第18話 なんだかんだで金は正義
先日、大量の負傷者が出た迷宮探索だが、別に自粛や躊躇いが生まれることはなかった。
冒険者達は当然のように挑戦し、稼ぎを得るか死んでアンデッドの仲間入りを果たす。
ああいった事故は日常の出来事なのだ。
怖気づいて迷宮から離れるような奴は、そもそも冒険者なんかやらない。
彼らは命知らずの代名詞とも言える存在なのである。
したがって俺の店の繁盛ぶりも変わらない。
ほぼ常に冒険者が入り浸り、適当な理由で酒を浴びるように飲んでいた。
食事が魔物の死骸になっても、成長した樹木が天井を覆い尽くしても、不死身の女が首吊りになっても客足は遠のかない。
ついでに俺やメルが迷惑な客を殺しても驚かず、それどころか拍手喝采で喜ぶのだから狂っている。
ある意味、迷宮の中より危険な場所かもしれない。
ちなみにリターナは店で医者と薬屋を兼任している。
協議の結果、彼女の技能を活かすことにしたのだ。
怪我をした冒険者は、有料で彼女の治療を受けることができる。
材料を持ち込めば薬の調合依頼も可能だ。
どちらのサービスも相場と比べて格安で効果も高い。
そのため冒険者からはさっそく歓迎されていた。
加えて自己責任になるが、違法な人体改造も請け負っている。
魔物の特性を発現する薬液を注入し、人外の力を手に入れることができるのだ。
まだ希望者はいないものの、興味を持っている者は少なくない。
そう遠くないうちに無謀な冒険者が挑戦するだろう。
副作用で暴走する馬鹿が現れるのは時間の問題と思われる。
これについては黙認するつもりだ。
どうせリターナの狂気は止められない。
ならば前向きに捉えて、金儲けに利用する方がいい。
もしも誰かが魔物になったら、その時は撃ち殺すだけだ。
別に難しい話ではなかった。
吊られるリターナの足下には薬品棚がある。
そこに彼女の調合した薬が用途ごとに置かれていた。
危険な効能を持つ物については、施錠した上で厳重に保管している。
盗みを働く人間がいればすぐに分かる。
リターナ製の薬は飛ぶように売れていた。
特に栄養剤や痛み止め、止血剤が人気である。
迷宮探索で役立つからだろう。
ちなみにオークを主原料とする精力剤も需要が高く、最近は品切れが続いている。
冒険者の持ち込む材料だけで薬が量産できるため、こっちは材料費の負担すらない。
リターナをぶら下げておくだけで大量の金が舞い込んでくるのだ。
最初は厄介な女だと思ったが、今では感謝すらしていた。




