後日談「その後の侯爵家の人々」ざまぁ
――後日談、侯爵家の人々――
魔女が侯爵家を去って数カ月後。
「うわぁぁぁあ!! 来るな! 赤い魔女! あっちに行け!! 僕が悪かった!! 謝ります!! ご、拷問したあと魂を悪魔に売るのだけは許して下さい!!」
「落ち着いてください旦那様、魔女などどこにもおりません」
「嘘を言うな! すぐそこにいるだろ! こっちを見て笑ってる!」
使用人が侯爵が指した方角を見る、しかしそこには誰もいなかった。
「魔女が『お前を悪魔の生贄にしてやる』と言っているだろ? 聞こえないのか!?」
使用人には何も聞こえず、困った顔で首を傾げた。
「ト、トイレに行く、お前も来い……! 魔女に襲われないように見張れ」
使用人がトイレまで付きそう。
「うぎゃゃぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
侯爵は尿管結石を患っていた。尿管結石は人生で味わう三大激痛と言われ、非常に激しい痛みを伴う。
侯爵は死ぬまで尿をするたびに激しい痛みに襲われ、その痛みに耐えなければならなかった。
魔女が侯爵にプレゼントしたのは幻覚、幻聴、尿管結石。侯爵は死ぬまでそれらの症状に苦しめられた。
「いやぁぁぁあああ! 来ないで! ムカデが! ムカデの大群が……!!」
「奥様、起きてください、大丈夫ですよ、全て悪い夢です」
うなされていたローザを使用人が起こす。
「ひっ、うっ、ああっっ……! お腹が、お腹が……痛いわ、痛み止めを頂戴……! 早くっっ!!」
悪夢から逃れたものの、ローザは起きた途端に腹痛に襲われた。
侯爵夫人になったローザは眠るたびに悪夢にうなされ、起きている間は腹痛に苦しめられた。
「ひっ、ぐっ、いぁぁぁっっ……! 腰がっっ……! 足の親指がぁぁぁっ……!」
侯爵の母親は腰痛と痛風が酷く、ベッドから起き上がれなかった。
もともと侯爵家に仕えていた使用人たちは、頭痛、リウマチ、腰痛、痛風、幻聴、幻覚、寝るたびに悪夢を見るのいずれかの症状を発症し、仕事が出来なくなり、紹介状なしで屋敷を解雇された。
使用人のほとんどが実家に帰ったが、実家に帰っても病持ちで働けない人間が必要とされるわけもなく……。
暗い部屋に閉じ込められるか、邪険にされて家から追い出されるかのどちらかだった。
侯爵家に新しく雇い入れた使用人は、毎日幻覚や悪夢や体の不調に苦しむ主を見て「この家は呪われている」と気味悪がった。
新しく雇った使用人たちは不気味がってすぐに辞めた。
侯爵家の人間が呪われているという噂は領民にも広がり、人々は領地を捨てて他領に逃げ出した。侯爵領は畑を耕す者すらいなくなり、税金収入がなくなり侯爵家は没落した。
屋根に草が生え、窓ガラスにひびが入り、壁に蔦が巻き付き、庭は荒れ果て雑草が生い茂った侯爵家からは、今でも時折うめき声が聞こえてくるという。
――終わり――
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