第12話 倒せば仲間になるお王道パターン
トロールが店内で暴走を続ける。
客の冒険者が止めようとしているが一網打尽にされていた。
厄介なことに、トロールは通常の個体より強いようだ。
皮膚の硬さが顕著で、冒険者の攻撃が通じないのである。
魔術耐性もあるのか効きが悪い。
それで力任せの接近戦に持ち込んでくるのだから、かなり面倒な魔物だった。
正攻法で殺すのは至難の業だろう。
リターナは熱心にトロールを観察し、ぶつぶつと独り言を洩らす。
おそらく自作であろう薬の効果を確認しているのだ。
瞬き一つせずにトロールの状態を分析していた。
この時点で俺は理解する。
リターナは狂っている。
彼女は良心が抜け落ちた人間で、この惨状を平然と生み出せるのだ。
悪意が無いものの、やっていることは外道であった。
治療行為とは名ばかりの人体改造を、己の探求心に従って実行している。
嫌な予感が的中したわけだ。
メルがナイフを持ってこちらを見た。
難敵を前に不安や恐れは一切感じていない。
「店長」
「おう、やるぞ」
俺は頷いて、トロールになった冒険者に銃撃を見舞った。
額に弾丸がめり込むも、殺害には至らない。
やはり皮膚が硬すぎて威力が落ちてしまっている。
攻撃に腹を立てたトロールが突進してきた。
腕を回して殴りかかろうとしている。
あんな一撃を受けたら普通に死ぬ。
かと言って、俺が動揺することはない。
生死を懸けた殺し合いなんて慣れたものだった。
俺は狙いを定めて銃を連射する。
二発の弾がトロールの両目を撃ち抜いた。
これにはさすがのトロールも怯み、突進を中断する。
目玉が潰れて血の涙を流していた。
俺は無防備に開かれた口に一発撃ち込む。
トロールは咳き込んで膝をつく。
それでも諦めずに動こうとした瞬間、踏み込みに使った足の小指を銃撃する。
重心が崩れたトロールは、近くの机を巻き込んで転倒した。
そこにメルが襲いかかってナイフで首を切断する。
僅かな反撃を許さない鮮やかな一撃だった。
あの硬い皮膚を切り裂けたのは、メルの技量によるものだろう。
首を失ったトロールは、鮮血をこぼすばかりで動かなくなる。
そこに樹木から伸びた枝が絡まり、根元まで引きずって養分にし始めた。
黒い巨体はあっという間に枝に埋もれて見えなくなる。
無事な心臓を新たな核にするつもりのようだ。
またもや暴走するかと思い、俺は銃口を樹木に向ける。
ところが樹木は大人しい。
十分すぎる養分を得たはずなのに不自然だ。
まるでこちらを窺っているかのように静かである。
やがて樹木の枝が倒れたテーブルや椅子を直していく。
食器も机の上に置き、散乱した料理だけは養分にしている。
片付けを済ませるとまた静かになった。
(手伝いのつもりか?)
一度勝利したことで、上下関係を認識したのかもしれない。
樹木も魔物だ。
それなりの知性はある。
この種類は成長すると意思疎通が可能となる個体もいるそうなので、別におかしな話ではなかった。
無給で働かせられる従業員が増えたのだと考えれば得をした気分だ。




