第47話 平穏は騒動の前触れ
翌日から、屋内訓練場の一角で遺品売りが始まった。
大きな布を地面に敷いて、その上に商品が並べられている。
すべて迷宮で死んだ冒険者の装備だ。
破損した物も修繕された状態で陳列されていた。
価格は羊皮紙の切れ端に記して貼り付けられている。
相場から考えるとかなり割安であった。
取り仕切るのは例の遺品商の男だ。
名はゴルドで、怪しげな風貌とは裏腹に口が達者で商売が上手い。
訓練場を訪れた冒険者からも概ね好評だった。
これを機に装備を変更する者が続出しているという。
屋内訓練場へ向かう客を横目に、俺は空になった大皿を洗っていた。
天井から吊られたリターナが話を振ってくる。
「君は彼を信用したのかな?」
「まだ分からないが、少なくともお前よりは安全だ」
「やれやれ、否定できないのが辛いところだね」
「せめて否定しろよ」
リターナの調合する薬も相変わらず人気だ。
土壇場で命を救われた冒険者が礼を言いに来る場面を何度も見ている。
単純に性能が高く、手が出しやすい価格なので重宝されていた。
ただし、ギルドマスターのアレックスは依然として筋肉の怪物のままらしい。
薬の服用をやめず、それどころか摂取量を増やしているのだそうだ。
リターナも無償で新薬を提供しているため、もはや手遅れだと思っている。
他の冒険者には被害が出ていないものの、リターナが危険人物であることは間違いなかった。
俺は数種の料理を載せた皿をメルに渡して告げる。
「これをゴルドに持っていってくれ。代金は不要だ」
「了解です」
メルは颯爽と屋内訓練場へと消える。
時刻は昼過ぎだ。
ゴルドも腹を空かしている頃と思われる。
魔物肉をふんだんに使った料理だが、別に材料を言わなければ気にならないはずだ。
やり取りを見ていたリターナが意外そうに言う。
「妙に気前が良いね」
「あいつの商売で店が儲かりそうだからな。これくらいの気遣いはしといて損はないだろ」
事実、遺品商の存在によって客入りが増加していた。
街中でも話題になっているそうだ。
「この店を手を組もうとするなんて狂人しかいないと思うがね」
「暴言すぎるだろうが」
「適切な表現と言ってくれよ」
そんな風に世間話をしていると、屋内訓練場から轟音が鳴り響いた。
何やら騒然としている。
間もなくメルが急いで戻ってきた。
「店長、大変です」
「どうした」
「ゴルドが冒険者を殺してます」
その報告を聞いた俺はため息を吐く。
リターナが「ほら、やっぱり」と呟いた。




