第100話 悪党の命は羽より軽い
辺境伯がソグを見下ろす。
怒りとも呆れとも取れる様子で彼女は言った。
「ふむ。お主が統括騎士か。情けない姿じゃな」
辺境伯がソグの首を掴み、顔の高さまで持ち上げる。
枝が彼女の腕にも絡みつくが、一向に気にしていない。
深く息を吐いた辺境伯はソグを睨み付ける。
「ワシの街を滅茶苦茶にした罪を償ってもらうぞ」
無造作に腕が動き、ソグを床に叩きつける。
轟音と共に衝撃波が発生した。
高所から見守る俺のところまで震動が届いている。
保存庫に亀裂が入って建物全体が揺れていた。
サズが補強していなければとっくに倒壊しているだろう。
床に倒れたソグは潰れていた。
即死かと思いきや、痙攣しながらも声を上げている。
自動回復が発動しているようだ。
叩きつけられた弾みでサズの枝が破損し、鎧の機能が復旧したらしい。
(まあ、苦しみが続くって意味では不運だな)
辺境伯がソグを持ち上げて、再び叩き付けた。
さらに何度も踏みつけてから執拗に殴る。
一撃が魔獣を木っ端微塵にする殺傷力があるのだ。
ソグの苦痛は想像を絶する。
装備が優秀なせいで、彼は地獄を味わっていた。
数十回の叩きつけが終わった頃には、ソグは原形を失っていた。
肉と枝が混ざった物体と化している。
血みどろでどこか顔なのかも判別がつかない。
鎧も壊れたようで、自動回復があまり働いていなかった。
そんな塊を辺境伯が掴み上げてぼやく。
「しぶとい男じゃ。よほど高位の精霊と契約しているらしい。宝の持ち腐れじゃな」
辺境伯の雰囲気が変わる。
ついにとどめを刺すつもりらしい。
直感的に察した俺は、素早く地下二階まで下りて制止する。
「待ってくれ。殺さない方がいい」
「なぜじゃ」
「こいつの立場を利用して隣国に圧力をかけるべきだ。今後の交渉で有利になるだろ」
俺の主張を聞いた辺境伯は苦い顔をする。
彼女は不満そうな声を洩らした。
「ううむ……街を壊した責任は取らせたいのじゃが」
「十分に報いは受けている。あとは政治的にこき使ってやろうぜ」
俺はソグを一瞥する。
辛うじて意識はあるであろうそいつに淡々と用件を伝えた。
「おい、話は聞いていたな? 死にたくなけりゃ俺達の奴隷になれ」
しばらく待つと、自動回復によってソグの顔が分かった。
彼は俺を見ながら返答する。
「……ふざけ、るな。誰が、貴様らの……言うこと、など……」
「強がるなよ。お前は終わりだ。逆らう分だけ損をする」
ソグが口から血を吐いた。
それは俺の頬を汚す。
掠れた声でソグは言う。
「呪ってやる」
「おっと手が滑った」
俺の放った弾丸がソグの額を貫いた。
それきりソグが動かなくなった。




