第46話 怪しい営業
ある日、怪しい風体の男が店にやってきた。
ズタボロのローブを頭から被り、顔は木製の仮面で隠している。
かなりの猫背で小柄に見えるが実際は長身ではないか。
ふらつきながら歩く男は、はち切れそうなほど物が詰め込まれた鞄を引きずっていた。
店で飲んでいた客達も会話を止めて注目する。
異様な雰囲気の男は俺の前まで来た。
そしてしゃがれた声で話しかけてくる。
「旦那、ちょいと話を聞いてくれやすかい。美味い商談に興味はありやせんかね」
「帰れ。怪しい客はお断りだ」
「それを言ったら怪しい奴だらけじゃないですか」
「まあ確かに」
周囲の冒険者を見て頷くと、彼らは笑いながら文句を飛ばしてきた。
ギアレスの住人なんて犯罪者と同義に等しい。
元より無法者ばかりで構成された街なのだ。
怪しくない人間を探す方が難しいくらいである。
俺は拳銃に手を伸ばしつつ尋ねた。
「何の用だ」
「あっしの商品を店で売らせてくれやしませんか。客入りは増えるんで損はさせやせんぜ」
そう言って男は鞄を開けて中身を見せてくる。
血や泥で汚れた武器が大量に入っていた。
刃が欠けている物もあり、新品でないのが一目で分かる。
俺は男の正体を察した。
「遺品商か」
「ええ、死体から装備を剥ぎ取って売るちんけな人間です。品は迷宮でいくらでも見つかるもんで金はかかりやせんね。冒険者の皆さんからも贔屓にしてもらっていやす」
男の言い分に納得する。
迷宮では毎日のように冒険者が死ぬ。
そいつらの遺品を回収すれば、立派な商品になるわけだ。
安く装備を揃えたい冒険者からの需要は高い。
遺品だろうと気にしない奴は多いのである。
よく見ると遺品商の身体つきは屈強だ。
地力で迷宮に潜り、遺品を集められるだけの実力は備えているらしい。
手の皮は岩のように厚く、ごつごつとしたタコができている。
俺はその手の形に既視感を覚えて指摘した。
「お前、鍛冶の技能も持っているな」
「――気付きやしたか。壊れかけの遺品でも鍛え直せば立派な商品になりやすからね。不良品を売らないのが信条なんです」
「風貌の割に善良だな」
「クカカカ、よく言われやす」
遺品商は奇妙な笑い声を洩らす。
見た目はこの上なく不審者だが、性格面は意外とまともらしい。
少なくとも悪意は感じられなかった。
こいつの提案を呑むかはともかく、仲良くする分には問題も起きなさそうだ。




