし、命がけの仕事は避けたがる傾向にあり、第三騎士団に押し付けるか、役に立ちそうな人間を臨時で雇って使い捨てることが多いらしい。
そのくせに手柄は横取りしようとするのだという。
「最低な奴らだな」
「そうなんだよ。文句を言っても通じないから性質が悪い。貴族じゃなけりゃ叩き斬ってるところだ」
「貴族だろうが遠慮なく殺せばいい」
「あんたの場合は冗談じゃねえんだよなぁ……」
騎士団長は乾いた笑いを洩らす。
あえて訊くような真似はしないが、この前のゴタゴタは大問題になったのだろう。
貴族関連の騎士が数十人も死んだのだ。
さすがに無視できない事態である。
同じ騎士団の長ならば、さぞ事後処理に苦労したに違いない。
こうして店まで来て謝罪と事情説明をしているのも任務に違いなかった。
実に損な役回りだと思う。
議論の末、貴族連中から丸投げされたのではないかと睨んでいる。
騎士として偉くなったところで、国の上層部には歯向かえないのだ。
地位を得るほど守らねばならない物も増えて、身動きが取りづらくなっていく。
真摯な態度で俺と対峙する騎士団長からは、板挟みとなった者の哀愁やら悩みが窺えた。
豪快な風貌と言動で隠しているが、なかなかの苦労人のようだ。




