コール・オブ・デューティ(2) ──「皆の仇だ……! お前らが殺した、全員の、恨みだ!!」
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宮潟は、敵の機関銃手の喉を蹴り、突き刺したM590ショットガンの銃剣を素早く引き抜いた。
すぐ隣に伏せていた兵士が遅れて気付き、銃の狙いを変えようとするが、宮潟が銃剣を突き出す方が早く、剣先は兵士の右眼を深々と貫く。
だが恐ろしいことにその兵士は即死せず、ライフルを手放した両手で自分を刺した銃剣を強く握り締めて抑え込んだ。
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ネイヒ・スネイス上等兵は自分の頭を刺されながらも、断末魔の悲鳴を上げる代わりに、スタングレネードによる視界の害が残る仲間たちの為に声を振り絞る。
「ここに敵が居るぞ!! 撃て────!!」
次の瞬間、自分の間近に突きつけられた銃口から発砲炎が爆発し、射出された散弾が彼の意識を頭蓋骨ごと完全に粉砕した。
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兵士の頭を撃ち抜いた反動を利用し銃剣を引き抜いた宮潟は、その場から素早く飛び退いて退避した。
刹那、先程の位置を狙った敵の弾丸が次々と飛んでくる。
────殺せるものなら、殺してみろ!!
宮潟は左手で敵の迷彩偽装網を掴み取り、身体に巻き付けながら素早く転がる。
視力が低下している敵兵士たちはその姿を補足しきれなくなり、発砲頻度が明らかに鈍くなった。
宮潟はそのまま、ホームの一番端に陣取っている、機関銃を腰だめで構えて何かを叫ぶ敵兵士に肉薄する。
気付いた敵が機関銃を発射する前に、M590ショットガンのストックを横薙ぎに叩き付けて銃の狙いを逸らし、怯んだ敵の腹に深々と銃剣を突き刺し、フォアエンドをジャキンッと前後させ、引き金を絞った。
発砲の圧力で敵の腹部が爆散し、内臓が後方へ盛大に飛び散って、壁に血と肉の破片がペンキのようにぶち撒けられた。
M590ショットガンを投げ捨て、殺した兵士が握っていた機関銃を掴んだ。
そして、他の敵兵士に銃口を向けて、あらん限りの連射を浴びせる。
同時に、蜘蛛の穴から出て展開した仲間の援護射撃も加わり、形勢は一気に逆転した。
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ジェシン・ロマボルク伍長は、まるで幽霊に怯える子供のように、迷彩偽装網を深々と被ってひたすら震えていた。
閃光の影響を受けて未だに全く目が見えないが、ひっきりなしに聞こえる味方の悲鳴と多数の銃声は、恐怖のどん底に陥れるには充分すぎるものだった。
……俺たちが何でこんな目に遭うんだ!! 民間人を虐殺したのは、俺じゃないのに!!
ジェシンは反撃を完全に放棄し、敵が自分のことを見過ごしてくれることを祈るばかりであった。
……こんな戦いは、やりたい奴だけ勝手にやっていれば良いんだ! 俺は最初から反対だったんだ……!
急に、周囲の温度が劇的に上がった。
灼熱が膨れ上がり、ジェシンの全身の皮膚を猛烈に焼き始めた。
「うわぁあああああああああああああああああ────!!」
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憔悴しながらも目を血走らせた凛瀬沢は、携帯火炎放射器の引き金を必死に絞りながら、叫ぶ。
「皆の仇だ……! お前らが殺した、全員の、恨みだ!!」
最大出力の火炎放射で、生い茂る植物もろとも敵兵士たちを焼き尽くしていく。凄まじい悲鳴が渦巻いた。
「このクソったれ……!!」
燃料を撃ち尽くした凛瀬沢は、背負っていた携帯火炎放射器のタンクを乱暴に投げ捨てる。
すると、炎の中で、兵士の一人が燃えながら立ち上がった。
兵士は悲痛に叫びながらも、こちらに向けて手を伸ばした。
それを見た半田は、悲しみに満ちた顔つきで、M27IARでその頭を撃ち抜いて完全にトドメを刺した。
「クリア……。この半蔵門線ホームの敵は殲滅した……」
そこで、ゴミ箱の陰に隠れていたアヤカが顔を出した。
「……まだ、班の一つを壊滅させたに過ぎません。この班は、威力偵察用の使い捨てでしょう。残りの三十人は、仲間を殺された恨みから、全力の殺意を持って襲ってくるに違いありません」
古淵はピストルを両手に持って前後を警戒しながら、尋ねる。
「多勢に無勢……俺たちに勝機はあるか?」
そこで、顔を返り血で汚した宮潟が、敵から奪ったマドセン軽機関銃を手に言った。
「……『勝つためには、常に、敵の脅威であり続けなければならない』。宰河は、そう教えてきた」
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第一班が全滅した。
大手町駅での待ち伏せを看破され、逆襲を受けて壊滅したのだ。
シェイトン・アラドール軍曹は、ヘルリーゲル水冷式サブマシンガンを抱えながら、悪化していく事態に頭を抱えていた。
「本当に、ここまで来るのか……?」
この第四班の十名は、最終防衛線として、拉致した【少女】の奪還を阻止すべく、東京駅に集まっている。
第二班と第三班の二十名は、技術支援小隊や地下浸透部隊の兵士と共に、あの迷路のような大手町駅に陣取っている。
武装も隊員も大きく消耗している警察特殊部隊の人間たちが、この熾烈な包囲攻撃から生還できるわけがないとは思うが、悪い予感が消えない。
「……きっと、来るよ」
ノーヴィー・スロティリンカ上等兵は、その思考を見透かしたように言う。
「次々と仲間を撃ち倒され、たった一人になっても……来る。間違いない。彼らには……それだけの覚悟がある」
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地下鉄大手町駅。
第二班の十名が、入り組んだ狭い地下通路を走る。
「容赦するな! 敵を皆殺しにしろ!! 一班の仇を討て!!」
そう叫んだのは、集団の中心を走る女性隊員、ヴィセンテ・シュレーガー伍長。
死んだ第一班のジェシン・ロマボルク伍長とは、幼馴染の間柄だった。
ヴィセンテは、かつてジェシンがこの作戦から帰還したら故郷の恋人と結婚するつもりだと陽気に話していたことをよく記憶していた。
しかし、ジェシンは殺されてしまった。彼はもう二度と、恋人との夢を語ることはできない。
ジェシンを心から愛していたのは、故郷で待っている彼の恋人だけでなく、ヴィセンテもまた同じであった。
「追い詰めて、殺せ……! 楽に死なせるな……苦しめて、絶望を味わせてから、殺せ!」
突然、先頭を走っていた兵士が悲鳴を上げ、ヴィセンテの視界から消えた。
兵士の胸から下が、どういうわけか『床』に埋まってしまっている。
「助けて! 引き上げてくれ……!」
現象の正体に気付いた。
あの『アヤカ』と名乗っているふざけた裏切者が創った白い転送魔法陣だ。
間抜けな兵士が転落するように『床』に転送魔法陣が張られていたのだ。
だが、落とし穴とするにしては魔法陣の径は小さく、兵士の両腕のところで引っ掛かって落ちずに済んでいる。
「おい! 今、引き上げてやるぞ……!」
両脇に居た二人の兵士が、引っ掛かっている兵士の両腕を掴んで引っ張り上げようとした。
そこで、ヴィセンテは気付いた。
この落ちた兵士の胸から下は、何処へ転送されたのか。
「……待て! それは、罠だ!!」
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半蔵門線ホーム。
転送魔法陣に引っ掛かり『天井』からぶら下がる、哀れな敵兵士の身体を見上げながら、宮潟と麻戸井は、揃ってマドセン軽機関銃を構えて、容赦なく引き金を絞った。
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真下から凄まじい銃声が轟いて、真っ赤な貫徹焼夷弾が魔法陣に引っ掛かった兵士の身体を次々と貫き、助け上げようとした二人の兵士を巻き添えにして身体を撃ち砕いた。
ほとんど悲鳴を上げる猶予すらなく凄まじい威力の弾丸によってボロ屑のようになった兵士の死体が、ずるりと白い魔法陣の中に落ちていった。
「クソッ!! 手榴弾を投げ入れてやれ!!」
仲間に反撃するよう怒号を飛ばすが、白い魔法陣から丸い手榴弾が転がり出てくる方が早かった。
「この糞野郎────!!!」
咄嗟に、傍にいた兵士を掴み、背中に回り込んで盾にする。
「おっ、おい、何を────!?」
爆発。壮絶な爆風と共に、金属片が高速で撒き散らされ、盾代わりにした兵士の全身に突き刺さった。
吹き飛ばされたヴィセンテは、盾にした兵士の死体を素早く脇に捨てると、MP40サブマシンガンを構えた。
「……ごきげんよう、皆さん?」
血混じりの煙が漂う通路の向こうから、赤いメイド服の女がゆっくりと歩いてきた。
『アヤカ』だ。
「この裏切者が……!!」
ヴィセンテはMP40サブマシンガンを連射する。
だが銃弾は、彼女の目の前で火花を散らしてあらぬ方向へ跳ね返り、通路に突き刺さっていく。
跳ね返った一つの銃弾が、爆風から生き残り起き上がろうとしていた兵士の鼻先にめり込んで、その兵士を完全に殺害した。
反射防御魔法。これでは通常の銃弾は彼女に届かない。
だが、対抗策はある。
ヴィセンテは、MP40サブマシンガンから通常弾の装填されたマガジンを抜き捨て、ポーチから、黄色に発光する弾頭が付いた弾が装填された新しいマガジンを取り出して、銃に差し込む。
これは、ケヘラー軍の防御魔法に対抗するために秘密裏に開発された特殊弾で、人間たちとの戦いには不要なものであるが、不慮の裏切りに対応する為に一部の兵士に支給されていたものだ。
それを知らず『アヤカ』は余裕綽々で歩み寄ってくる。
ヴィセンテは高笑いをしながら、MP40サブマシンガンを構える。
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「……へぇ、カッコいい銃じゃない」
その真後ろ、アヤカの転送魔法によって瞬間移動してきた宮潟が言った。
MP40を構えていた女性兵士が振り返り驚愕すると同時に、その喉にM12ワスプナイフを突き入れ、ガス放出スイッチを押した。
一気に刃先から噴き出した低温ガスにより喉が一瞬にして凍結炸裂し、断末魔の表情を固めた頭部が転がり落ちた。
続けてアヤカの後方からやってきた鹿森が、残った瀕死の兵士に銃弾を撃ち込んでいく。
「……これで二十人だ、クソファッカー野郎……! グレネードへの対処法くらい、しっかりしとけよな……!!」
頭から流れる血を拭き上げ、唾を吐き捨てる。
その後ろで、古淵が首を傾げる。
「何か妙だ……蜘蛛の野郎が全然出てこねえぞ……? 一緒じゃないのか?」
「ケッ……俺たちがしこたまブッ殺してやったから、残りの蜘蛛のクソガキ全員、ションベンちびりまくって、ママさんもそれを宥めるのに手もオッパイもいっぱいなんだろ? ファック!!」
半田は、そう口汚い言葉を散らす鹿森を白い目で見る。
命の危険に長時間晒されたことで、ドーパミンが大量に脳内で分泌され酒酔いに近い精神状態になる『戦争病』を、鹿森は発症したに違いない。
麻戸井は、宮潟が倒した女性兵士の銃を調べて、怪訝な表情をしていた。
「このMP40……間違いない……こいつらの武器は、ナチスドイツの銃ばかり……。しかも、当時品じゃない。見たことが無い刻印。こいつらが、異世界で新造したものだ。
何故、1945年に滅んだ過去のナチスの武器を、今日初めて侵攻してきた異世界の連中が持っている!?
こいつらは、何者なんだ!?」
アヤカに向けて、麻戸井は問いただす。
それに対し、アヤカが何かを答えようとした時。
『天井』に、黒い魔法陣が幾つも開いた。
そして間髪入れずに、マラカスのような形状の物体がいくつも落下してきた。
宮潟は目を見開く。
ナチスドイツのM24柄付き手榴弾。
「危ないです!!」
アヤカは咄嗟に白の転送魔法陣を展開し、転がったM24柄付き手榴弾を次々と離れた半蔵門線ホームの方へと転送していく。
「おお、ナイスゥ!! すげぇな……!」
そう感嘆の声を上げた鹿森の身体に、黒の転送魔法陣から落ちてきた黒い糸が素早く絡まった。
足の方から逆さ吊りに一気に引き上げられ、魔法陣の中に引きずり込まれていく。
「鹿森!!」
近くに居た半田と古淵が咄嗟に彼の腕を掴むが、強烈な力でじりじりと引き上げられ、腰から下がすっかり魔法陣の中に飲み込まれてしまう。
全員が必死に助けようとするが、襲われている鹿森自身はもはや狂ったように笑い始める。
「アッハハハハハ……!! ついに俺も蜘蛛ちゃんに襲われちまった!! 俺の男気みなぎる子種をスプリンクラーしてやるから待ってろよ────!!」
だが、鹿森を飲み込んでいた黒の転送魔法陣が、急速に収縮を始めた。
「ウッソだろ……」
鹿森の下半身だけ何処かに転送された状態で、黒の転送魔法陣の接続が解かれた。
半田と古淵と凛瀬沢が、同時に悲鳴を上げる。
転送魔法陣が消え、彼の上半身だけがここに残った。
転送し損ねた上半身を切り取られ絶命した鹿森が落下して、グチャリと叩きつけられた。
「……何てこと」
宮潟はベネリM4を構えた。
そして身構えた次の瞬間、通路のあちこちに、まるで虫食い穴のように黒の転送魔法陣が開いた。





