第33話 厄介な誘いは向こうからやってきがち
ギアレスの迷宮は順調に探索が進んでいるらしい。
冒険者の間で攻略法も共有されており、死傷者は僅かに減少傾向にあるそうだ。
それでも無謀な連中はいるため、迷宮から帰還してこない人間は多い。
些細な油断が死に直結する場所なのだ。
金欠の新人なんかは特に痛い目に遭いやすい。
なんとか生き残り、反省して再挑戦できるのなら幸運だろう。
当然ながらこの店を利用する顔ぶれも変わっている。
しばらく見ないと思った常連客が死んでいたり、怪我で引退することは珍しくない。
かと思えば新人が慣れない酒で目を回していることもある。
魔物料理で腹を壊し、それを周りに笑われるのも恒例行事だな。
どいつも馬鹿騒ぎして楽しんでいる。
何日か前から王都からも騎士団が来ているという。
このギアレスに来訪するなんて異常事態だ。
迷宮がそれだけ重要視されているというわけである。
資源としての価値が立証されれば、ギアレスを管理する動きが出てくるかもしれない。
色々と面倒なことになりそうだ。
今後について考えながら食器を拭いていると、常連客の数人が近付いてきた。
どうやら追加注文ではなさそうである。
そのうち一人がいきなり懇願した。
「店長、頼む! 迷宮探索に付き合ってくれ」
「断る。いきなり何なんだ」
「スケルトンの魔術師が大量に出てくる階層があってな。遠距離攻撃できる奴の手を借りたいんだ」
話しかけてきた冒険者達は、剣士が大半だった。
弓使いもいるが手数が足りないだろう。
術を扱う魔物に苦戦するのは納得である。
「魔術師が相手なら魔術師に頼めよ。それか銃使いの冒険者でもいいだろ」
「勧誘も難しいんだよ……優秀な奴なんてすぐに引き抜かれるからな」
「店長がいれば完璧なんだよ。とんでもなく強いのは知ってるし、人格的にも……まあ信頼できないことはないな、うん」
「とにかく頼りになるってことさ!」
冒険者達は失言を誤魔化そうとする。
こいつらは口の軽さが弱点だな。
酒のせいで余計な舌が回るそうになっているようだ。
「店長が駄目ならメルちゃんに頼んでもいいかい」
「やめろ。店を人手不足にしたら撃ち殺すぞ」
「割と冗談じゃないのが怖いよな……」
俺が客を射殺した出来事はギアレスの冒険者の間で有名になっていた。
だから店で問題を起こす人間は非常に少ない。
客層の割には治安が良いのではないか。
まあその話はいい。
とにかく彼らの頼みを請け負うつもりはなかった。
それをしっかりと伝えねばならない。
「俺は冒険者じゃない。傭兵も引退した。店も十分に儲かっている。だから誰が何と言おうと迷宮には――」
「ここに優秀な魔弾使いがいると聞いたのだけれど」
言葉を遮るようにして、凛とした声が室内に響く。
店に入ってきたのは、王国騎士団の鎧を纏う若い女だった。




