第50話 一難去って今度は百難
翌日以降、屋内訓練場では冒険者と戦うゴルドの姿があった。
ゴルドは暴走せず、剣と斧を巧みに使った戦法を披露している。
話し合いの結果、ゴルドには冒険者の訓練相手を担当してもらうことになった。
遺品商の合間になるが、それでも十分に好評だった。
ゴルドの技量は高く、さらに堅実な立ち回りなので人気なのだ。
正直、俺やメルの戦い方は他者が参考にしづらい部分があるのだが、ゴルドの武器捌きは基礎の延長線にある。
だから冒険者にとっては良い見本となるのだ。
ゴルドの集めた遺品の売れ行きも順調だった。
新品には手の届かない冒険者が特に愛用している。
予備の武器を買うのにちょうどいいという声も聞く。
迷宮探索において、武器が破損する場面は意外と多い。
そんな時に予備がないと丸腰になってしまう。
当然ながら生還率は劇的に下がる。
安価な予備武器を携帯しておくことは、命知らずな冒険者の中でも常識であった。
(まあ、一件落着だな)
俺は訓練風景を眺めながら頷く。
何人か冒険者が死んだが、そんなことをいちいち気にする奴はいない。
ここは混沌都市ギアレスだ。
命に価値など無く、欲望と犯罪が日常となった街である。
いくら迷宮が発生したと言っても、まともな人間が居着く場所ではない。
隣で鎖に縛られたリターナが身じろぎした。
彼女は毒気のない微笑みを見せる。
「また店がにぎやかになったね。実に良いことじゃないか」
「なるべく面倒事は避けたいけどな」
「ははは、諦めたまえ。これからもどんどん盛り上がっていくだろうね。ここはそういう所なのだよ」
笑うリターナを思わずぶん殴りたくなったが、そんなことをしても意味がない。
頭を銃弾で吹き飛ばされても気にしない女なのだ。
俺の拳が痛むだけである。
そして、彼女の予想が当たると思っている自分に嫌気が差した。
迷宮が存在する限り、隣接するこの店では様々な問題が起こるだろう。
騎士団との因縁も残されている。
いずれ王都の貴族どもが干渉してくるに違いない。
並の人間なら胃痛で倒れかねない状況である。
俺は嘆息混じりにぼやく。
「お前が大人しけりゃ、だいぶ心労が減るんだがな」
「無理な望みは捨てるべきだよ、店長」
「くそったれが」
俺は拳銃を発砲しようとしたが、弾の無駄遣いなのでやめた。




