第43話 後先考えずに暴れ尽くす
俺は散弾銃を片手に店の外に意識を向ける。
生き残りの騎士の緊張が伝わってきた。
飛び込むだけの無謀さはなく、逃げ出すほど無責任ではない。
なんとも中途半端な連中である。
俺は声を張って呼びかけた。
「おい、そろそろ終わりにしねえか。いい加減そっちも懲りただろ。俺達に報復するのは諦めろ」
返答はない。
ただこちらの言葉に耳を傾けているのは気配で分かった。
俺は淡々と話を続ける。
「別にこのまま続けるのも構わんがね。お前らを皆殺しにするだけだ。面倒だが難しいことでもない。脅しじゃないのはよく分かっているはずだ」
何も大げさではない。
純粋な事実である。
それを実行に移すのに躊躇いなど存在しなかった。
ここまで来たら追加で何人殺そうと変わらない。
まとめて植物の魔物の養分にするだけだ。
暫し待っていると、悲痛な面持ちの女騎士ルシアが店内に入ってきた。
両手を頭の後ろで組んだ彼女は武装を外している。
それは明確な無抵抗の主張だった。
ルシアは静かに涙を流して懇願する。
「もう、やめてください……」
「寝ぼけてんのか。いきなり攻め込んできたのはお前らだろうが。店を滅茶苦茶に壊しやがって」
「入口周辺は君の銃撃のせいだけどね」
余計な口を挟んできたリターナの頭を魔弾で吹き飛ばす。
それを見たルシアは愕然として凍り付いた。
俺は感情を込めずに告げる。
「謝罪は不要だ。ただ自分の犯した罪を償え」
ルシアの顎を掴んで無理やり開けさせる。
そこに小さな枝の破片を放り込んだ。
すぐさまメルの持ってきた瓶をくわえさせて、中の水を一気に流し込む。
「吐き出すな。飲み込め」
驚くルシアはなんとか嚥下した。
彼女に飲ませた枝の破片は、もちろん樹木の魔物の一部である。
俺はそれを説明した上で忠告する。
「また店の邪魔をしてみろ。お前の腹を突き破って木が生えてくるぞ」
「そ、そんな」
「文句を言うなよ。お前はそれだけ馬鹿げたことをしたんだ。存分に後悔しとけ」
俺はルシアを突き飛ばして店の外へと追いやる。
彼女の背中にもう一度だけ警告の言葉を投げかけた。
「忘れるなよ。いつでも殺せるからな」
ルシアは恐怖に煽られて逃げ去った。
他の騎士の足音も遠ざかっていく。
そのうち冒険者の客が店内を覗き始めて、散乱する死体を目にして顔を歪めた。
一部始終を見物していたに違いない。
なんとも勝手な連中である。
俺は散弾銃を捨てて厨房へと戻った。
「さて、掃除するか。今夜から営業再開させるぞ」
「相変わらず容赦がないね」
「当たり前だろ。徹底的にやらないと図に乗るからな」
起き上がったリターナに応じつつ、死体の装備を剥いでいく。
死体は腐る前に養分にすればいい。
俺は後始末を進めながら語る。
「今回の損害で騎士団もしばらくは大人しくなる。その間に防衛設備を充実させるか。あの女はしっかり脅したが、王都の貴族が引き下がるとは思えない。どうせ潰しにかかってくるだろうな」
「何か対策はあるのかな」
「これから考える。まあ、なんとかなるだろ」
とりあえず騎士団は追い払った。
直近の問題は解決したと言えよう。
個人的にはそこそこ楽しめたいので悪くない時間だった。
現役復帰は考えていないが、たまにはこういった事件も必要だと思った。




