バトル・オブ・パッシェンデール ──「お前ら、覚悟は出来てるんだろうな!!」
「……なら、この状態から逆に皆殺しにされるのも、きっと初めてだろうな」
左右のこめかみに突き付けられた蜘蛛兵士の銃。
俺は、それを強く掴んだ。
銃口の狙いを逸らしながら銃身を一気に捻り上げると、左右の銃が同時に火を噴いた。
右のM520トレンチガンから撃ち出された銃弾は左の蜘蛛兵士の胸部を粉砕し、左のM1ガーランドから放たれた銃弾は右の蜘蛛兵士の顔面を吹き飛ばした。
誰もがその事態を把握するよりも早く、俺は左の射殺した蜘蛛兵士の懐へ思い切りタックルして突き倒し、腰の銃剣を奪う。
俺は間近の別の蜘蛛兵士の足を蹴り折って、バランスを崩してよろけた所で背後に組みつき、その首を銃剣で切り裂いて、傷から大量の黄色の血液を噴き出させ、近くの蜘蛛兵士たちの顔に振り撒いた。
突然の惨劇に、シュノリューネが悲鳴を上げる。
俺は首を切った死体を蹴って他の蜘蛛兵士にぶつけ、落ちていたM1ガーランドをもぎ取る。
周囲の蜘蛛兵士が眼に血を浴びて視力を失っている隙に、俺は側の蜘蛛兵士の腹をM1ガーランドの銃身で強く突いて、そのまま発砲して内臓を撃ち破り、さらに容赦なく銃身を黄色い腸の奥に突っ込んで、もう一度発砲した。
貫通して飛翔したM1ガーランドの赤い弾丸が、エルマ・サブマシンガンを構えていた蜘蛛兵士の喉に着弾し、その圧力で喉の肉を皮一枚残して消し飛ばし、頭部をねじ切った。
頭部を失い蜘蛛兵士が痙攣し、握りしめたエルマ・サブマシンガンをフルオートで暴発させ始め、俺は蜘蛛兵士の死体を盾にその弾丸を防ぎながらM1ガーランドを連続で発砲した。
撃ち出された弾は蜘蛛兵士の左腕を破壊し、反動で狙いが大きく狂った暴発エルマ・サブマシンガンは他の蜘蛛兵士を撃ち始め、敵陣は大混乱に包まれた。
M1ガーランドの最後の一発を撃ち切ると、銃からキーンッと甲高い金属音が鳴り、空の弾薬クリップが上方へ軽やかに排出された。
俺は役目を終えた銃を投げ捨て、今度は蜘蛛兵士の死体が腰に下げているマチェットを引き抜いて、別の近くの蜘蛛兵士に一気に肉薄する。
蜘蛛兵士はコングスベルグP657ピストルを片手で構えるが、俺はそれをマチェットで斬りはねて、宙に放られたピストルを左手で掴み、相手の眉間を素早く撃ち抜いた。
シュノリューネの姿は既に見当たらない。卑怯にも、部下を見捨てて逃げおおせたらしい。
「うぉぉらぁああああああ────!!」
米海が雄叫びを上げた。
見ると彼女は、敵から拾ったM520トレンチガンを手に、蜘蛛兵士の集団の中に飛び込んでいく。
「米海!!」
彼女を止めようとした時、俺の身体に蜘蛛兵士が放った黒い糸が一瞬で巻きついてきて絡まり、すかさず別の蜘蛛兵士がエルマ・サブマシンガンで俺を狙った。
すぐに俺は縛られたまま地面に向けて飛んだ。
発砲された大量の弾丸は、回避した俺の代わりに、その向かいに居た黒い糸を放つ蜘蛛兵士の身体を撃ち抜いた。
俺はマチェットを突き立てて糸を素早く切断して、コングスベルグP657を発砲し、エルマ・サブマシンガンを撃つ蜘蛛兵士の頭部を撃ち砕く。
敵の数は多いが、予測通り、その攻撃頻度は鈍い。
この狭い場所に密集しすぎているせいで、敵は常に同士討ちの危険に晒され迂闊な発砲ができず、攻撃手段が限られてしまうためだ。
「────ポリ公なめんじゃねぇ、クソが!!」
米海は正面の蜘蛛兵士に飛び蹴りを食らわせて倒し、それからM520ショットガンを撃ちまくって暴れるが、仕留め損ねた蜘蛛兵士に背後から捕まれ、そのままうつ伏せに押し倒されてしまった。
「ケツをブチ犯そうってのかぁ!? こちとらまだ処女じゃボケが!!」
米海はうるさく喚きながら、デリンジャーの残り一発を肩越しに撃って蜘蛛兵士を射殺した。
しかし今度は死体に圧し掛かられて米海は動けなくなってしまい、M1ガーランドを持った別の蜘蛛兵士が彼女を銃撃しようとする。
咄嗟に俺はその蜘蛛兵士をコングスベルグP657で射殺し阻止するが、その時、俺の脚に何かが強くしがみ付いた。
「うっ……!」
撃たれて死んだふりをしていた蜘蛛兵士が、俺の脚を捕らえている。
マチェットを叩きつけようとした瞬間、蜘蛛兵士はその鋭い牙で俺の太腿に強く噛みついた。
「クソがっ……!!」
毒物が血液中に注ぎ込まれる、じんわりした熱い不快感が嫌でも伝わった。
どうにか蜘蛛兵士を撃ち殺して引き剥がすが、一気に平衡感覚が失われ、俺はもんどりうって仰向けに転倒してしまう。
視界がぼやけ、筋力も急激に衰えていき、銃が緩んだ指から離れて落ちてしまった。
いくら身体を鍛えようが強烈な毒物に打ち勝つことは到底できず、蟻地獄へと滑り落ちるように意識が徐々に遠のいていく。
俺は絶望感に苛まれながら、口をぱくぱくと動かした。
滲んだ視界の中に、二人の蜘蛛兵士が俺の顔面に向けてブルーノZK383サブマシンガンの銃口を突き付けるのが見えた。
────どうして俺は、肝心な時に、誰も守れないまま死ぬ運命なのか。 ……【あの時】のように。
真っ赤な発砲炎が、俺の視界を容赦なく焼いた。
だが、目の前で金属の弾けるような音がして、撃ち出された弾丸がそのまま激しく跳ね返り、二人の蜘蛛兵士を逆に貫き倒した。
何が起こったか理解しきれないうちに、誰かが俺に呼び掛けた。
「──────死ぬな!!」
それは、メヴェルだった。
彼女は黄色く光る液体の入った注射器を、俺の胸に思い切り突き刺した。
鋭い激痛が全身に走り、意識が急速に現実へ引き戻されていく。
強力な解毒剤に違いない。
「お前が死んだら、全部、おしまいだろ……!」
涙目のメヴェルに頬をぶん殴られ、無理矢理に銃を握らされる。
シェーグレン自動ショットガン。
第一次および第二次世界大戦で用いられたスウェーデン製の自動排莢式ショットガンで、その先進的な内部構造は、現代の多くの自動式ショットガンに応用されている。
俺はボルトを思い切り引いてコッキングし、起き抜けに、こちらを狙う蜘蛛兵士の胸元をその銃ごと粉砕して撃ち倒す。
「……お前ら、覚悟は出来てるんだろうな!!」
腹の底から叫び、シェーグレン自動ショットガンを敵の残党に発砲する。
銃口から真っ赤な発砲炎が迸り、大型ボルトは慣性で勢いよく後退して空薬莢を宙に弾き飛ばし、次のショットシェルは自動的に薬室へ押し込まれた。
俺は反動をほとんど感じないまま、銃を水平に振り、続けざまに敵へ銃弾を撃ち込んでいく。
別の蜘蛛兵士がM1ガーランドを構えた時、その銃身の先端に、シャボン玉のような黒い半透明の球体が被さった。
それは、アヤカもかつてグーリンルドの刺客を退けた時に使った、攻撃反射バリアーだった。
蜘蛛兵士はそれに気付かないまま引き金を絞り、発砲した。
撃ち出された銃弾は被さったバリアーにそのまま弾き戻され、銃身内を逆走、機関部で別の弾薬を炸裂させ、狙いを定めていた蜘蛛兵士の顔面を粉々に破壊した。
「────近づくな!!」
メヴェルが叫ぶと、彼女と俺を中心に突風が巻き起こり、周囲の蜘蛛兵士を米海ごと吹き飛ばした。
俺は容赦なく倒れた蜘蛛兵士を銃撃していく。
やがてシェーグレン自動ショットガンが弾切れになり、ボルトが後退位置で停止した。
メヴェルが蜘蛛兵士の死体からショットシェルの詰まった金属製スピードローダーを投げて寄越し、俺はそれを使って銃の下部から一気に弾を補充し、最後の一発は直接薬室に押し込んで、ボルトストップを解除した。
俺は射撃を再開し、蜘蛛兵士を一体ずつ確実に射殺していく。
死の沈黙が訪れたのは、間もなくの事だった。
俺たちを包囲しかつて優勢であったシュノリューネの手下たちは、今やまるで爆撃の跡のように無残に折り重なってひしめき合っている。
彼らは操り人形のように命令のまま動くだけの者たちだったのか、それとも一体一体が自らの意思を持って彼女に付き従っていたのか、今となっては知りようもなく、知りたくもなかった。
「……ありがとう、助かった」
俺はメヴェルに礼を言うと、彼女はそっぽを向いてしまった。
「……相手は私まで殺す気だった。だから、お前に協力しただけだ。……変な勘違いはすんなよ」
そして、蜘蛛兵士の死体に折り重なり、失神していた米海を助け起こす。
目を覚ました米海は、辺りをきょろきょろと見回して、不穏な顔で尋ねる。
「ここは、夢の世界か? それとも、あの世か……? そのどっちかの方が助かるんだが……」
「あいにく……ここは、現実世界だ。俺たちは、生き残ったんだ」
「ああ、ちくしょう……本当に、ちくしょう……」
俺はシェーグレン自動ショットガンを抱え、向き直って怒号を上げる。
「シュノリューネ!! 何処に隠れている!? 今すぐに、出てこい!!」
何の反応もない。
「また小賢しく罠でも仕掛けているのか!? 部下を全員見捨て、こそこそ隠れて狡猾に生き延びて、満足か!?」
俺は蜘蛛兵士の死体からブルーノZK383サブマシンガンとM8レンジャー自動ライフルを奪ってスリングで背中に掛け、米海とメヴェルも適当な銃器を拾って戦闘の準備を整える。
米海はM520トレンチガンの弾を補充しながら、怯えた様子で周囲を警戒する。
「……あぁ、もう虫は本当にこりごりだ。これで終わってくれりゃあ良いんだけど……」
激しい戦いによって荒れた『植物園』を三人で慎重に進んでいくと、急に女性がすすり泣く声が聞こえ始めた。
過剰に反応するのは、いつでも米海だ。
「こっ、今度は幽霊かよ……!? 勘弁しろって……!」
「静かに。少し黙っていろ……」
シェーグレン自動ショットガンをいつでも発砲できるよう構えながら、薄闇に包まれた食人植物の森を歩いていく。
「──────!」
泣き声の正体を見て、俺は信じられないと目を見開く。
黒い植物に全身を縛られたシュノリューネが、吊り下げられている。
「た、助けて…………このままじゃ、死んじゃう……」
シュノリューネはめそめそと泣きながら、俺に懇願する。
「……おい、ふざけるな。まさか、万策尽きて自ら罠になったのか。いい加減にしろ」
「ちがう……私じゃないの…………」
その時、突然、俺が構えていたシェーグレン自動ショットガンから蒼い炎が上がり、激しく燃え始めた。
「うわっ!!」
熱さに驚いて手放すと、銃はそのまま真っ黒の炭と化して原型なく崩れ落ちてしまった。
それだけでなく、背負っていた銃も一緒に焼け落ちて、米海とメヴェルが持っていた銃も同様に消し炭と化してしまった。
瞬く間に丸腰にされてしまった俺たちは、カチ、カチ、と鳴る独特の足音を聞いた。
「何か来るぞ……」
するとシュノリューネは、か細い声で言った。
「……御姉様……レファバール様が、来るわ……。全員、殺される……『花』を植えられて……」
「なに……?」
「レファバール様は、怒っているの……この庭園を荒らされて……。だから私は、捕まったの……。みんな一緒に、ここで殺されるのよ……」
それを聞いて、メヴェルは蒼白な表情で俺の腕を引く。
「まずい、まずいよ……! レファバールは、この最低最悪の植物園を造り上げた主犯だ……! 早く逃げないと!」
「…………俺たちには、どこにも安全な場所なんてない。そう言ったのは、メヴェルだろ」
俺は覚悟を決めて、足音が迫る方向を見つめた。
そこに、新たな蜘蛛女、レファバールが居た。
黒いマントを前を留めずに羽織っており、青白い肌の豊かな胸となだらかな腹が見え、ショートカットの白い髪には蝶のような形の綺麗な髪飾りを差していた。
無表情で切れ長の漆黒の目が、俺を見据えていた。
【Battle of Passchendaele】- 1917年に発生した、第一次世界大戦における重大な戦争のひとつ。泥沼の陰鬱な荒地で発生した戦闘で、両軍併せて七十万人を越える死傷者を出した、近代戦争の中でも屈指の過酷さ、残虐さをもつ戦争と云われる。





