第51話 どうしようもなく悪化する食事情
最近、冒険者から提供される魔物肉の量が減っている。
原因は分かっていた。
俺達のやり方を知った他の飲食店が同様のサービスを始めたのだ。
そっちに魔物肉が運ばれるせいで、俺達のもとに届く量にも影響が出ている。
まあ、予想はできていた事態だ。
魔物肉の調理はそこまで難しくない。
専門技能を持たない俺がこなせるほどである。
知識さえあれば無毒化が可能で、味も許容範囲に落ち着く。
本職の料理人なら尚更だろう。
店の売り上げも良いので、真っ当な食材を仕入れることはできる。
しかし、当然ながら金はかかる。
出費が跳ね上がるため、売り上げも実質的に低下してしまう。
そもそも客の冒険者は細かい味なんて気にしない。
質の良い食材をわざわざ用意する意味は薄い。
いっそ俺かメルが迷宮に潜って魔物肉を調達するという手もあるが、それでは店の営業に支障が出る。
余計な手間がかかるのも避けたいところだった。
色々と考えた結果、俺は一つの対策を閃いた。
それは、リターナを最大限に利用するというものだ。
具体的には彼女の肉を削ぎ落とし、食材として使うようになった。
生肉だと薬液漬けなので有毒だが、いくつかの工程を踏んで中和すると辛うじて食うことができた。
ちなみに中和方法はリターナの考案である。
彼女は自分の成分を調べることに喜びを見出していた。
そこからは調理方法を模索して味の向上に努めた。
リターナは無限に再生するため、いくらでも試行錯誤ができる。
彼女自身も非常に協力的で、積極的に調理法を提案してきた。
おかげで店の新料理にできたものもある。
もっとも、切り刻まれるリターナが自らの肉の加工について乗り気で話す様は常軌を逸していただろう。
実際、客の冒険者からも何度か苦情が出ていた。
荒くれ者である彼らも、さすがに精神的に堪える部分があるらしい。
それを知れたのも収穫の一つかもしれない。
リターナの肉を使った料理は瞬く間に人気となった。
価格が安く、味も悪くないと評判である。
たまに薬液の成分が残っており、冒険者が奇妙な症状を負っているが、そこはなんとなく黙認されていた。
ギアレスでは食中毒など日常に等しい。
腹を壊す奴がいたら、そいつの軟弱さを笑うような風潮なのだ。
俺にとって故郷ではあるが、どうしようもない場所だった。




