第48話 食中毒リターンズ
メルと共に屋内訓練場へと移動する。
戦闘態勢に入った冒険者達の中央では、ゴルドが大暴れしていた。
普段は猫背気味の姿勢が軽減されて、威圧感のある長身となっている。
長い両腕が剣と斧を握り、豪快に振り回していた。
ローブから見え隠れする四肢は、引き締まった筋肉で構成されている。
おまけに全身が濃密な魔力で包まれており、まるで鎧のような防御力を発揮していた。
あれでは生半可な攻撃は通じないだろう。
貫通力を上げた魔弾ですら怪しい。
迷宮に潜って遺品を回収する力量は伊達ではなかったのだ。
周囲から仕掛けてくる冒険者に対し、ゴルドは剣や斧で弾き飛ばすことで応じていた。
冒険者達は力負けして軽々と転がされている。
当たり所が悪かったのか、真っ二つにされた死体も散らばっていた。
分析するまでもなく、相当な怪力である。
俺は両手に拳銃を携えてぼやく。
「おいおい、派手にやってるな。アレックスと戦わせたくなるぞ」
「冗談言ってる場合じゃないです」
「分かってる。さっさと叩き潰すか」
そう言って踏み出そうとした俺はふと立ち止まった。
気になったことがあるのでメルに確認する。
「ちなみに何かきっかけはあったのか?」
「料理を食べた直後に苦しみ出して、いきなり暴れ始めました」
「そうか……」
メルが意味深な目を向けてくる。
彼女は、俺の頭を過ぎった疑念を率直に訊いてきた。
「もしかして店長の料理が原因ですか」
「いや、違うだろ。あの料理は他の客が食べても平気だった」
「でも食事のすぐ後に暴走しました」
「…………」
俺は黙り込む。
魔物料理には未知の成分が含まれている。
試行錯誤とリターナの助言によって安全な調理法を確立しつつあるが、危険が完全に解消されたわけではない。
体質によっては暴走を引き起こす可能性も十分にあった。
(だとしたら差し入れを運ばせた俺の責任になるのか)
その時、冒険者達が俺の姿に気付いた。
彼らは素早く道を開けて、巻き込まれないように遠ざかる。
実力面で信頼されている証拠だ。
特に最近は騎士団を返り討ちにした実績があるので余計だろう。
俺は身構えるゴルドと対峙する。
仮面の奥に覗く双眸からは、人間としての知性が欠落していた。
煮え滾った殺意を全開にして見下ろしてくる。
俺は拳銃の引き金に指をかけてメルに指示をする。
「殺さずに無力化するぞ。ゴルド本人が何か事情を知っているかもしれない」
「了解です」
甲高い奇声を上げたゴルドが、斧と剣を振り下ろしてきた。




