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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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伏撃死線、トンネルラット・サバイバル(1) ──「全員、走れ!! 決して離れるな!!」




「……やけに怪物との知り合いが多いみたいだねぇ、リーダー」



 麻戸井が嫌味のついた視線を、俺に向けた。


 俺が、柚岐谷のように人間に化けた怪物だとでも言いたげだ。


 確かに、地下鉄に待機していたグループは即席の血液検査を行うことで化け物を見抜いたが、後から合流した俺たちは『一悶着』あったものの結局それを行っていない。


 しかも、柚岐谷の正体が【文化潜入部隊】なる異世界の怪物であったという事実を意図的に隠していたのだ。


 気付けば、麻戸井、米海、凛瀬沢、鹿森、蓮の五人、地下鉄待機組の俺たちを見る目が変わっている。


 黙って俺は見つめ返すと、麻戸井はわざとらしく肩をすぼめてSA58の銃口を下ろした。



「もしあんたらの中に次の怪物が紛れていたら、今度こそ全滅する。……まあ、そうなったら運命と思って流石に諦めるかな。勝つ自信は、もう無い」



 そこに、パニックで過呼吸気味になった凛瀬沢が、携帯火炎放射器の銃口をアヤカに向けながら、俺に尋ねる。



「まさか、宰河警視……私たちを生贄にするために、ここに、誘い込んだんですか……?」



 すかさず、M590ショットガンの残弾を確認している米海も、震えていた目に力を込めて、それに同調する。



「……お前らが合流してから、八人が死んだ。私たちも、多分、そろそろ殺される」



 俺は、口を開きかけて、諦めた。


 ここで弁明しても、裏切りが露呈しそうで焦る化け物、あるいは仲間を護れなかった無能指揮官の言い訳にしか聞こえないだろう。



 半田が進み出てきて、人差し指を米海に突きつけた。



「僕らが怪物の仲間だと……? あのまま僕らを排除して、地下鉄駅に籠っていた方が安全だったとでも言う気なのか? そんなの、生存時間を先延ばしに出来るどころか、もっと早く全滅させられてもおかしくない。この地下では、重武装のWASPの連中も壊滅させられたんだぞ……!」



「そりゃどうかな。あのガキといい、余計な厄介ごとをどんどん引き入れているようにしか見えないんだよ……」


  

 すると今度は、鹿森がアヤカの豊かな胸と俺の顔を交互に見て警戒しながら、口を挟む。



「正直、ここは半田の野郎の言う通りだね……。俺らは自分のことを逞しいアメリカンソーセージだと思いがちだが、実際には、お子様向け短小ポークビッツだ。沖國小隊長が一瞬でガン掘りプレスされて死んだのを見ただろう。


 むしろ、異世界軍にとって生け捕りにしたい叡が今まで一緒に居たからこそ、巻き込んで殺さないようにある程度は攻撃がセーブされていたという見方もできるんじゃないか。俺は……そう思うぜ」



 それを聞いた蓮は、急に顔つきを険しくした。



「ちょっと待って……それってつまり……あの子が異世界軍の手に渡ってしまった今は……」



「そうだよ。つまり邪魔者でしかない俺たちは、容赦のない総攻撃で皆殺しにされるってことだ……!」



 そこで俺の様子をニコニコと見ていたアヤカが、敵の新たな動きを察知して顔を引き締め、大声を上げる。




「ご主人様! 殲滅攻撃が来ます……!」




 トンネルの壁の中から、風船が次々と割れていくような奇妙な音が鳴った。


 俺たちは銃を構え直し、周囲を警戒する。


 何か来るかと待ち構えていると、巨大蚯蚓が開けたあの穴から一斉に、紫の淡い光を放ち、石鹸のような香りをさせる気体が流れ落ち始めた。



「うぐっ……喉がっ……! 苦しい……!!」



 気体を直に浴びる位置に居た米海が、途端に血相を変えて咳き込み始める。


 俺もそこで喉に強い違和感を感じ、首元を押さえた。


 喉がちりちりと焼きつくような感触と共に、うまく呼吸が出来なくなってくる。




 ────毒ガス……!




 アヤカの掲げた左手が光り、周囲に青い透明の膜が広がって、紫のガスを一瞬で吹き飛ばした。



「……この気体は、人間が生きるのに必要な酸素を根こそぎ奪います。虫ケラ共はその中でも長時間行動が可能ですが、並みの人間ではとても耐えられるものではありません。【ガルータム】が他国の不躾な侵入者を皆殺しにする時に愛用していた、定番品です」



 アヤカから半径五メートル程度に広がった青のバリアーの中では、少し息苦しさはあるが問題なく呼吸が出来るようになった。


 この状況下では、地下鉄待機組の信用が無かろうとも、彼女の魔法に頼らざるを得ないだろう。



「また……助けられたな」



「……あぁ、感謝しつつもまだ疑念が少し混じっているサドなご主人様の目つき……たまりません。また少し濡れてしまったじゃありませんか」



 俺はアヤカの反応を無視しつつ、ふと思いついた事について考え込む。



 今までは非科学的かつ天変地異的な魔法や怪物ばかり見せつけられてきたが、この局面にきて、現代にも存在する軍用化学兵器に相当するものが投入されてきた。


 この地下トンネルのような閉鎖空間では、毒ガスは極めて効果的だ。


 近代では化学兵器禁止条約により化学兵器の軍事利用は厳しく規制され実戦で見かけることはほとんど無いが、およそ百年前、第一次世界大戦では何十種類もの毒ガスが開発され戦場で乱用された。


 強固に構築された相手の防御陣地を突破する手段として、我々が吸う空気を毒化してしまうことは極めて脅威的であったのは言うまでもなく、第一次世界大戦における毒ガスによる死傷者は、両陣営合わせて百万人以上にも上ったと云われている。


 かのベトナム戦争でも、苦戦を強いられていたアメリカ軍は、蚊の殺虫という建前でいわゆる『枯葉剤』と呼称されるダイオキシン類を含有する毒ガスを散布し、形勢逆転を図った。



 俺は、途方もなく遠い世界から来たというイメージであった異世界人が、我々にごく近い着想を持って行動しているということを改めて実感して、微かに身震いした。


 俺の横で古淵が、腰に日本刀を差しつつ、HK416を構えて周囲を警戒しながら、ふと思いついたように尋ねる。



「それで、メイドの姉さんよ……このバリアーは、ガスマスク要らずで毒ガスから身を守ることは分かったが、敵の物理的攻撃は防ぐことは出来るか?」



「不可能ではありませんが、防御特化のバリアーと比べて、空気を浄化することに大きな魔力を使いますから防御力は相当に弱いです。せいぜい竜の炎から守れる程度ですね。人型以上の敵がバリアーの中に入ってくることは防げませんし、質量の大きい攻撃にも耐えることはできません」



 不穏な予感がして、俺は柚岐谷が残した装備から、ゲパードGM6アンチマテリアル・ライフルと弾薬を回収した。


挿絵(By みてみん)


「……この先は、全員でアヤカを護衛しながら進行する。彼女が殺されるか捕まれば、俺たちは全員窒息死だ。分かるな……?」



 誰からも異論は出なかった。


 俺のHK416は破壊され使用不能になってしまったので、残っていた5・56ミリNATO弾のマガジンは半田と古淵に託し、代わりに柚岐谷のボディアーマーからゲパードGM6のマガジンポーチを取って装着する。


 かつて柚岐谷が愛用していたR8マグナムリボルバーも取り出して、逆さにして銃身を握り、グリップの先をアヤカに向けた。


挿絵(By みてみん)



「銃は使えるだろう。そのチェーンソーだけじゃ、この先はどうなるか分からないぞ」



「ご慈悲に感謝します、ご主人様。……けれど、他の女が手にしていたその銃を握るわけにはいきません。わたしは、ご主人様の手垢がついた銃の方の方が良いです」



 無茶苦茶な事を、いやに真面目な顔つきで言う。


 俺は少し考えてから、G17ピストルを渡した。



「……言っておくが、投げ捨てたり、壊したりはしないでくれよ」



「もしそんな時は、ご主人様の気が済むまで、たっぷり激しくお仕置きしてくださいね?」



 いまいち会話が噛み合ってはいないが、とりあえずそれで良しという事にして、俺は代わりにR8マグナムリボルバーをボディアーマーの空いたポーチに差し入れた。



「ご主人様……『わらしべ長者』というおとぎ話がありますよね。わたしはその話が、結構、好きなのです。お礼に、この武器をご主人様に差し上げます」



 アヤカが左手に握っていたG17ピストルが、急に緑色に光って消滅し、その代わりに新たな光が手の中から舞い出てきて、虚空に微かな静電気を発生させながら、俺の目の前で銃の形へと変わっていく。



 それは国防軍で制式採用されている国産銃、エムナイン9ミリ機関拳銃だった。


挿絵(By みてみん)


 主に指揮官や後方部隊、車両操縦手向けの個人防衛火器として運用されている銃で、通常の9ミリ拳銃弾の他、タングステン製の徹甲弾芯を持つ特殊9ミリ徹甲弾も併せて供給されている。


 通常では二十五発装填の小型マガジンと共に支給されることが殆どだが、ここに出現したのは、一部特殊部隊向けに配備されている大容量の五十発装填の丸いドラムマガジンとレーザー照準器を装着し、さらに戦闘力を高めたモデルだった。



「おい……まさか、武器を生み出せるのか……!?」


 

 そうなると俄然、この不利な状況を逆転する目が出ると思われたが、アヤカは首を横に振った。 



「これは、格納魔法を使って道中の死体から拾得したものを再出現させただけです。容量に限りはありますが、手に持てるくらいの物体であればこうして異空間に格納が出来ます。ご期待に沿えず申し訳ありません、ご主人様……」



「何でも出てくる『四次元ポケット』のようにはいかないのか……。でも、持ち物を全て身に着けておく必要が無いとは便利だな」



 俺は9ミリ機関拳銃を取って、マガジンに徹甲弾が装填されていることを確認し、コッキングハンドルを引いてボルトを後退位置で止めた。


 この銃は恐らく、WASPのストライカー装甲車の操縦手が持ち込んでいたものであろう。



「便利だとお思いですか、ご主人様……? 便利さとは時に毒です。この魔法のおかげで、わたしたちの【ケヘラー】王国の兵士の身体はろくに鍛えられておらず、防御力だけは世界最高峰という自負がありますが、攻めの精神力、戦闘力となると貧弱そのものです」



 気が滅入る情報が増えるばかりだ。



 俺は、特殊部隊庁舎を出発する前に鶴騎中隊長から受け取っていた、叡が持っている発信器の追跡装置であるタブレット端末を取り出して、地図を確認した。


 ここが地下トンネルであるせいで現在の受信精度は低いが、発信機の信号発信範囲は、これから向かう先である東京駅を丸ごと囲む形になっている。


 叡は間違いなく、東京駅地下の何処かに囚われている。


 東京の人間たちが自ら造り上げた、あの巨大迷宮の何処かに。



「え……?」



 宮潟が、急に声を上げた。


 振り返って見ると、気のせいではなく、彼女の全身がぼんやりと青く光っている。



「ちょっと、何これ……!?」



 同様に、その場に居るメンバーの身体も次々と青いオーラのような光を放ち始めた。



「おいアヤカ……! 今度は何の魔法を使った……!?」




「……ご主人様、これは、わたしの魔法ではありません」



 背筋がぞくりとした。


 ついに俺とアヤカの身体にも、同じ青い光が取りついた。 



「【ケヘラー】の兵士が、どうやら向こうにも就いているようです。ご主人様と対面したビルで使った位置特定魔法を覚えていますか? これで今度は、わたしたちの位置が特定されました」



「つまり……?」



「正確に、私たちを地中から殺しに来るということです」




 突然、トンネルが振動し、小石の欠片が落下してきた。


 小石は毒ガスを防御する青いバリアーに当たり、そのまま沈み込んで突き抜け、俺の足元に転がった。



「……このバリアーじゃ、あの巨大蚯蚓の突進は防げない。より強固なバリアーに切り替えてくれ」



「けれど、ご主人様……今度は息が続かなくなりますよ?」



「それでも、追突されて即死するよりはマシだ!」



 そう叫んだ直後、壁が轟音と共に崩落した。


 俺の目の前を、大量の掘削牙を持つ巨大蚯蚓が吼えながら横切り突っ込んできて、アヤカの身体をズタズタに切り裂き吹っ飛ばした。



「アヤカ!!」



 俺は9ミリ機関拳銃を発砲した。


 毎分千発を越える獰猛なフルオート連射が、巨大蚯蚓の腹に次々と突き刺さる。


 しかし所詮は拳銃弾。とてもあの巨体に対して有効打にはならない。



 毒ガスを防いでいた青いバリアーが、アヤカが倒されたことで収縮を始めた。



 米海が恐怖に叫ぶ。 



「ヤバい……このままじゃ全員……!」



 俺は、下腹部を粉砕されて倒れたアヤカを助け起こした。


 抱きかかえると、彼女は黒い血を吐きながらうっすらと目を開いた。



「……ご主人様、今回は、助けていただけるんですか?」


 

 俺は何も答えず、軽くなった彼女を抱いて持ち上げる。


 アヤカは一度、柚岐谷のゲパードGM6の銃撃を受け、同じように身体の半身を失ったが……復活したのだ。


 彼女の身体は極めて高い治癒能力がある。おそらく、頭と心臓を失わなければ、瀕死に陥っても蘇ることができるのだ。



 しかし展開されている青のバリアーは、かなり薄く弱まっているように見える。範囲も半径三メートル程度にまで狭まっていた。


 彼女の魔力とやらを、魔法と自己治癒の同時に充てることは難しいのであろう。人間のエネルギーにも、限界がある。



 このままでは、皆殺しだ。




「全員、走れ!! 決して離れるな!!」



 俺はアヤカを抱きかかえ、仲間と共に駆け出す。


 すぐ背後を、二匹の巨大蚯蚓が絡み合いながら横切って、トンネルが砂糖菓子のように瞬く間に崩壊した。



「ちっくしょう……!!」



 蓮が後ろ走りで、後方にHK416をフルオートで発砲した。



 穴から次々と、今度は黄色の眼を持ち表皮に黒艶のある大蜘蛛の怪物の群れが現れ始めたのだ。


 着弾しても、ほとんど怯みも倒れもせず迫り来る。


 鋸の形状をした凶悪な歯が、放った発砲炎に照らされて不気味に光った。



 HK416から流れ落ちた薬莢が、トンネルのコンクリートを軽やかに叩いていく。



「……神様っ、誰か、助けて……!」



 うわ言を落としながら、凛瀬沢は重い携帯火炎放射器を背負って無我夢中で走り続けた。


 その時、彼女は奇跡的に気が付いた。



 進行方向の先に、青く微かに光る奇妙な糸が、通る者の脚に掛かる高さで張られているのだ。



「気を付けて!! 足元に何かが仕掛けられています……!! 踏まないで!!」



 先頭を走っていた宮潟が、その青い糸に掛かる寸前の所で気付き、舌打ちをして飛び越えた。


 俺も同じようにジャンプして飛び越える。


 

「……なに!?」



 しかし、走りながら後方へ発砲していた蓮だけが、認識に遅れがあった。


 凛瀬沢が言う『何か』に気付いた時には、その青い糸に右足が引っ掛かっていた。



 ジュッ、と嫌な音がした。


 青い糸によって、蓮の右足が一瞬で鋭利に切断された。



 蓮は悲鳴を上げて、前のめりに激しく転倒する。



「蓮!!」



 ちょうど青い糸を飛び越えた鹿森が、倒れた蓮を助けようと手を伸ばす。



 だがそこに、上方に待ち伏せていた大蜘蛛の一匹が飛び降りてきて、彼の背中に覆いかぶさった。


 鋭い歯を開き、鹿森の頭に激しく噛みついた。



「ぎゃあああぁあああああああああああああ!!」



 血が噴き出し、鹿森が絶叫する。


 そこに、M590ショットガンの銃剣を構えた米海が、大蜘蛛に向かって吼えながら突撃した。


 M9銃剣の先を深々と突き刺し、そのまま発砲して大蜘蛛の腹を粉々に吹っ飛ばす。



 頭から出血しながらも生き延びた鹿森は、大蜘蛛を振り払い、その頭を掴んで青い糸に押し付け、そのまま焼き切ってトドメを刺した。


 

「クソッ! 前からも来るわ……!!」



 宮潟が、トンネルの先を指差した。


 トンネルの奥から、大蜘蛛の光る眼の群れが迫ってくるのが見えた。


 このままでは、逃げ場がない。


 

「上等だ、この虫けら共が!!」



 古淵が、背負っていたパンツァーファウスト3対戦車ロケットランチャーを構えた。


 

「爆音、爆風、バックブラストに注意しろ!! 撃つぞ!!」



 普通は、このようなトンネル内で使う代物ではない。全てが壊滅した今だからこそ可能な、完全に誤った使用法だ。



 着火音と共に、砲身から84ミリ成形炸薬砲弾が撃ち出された。


 煙の尾を引きながら高速で飛んで行ったそれは、トンネルの奥で大爆発を起こした。



 とても立っていられない程の凄まじい爆風がトンネル内を突き抜けて、崩壊したトンネルの破片や土煙と共に大蜘蛛の破片が次々と飛んでくる。


 

 だが、この一撃で怪物を殲滅できたわけではない。


 むしろ土煙で視界不良に陥った中で、敵に襲われることになるのではないか。



 そう思うや否や、吹き飛んできた黒蜘蛛の一匹が、急に体勢を立て直し、伏せていた麻戸井に襲い掛かった。



「……しゃらくせえな!!」



 麻戸井はSA58を盾にして歯による攻撃を防ぎながら、ホルスターから抜いたMP412マグナムリボルバーを大蜘蛛の懐に連続で撃ち込んだ。


挿絵(By みてみん)


 力が緩んだところで麻戸井は逆に大蜘蛛を押し倒し、蜘蛛の顔にさらに銃撃を加えて沈黙させる。



「宮潟……!!」



 俺はアヤカを抱えながら、宮潟に組み付いて格闘していた大蜘蛛を蹴り飛ばし、左手のみで持った9ミリ機関拳銃の連射で完全にその虫の頭を消し去った。



 敵襲は絶えない。


 煙に紛れ、もう一匹の大蜘蛛が俺へ目掛けて飛び掛かってきた。


 俺はそのまま、横薙ぎに9ミリ徹甲弾の高速連射を浴びせる。


 宙で被弾した大蜘蛛は、徹甲弾丸の嵐によって両断され、二つに分かれて絶命して転がった。



「このままじゃ、キリがない……!!」



 そこで俺は、毒ガスの濃度が薄まって見えることに気付いた。


 敵は毒ガス攻撃が効かないと見て、大蜘蛛の集団による物量作戦に切り替えてきたのだ。もう、追加の毒ガスは使われていない。



 俺の視線が注目するのは、巨大蚯蚓が掘り抜き、敵が毒ガスや怪物を放つのに使った、あの穴だ。



 ハイリスク・ハイリターンの賭けだ。


 この穴を通っていけば、間違いなく、敵の元に辿り着ける。


 地下鉄のトンネルと違って人間が通ることなど想定されていないから、敵もこの中までは罠を用意していないのではないか。



 ……しかし、何が待ち受けているかは全く分からない。



 俺の思考を察したアヤカが、微笑みかける。



「……勇敢なご主人様らしい、素敵な選択です。それなら、この武器の方が役に立つかもしれませんね……」



 アヤカが左手から、新しい銃を出現させた。


 それは、銃器対策部隊に配備されている小型ショットガン、イサカM37ステイクアウト。


 イサカM37ショットガンは、信頼性が高く砂塵汚れにも強いことから、かのベトナム戦争においてアメリカ軍が塹壕掃討戦の際に愛用した武器でもある。




「俺たちは……『トンネルラット』か」


 


 俺は、力なく呟いた。



 ベトナム戦争では、重武装のアメリカ軍兵士に対して、ベトコンは地下に蟻の巣のような複雑なトンネル網を使って対抗した。


 そこでは当時最新鋭であった武器装備は役に立たず、アメリカ軍兵士たちは奇襲の恐怖に怯えながら、生身ひとつで暗いトンネルの奥深くへと潜り込んでいくことになり、結果、多数の惨たらしい死傷者を出し、生還した者たちもPTSD(心的外傷後ストレス障害)に長年苦しめられることになったのだ。


 不潔な塹壕を這い回るネズミのような姿になぞらえて、彼らはこう呼ばれた。『トンネルラット』と。




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