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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第45話 誰だって隠したい過去がある

 既に酔っ払った常連客が店に入ってきた。

 危うい足取りでカウンター席に座ったその男は、上機嫌な様子で話しかけてくる。


「よう、店長。騎士団を殺しまくったんだってな。滅茶苦茶やりやがるぜ」


「正当防衛だ」


「連射銃でミンチにするのは違うだろ」


 男は愉快そうに大笑いする。

 そういえば、こいつは騎士団……正確には王国政権が嫌いなのだった。

 奴らが大損害を受けたのは痛快な出来事なのだろう。

 ちなみにこの店と騎士団の対決で賭けが行われており、そこで大勝ちしたのも知っている。

 あれだけの事件も、冒険者達にとっては娯楽に過ぎないのだ。


 男は前のめりになって尋ねてくる。


「どんな戦いだったのか教えてくれよ。噂だけじゃ物足りなくてな」


「高い酒を注文したら話してやる」


「はは、商売上手かよ」


 そんな風に言いながらも、男はこの店で一番高価な酒を注文する。

 懐が温まった者はやはり気前が良い。

 魔物肉のベーコンもサービスで提供しつつ、俺は今回の一件について説明を始める。


 脚色はせず、かと言って内容は端折らない。

 俺の主観で正確な情報を伝えるように心がけた。

 最後まで熱心に聞いた男は、探るような目つきで問いかけてくる。


「今更だが、なんで喫茶店やってるんだ。冒険者になって迷宮に潜れば一攫千金も夢じゃないぜ?」


「俺は気ままに余生を過ごしたい。迷宮探索なんて早死にするだけだ」


「そんなに命が大事ならギアレスで仕事するなよ……」


 男は呆れた調子で嘆息を洩らす。

 それからさりげなく酒を置くと、ふざけた表情を消して切り出した。


「なあ、店長って元傭兵だろ」


「それがどうした」


「結構有名だったんじゃないか? あんたほどの実力なら嫌でも目立つと思うな」


 男の目からは、興味関心が感じられた。

 それと、騎士団に平気で喧嘩を売る人間への警戒心だ。

 疑問に思うのも当然だろう。

 狂ったことをしているのは自覚している。

 その上で俺は淡々と応じた。


「……過去を詮索するのは野暮だ。やめておけ」


「勿体ぶるなよー、秘密にするから教えてくれよー」


「黙れ、ぶっ飛ばすぞ」


 それから何度か探りを入れられたが、俺は強引にはぐらかした。

 男も諦めて何も訊かなくなり、謝罪とばかりに色々な酒と料理を頼み、腹いっぱいになって出て行った。

 俺の素性に触れてくる客は珍しくない。

 店に通ううちに興味を抱いてしまうのだろう。


 ただ、律儀に明かしてやる義理もなかった。

 ギアレスの住人の大半は、何かしら暗い事情を持っている。

 他ではやっていけないからここで暮らしているのだ。

 俺もその一人というだけであった。

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