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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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コール・オブ・デューティ(1) ──「怯むな! 制圧射撃!!」




 グザエシル帝国降下猟兵師団第三中隊、メルツ・ドルバース兵長は、蜘蛛の穴から一向に出てこない敵の生存者たちに、大きな苛立ちを感じていた。


 ずれたヘルメットを被り直し、口の中に溜まった苦い唾を飲み込む。



 ……ほら、さっさと出て来いよ……! お前らの仲間が助けを求めてるんだぞ……!



 拉致した敵の仲間の両脚を切断し囮にするというアイデアは、地下浸透部隊副隊長のシュノリューネの提案だ。


 シュノリューネは蜘蛛の異人種といえども、上半身だけ見ればいかにも男の情欲をそそる体つきで、絶妙に理知的でない言葉遣いもまた『頼めば簡単に抱けそう』という想像を湧かせてくるところだが、

 やはり、こんな惨忍な罠を簡単に思いつき実行に移してしまう倫理性の欠如は、彼女らが生まれながらにして敵を殺す軍人として育てられてきたことによるものだと改めて思い知らされる。



 彼女らの故郷、ガルータム王国では、全ての民衆は生まれた血筋によってその生涯が決定され、出世や転属などというものは基本的に存在しない。一生、その道筋が約定された生涯を歩むのだ。


 国王の直系の子息たちは、社会の各部門の頂点に立って指揮権を握っており、オゼロベルヤとシュノリューネもまた、国王が直々に産ませた多数の子息の内の二人だ。


 傾向としては、国王からの寵愛が深い子息ほど苦労の少ない恵まれた役職になるが、逆に、さして可愛がられていない子息は、危険が伴う役職、すなわち『領土開発大隊』、軍隊への配属となる。


 領土開発大隊の中でも、未開の領土の開拓や時には他国への攻撃も任務となる地下浸透部隊は、特に死と隣り合わせとなる最前線を進むことになる隊だ。


 この配属は、彼女らが五歳の時に決定された。これは、その時の国王の気分で決まったものだ。


 普通の認識で考えれば、自分と血が繋がっていて、まだ物心もついていないであろう幼い娘たちに、軍隊で死ぬ生涯をその場で与えることなど出来ない。


 だが……もし、自分の娘が、十人、いや、百人以上もいたら、果たしてどのような認識になるだろうか。


 凍てついた大地の下、地下洞窟という閉鎖空間の中に築かれた巨大王国。


 メルツや他の仲間の兵士たちも、そんな場所で育ったことなど皆無であったから、ガルータム王国の国王やその娘たちの心境など、一生理解できそうにはなかった。



 メルツは、静かに深呼吸をして、ハウエルカラビナ自動ライフルを構え直す。


挿絵(By みてみん)


 この銃は、本来であれば速射の効かないカラビナ98Kライフルを改造して作られた自動ライフルで、銃身と並行してガスピストンが装着されており、発砲するとその発射ガスを受けてピストンが前後し、自動的に装填と排莢を行う機構を持っている。


 最初から自動ライフルとして設計された銃と比較すると、見た目はかなり不格好ではあるが、それでも一発ずつボルトを引いて再装填するよりは格段に速い連続射撃が可能だ。


 そして、オゼロベルヤの指示に従って、貫徹焼夷弾を装填している。これを撃ち込めば、人間が着込める程度の防具であれば易々と撃ち抜くことが出来る。

 


 ……さぁ、早く出て来い! さっさと終わらせようじゃないか……!



 この地下鉄駅の狭い空間では数十名が一斉射撃するようなことは味方誤射の危険もあり不可能であるから、十名ずつ四個班に分かれ、メルツの属する第一班の十名は最前線を担当していた。


 貫徹焼夷弾を装填したマドセン軽機関銃の射手は三名、ハウエルカラビナ自動ライフルの射手は五名。


 そして、塹壕戦用の強力なショットガンであるM97トレンチガンの射手は二名。


挿絵(By みてみん) 


 M97トレンチガンの射手は、広範囲に拡散する鳥撃ち用小粒散弾を使用し、防具のない敵の腰から下を銃撃して機動力を奪うという役目の他に、もし敵が手榴弾を投げてきた場合、それを迅速に撃ち落とし跳ね返すという役目も担っている。


 そしてさらに、ケヘラー王国軍の技術支援小隊から一人を支援要員として借りている。


 攻撃力は万全。



 だが……。



 メルツは、自分のすぐ隣をちらりと見た。


 技術支援小隊の若い男性兵士、ミケイルは、がたがたと震えながら、借りたカラビナ98Kライフルを構えている。


 その姿は、銃で狙っているというより、銃にすがりついているという感じだ。


 彼には、不測の事態が発生した際に、バリアーを展開するなどの防御魔法で第一班を敵の反撃から守ってもらわねばならないのだ。


 どうやら実戦経験が無いようで仕方がないことだが、彼がこの有様では、魔法もろくに使えないだろう。


 メルツは、おもむろに左手で自分の軍服のポケットからガムを一枚取り出して、包装を剥いて、ミケイルに差し出した。


 これは地下鉄の駅の売店でくすねていたものだ。



「……これを噛んでろ、落ち着くぞ」


 

 するとミケイルは目を丸くして、その時だけ普通の青年に戻ったように、はにかんだ。



「ありがとう……」




 次の瞬間、鋭い風切り音が鳴った。


 銃声も発砲音も無い。突然、一瞬にしてそれは飛んできた。



「あぐっ」



 ミケイルの顔が凍り付いた。


 その額に、一本の矢が突き立っている。


 矢には、丸い果物に似た何かが結び付けられている。



 メルツは叫んだ。



 

「────────手榴弾!!!」




 これは戦争。殺し合いだ。


 どれだけ崇高で立派な理想を掲げても、その最前線にあるのは、血と泥と破滅。一人一人の兵士たちの叫びだ。



 仲間を守る為、他に手段は無かった。


 メルツは素早く自分のヘルメットを手榴弾に被せ、さらに自分の身体ごとそれに覆い被さった。



 そうして、メルツの腹の下で、手榴弾が炸裂した。






 

「────行くわよ」


 

 宮潟は、今度は手でスタングレネードをふわりと放り投げた。


 ショットガンの銃声が鳴った。スタングレネードを狙い撃ったに違いない。


 だが、着弾の衝撃でスタングレネードの衝撃信管が作動し、空中で大閃光が炸裂した。


 大音響と共に、悲鳴が聞こえた。


 この暗闇で待ち伏せて目が慣れてしまった彼らには、相当な目潰し効果になるであろう。



「アヤカ!」



「……はいはい」

 


 蜘蛛の穴に籠っている宮潟の後ろで、アヤカは転送魔法陣を展開した。


 視界に映った一定範囲内に即座に開くことが出来る、白の転送魔法陣。


 白の転送魔法陣は、スターライト室町ビルで使っていた黒の魔法陣と異なり、その環の中に転送先の景色を見通すことが出来る。


 転送魔法陣の転送先は、この蜘蛛の穴の向かい、反対側の線路の壁。



 アヤカが先に飛び込み、宮潟はそれを援護するために転送魔法陣から上半身だけ乗り出して、古淵から借りたHK416を、待ち伏せする集団に向けてバーストで発砲した。




 


 マドセン機関銃を構えたライニス・フォーザルツ上等兵は叫びながら引き金を絞った。



「怯むな! 制圧射撃────!!」



 左手でしっかりとストックを支え、機関銃の弾丸をありったけ掃射する。


 真っ赤な発砲炎が銃口に激しく迸り、銃の機関部から焼けた薬莢が次々と転がり落ちてくる。

 

 ライニスは、手榴弾の爆発から仲間を守って犠牲になったメルツ兵長を救護しようと視線を向けていた為、光の直視は免れていて影響は他の隊員よりも少なかった。


 他の仲間たちも呼応して反撃の発砲を開始した。


 射撃用の特殊耳栓で大音響のダメージは抑制できたが、ほとんどの隊員は閃光の直撃を受け、正確な照準をつけることはほぼ不可能になっていた。



「照明弾を使え!!」



 敵も同じ条件にしてやるまでだ。


 M97トレンチガンを撃っていた兵士が、懐から信号拳銃を取り出して、大光量で燃焼する閃光照明弾を発砲した。




 

「チイッ……!!」



 白く発光する照明弾が二発飛翔してきて、宮潟はたまらず顔を引っ込める。


 スタングレネードほどではないが、視界に焼きついて視力に悪影響を及ぼした。


 敵が発砲した大量の赤く光る弾丸が曳光弾のように暗闇を切り裂いて飛んで行く。



「自動ライフル……! 最悪!!」 



 予測が外れた。敵はボルトアクション式の旧式銃など使っていない。全員、次弾の発砲が明らかに早い。


 敵の機関銃と自動ライフルの濃密な弾幕は、収まる気配を知らない。


 加えて、敵が迷彩偽装網を被って食人植物の森に巧妙に紛れ込んでいるせいで、先程のHK416の発砲が命中したかどうかが判りにくく、何人仕留めることが出来たか判然としないのだ。



「おぉおおい!! また蜘蛛の群れが来やがったぞ!!」



 最後尾の鹿森が悲鳴に似た叫びを上げた。


 あの大蜘蛛の群れが、ここに隠れている全員の退路を断ち追い立てる為に迫ってきているのだ。



 ここに留まれば喰い殺され、穴を飛び出せば撃ち殺される。



「容赦するな! 敵は数で圧してくるぞ!!」



 古淵は右手にGSRピストル、左手にG17を握り、覚悟を決めた表情で喚く。



「絶対に生き残るぞ……!!」



 宮潟は弾が切れたHK416を置き、続いて怪物に拉致された米海が遺していた銃剣付きM590ショットガンを手に取る。


 そしてしっかりと掴んだフォアエンドをジャキンと前後させ、蜘蛛の穴の外へ怒鳴る。



「────アヤカ、やれ!! 生きてるなら、さっさと魔法陣を切り替えろ!!!」



 すると、このホーム全体が見渡せる位置に隠れて移動したアヤカの声が聞こえた。



「切り替えますよ!」



 その声と同時に、先程使っていた白の魔法陣に映る景色が切り替わった。


 反対側の線路の壁にあった白の魔法陣が消え、代わりに、待ち伏せ集団が陣取っている場所の『天井』に白の魔法陣が出現したのだ。



「覚悟しろよ……!!」


 

 宮潟は躊躇なく、転送先が切り替わった白の魔法陣に飛び込んだ。



 蜘蛛の穴から、一瞬にして、待ち伏せ集団の頭上へと転送。


 宮潟は落下しながら、M590ショットガンの銃剣を真下に向けた。


 狙うは、迷彩偽装網を被り機関銃を発砲し続ける兵士の背中。





 ライニスは、マドセン機関銃を撃ち切ったと同時に、頭上から恐ろしい風圧を感じた。


 強烈な殺気を察知して、伏せた腹の底に護身用に置いていたレッドナインピストルを素早く掴み、身体を反転させ、仰向けになって銃を構えた。


 視界一杯に広がったのは、銃剣付きのショットガンを身体ごと振り下ろす、殺意に目を血走らせた獰猛な女兵士の姿。



「うわぁああああああああ!!!」



 レッドナインピストルの引き金を引くが、銃ごとその手を思い切り踏み潰され、あらぬ方向に銃弾が飛んで行った。



 その一瞬、ライニスは、彼女の敵としてこの部隊に自分が居たことをどこまでも悔いた。



 そして、絶叫したライニスの口に、銃剣が思い切り突き入れられた。




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