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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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BURN ’em OUT(焼き払え) ──「火炎放射器を使え!」



 三洋百貨店前駅、地下鉄半蔵門線乗り口。


 

 異世界の植物に寄生された屍の山を踏み越えながら、俺たちは地下鉄半蔵門線のホームへと立った。


 引っ繰り返った地下鉄車両が、両脇の線路に打ち棄てられたように転がっている。


 原型を亡くすほど夥しい量の植物が絡まっていて、文明人が死に絶え百年以上が経過した廃墟のようにも感じられる。



「ちくしょう……生存者は居ないのか……」



 俺はHK416を構えながら、色とりどりに光る花々が照らし出す幻想的な『森』を見渡す。


 ブーツが、またしてもグニャリとした感触の物を踏みつけた。ツタに絡められた死体の手だ。



 M7動体探知機を持った古淵が、額の汗を拭ってから、首をゆっくりと横に振る。



「何処にも反応ねえな……全員、死んでる。異世界の鬼畜野郎どもめ……生きた人間を養分に、植物を育てるなんてよ……」



 古淵は唾を吐いて、花のひとつを思い切り踏み潰す。ブドウの濃縮果汁に近い甘ったるい匂いが一杯に広がった。



 すると俺のすぐ後ろで、SIG556を持った叡が冷淡に言う。



「……不要な人間は、植物の養分に。異世界の侵略者側から見れば、合理的な間引きだと思う」



 俺は我が耳を疑う顔つきで叡を見やった。



「間引き、だと……?」



「ただ虐殺するよりも、エコロジー。人間を栄養にこれだけ急成長できる植物があれば、この東京も一週間で異世界の森に変えられると思う。この世界には七十億を越える人間が居る。世界規模に広めれば、食糧問題が解決する。……人間にとっては、たまったものじゃないけど」



 携帯火炎放射器を背負った凛瀬沢は、大量の死体を積んだ電車の窓を覗き込みながら、怯えた口調で言う。



「人間たちを、この植物の養分として家畜化するんですか……? 異世界人の奴隷か、さもなくば養分か……。私なら、潔く死を選びます……」



「あいにく……選ぶ権利は、僕らには無い」



 言ったのは、左手に数珠を巻き付けて死者たちへ弔いを続けていた半田だ。



「僕の推測だが……これは、人間を材料にした、異世界軍の実験のひとつだと思う。【地下浸透部隊】が東京の地下へ送り込まれた目的は、地下への逃げ場を断つと同時に、この恐ろしい植物たちの成長性を実際に確かめることだったんだ。そして僕らは……まんまと、彼らの実験場へと足を踏み入れてしまったわけだ。無事に抜けられればいいが……」



 その言葉に対し、ベネリM4ショットガンを持った宮潟が噛みつく。



「何……? そんな文句があるなら、地上に残れば良かったんじゃないの?」



「おい。争いはやめろ……」



 仲裁に入ったのは、珍しく米海であった。新しい銃剣を装着したM590ショットガンを、蒼ざめた顔で抱きかかえている。



「今にも私は吐きそうなんだ……静かにしてくれ。この蒸し暑さで、死臭と花の香りがごった煮になって、おまけに、どんな怪物が出てくるかも分からないときてる。今すぐ、発狂したい気分だよ、クソ。ファック、ファッキン……」



「情けないわね……こんな時こそ、模擬戦の時みたいに『銃対万歳──!』って銃剣特攻しておけば、気持ちよくなるんじゃない?」



「それは過去の話だ……」



 俺は立ち止まって、背後の隊列の様子を注意深く確かめた。


 先頭には俺と、古淵、凛瀬沢、叡、半田、宮潟、米海の七人が固まっていて、そこから数メートルの距離をおいて、鹿森、蓮、麻戸井、田中、横川、森内、舞原の七人が付いて来ている。


 俺は無線で舞原に呼び掛ける。




「舞原、後方に異状はあるか?」


 



 最後尾の舞原は、64式小銃を片手に持って無線に応えた。



「了解。後方には異状なし……今のところは」



 そのすぐ前を歩く、携帯火炎放射器を背負いUMP45サブマシンガンを手にした森内が力なく笑った。



「……異状なし、ですか。目の前は、『異常』だらけですけどね……」



 舞原は心細くなって、背負っているAT4無反動砲の重みを改めて確かめる。


 何が潜んでいるかは分からないが、この武器が撃ち出す砲弾に勝てるような生物は存在しないはずだ。


 そう自分を勇気づける。



 続いて舞原は、背後の階段の方を振り返って、目を凝らした。


 もうここからでは見えないが、改札口の前にはM2A1重機関銃を構えた栄城が陣取っている。


 銃声が聞こえないという事は、まだ後方も安全ということだ。……音もなく殺されたということがなければ。



 向き直ると、視界から森内の姿が消えていた。




「……森内!?」




 舞原は驚いて64式小銃を構え直し、辺りに素早く視線を配せた。


 だがそれは杞憂で、彼はすぐに見つかった。森内は進路から外れ、どういうわけか電車内に踏み込んでいる。



「おい森内……お前、何してる? 戻れ……」



 森内の視線を辿っていくと、彼が何を求めているかすぐに分かった。


 電車内で死んでいるWASP隊員が、フラッシュライトの灯ったU100軽機関銃を握り締めているのだ。



「ハァ、すぐに戻りますよ……こいつをいただいてからね」



 森内は、異世界の怪物には少々非力さを感じるUMPサブマシンガンから乗り換える為、そのU100軽機関銃に手を伸ばした。


 その姿を見て、舞原の脳裏に黒い予感が掠める。



 『ブービー・トラップ』。


 物資や死体に爆弾を仕掛け、それに不用意に触れた者を無差別に殺傷するという罠で、ベトナム戦争においてベトコンがアメリカ兵に対して多用したゲリラ戦術だ。




「────待て! それに触るな!」




 舞原は叫ぶが、その意図を把握できなかった森内は、そのままU100軽機関銃を掴んで引っ張ってしまった。



 ぎゅる、と妙な音が鳴る。




「あ?」


  


 干乾びたWASP隊員の死体の喉から、勢いよく太いツタが飛び出した。



 鋭く尖った先端が、見開かれた森内の右眼を激しく貫いた。


 それは一瞬にして角膜を突き破り、水晶体に穴を開け、眼球を完全に押し潰した。



「ぎぃいいいいいいいいいいい────!!」



 蛇のように暴れるツタに脳を文字通り掻き回され、森内は絶叫しながらUMP45を死体めがけて発砲した。


 45口径弾がフルオートマチックで放たれ、死体に次々と着弾する。


 しかしほとんどの弾がボディーアーマーに守られ、その腹の中に潜む寄生植物を撃つことが出来なかった。


 死体の全身から次々とツタがのたくり出てきて、断末魔を上げる森内の身体に食らいついていく。



「森内────!!」



 舞原は咄嗟に64式小銃を構え、死体に向けて発砲した。


 だがそこで森内の姿勢が崩れ、7・62ミリNATO弾が彼の背の携帯火炎放射器のタンクを撃ち抜いてしまった。


 火花が散って、タンクから噴出したナパーム燃料に引火した。




 爆発が起こった。


 衝撃をまともに食らった舞原は、灼熱の炎に巻かれながら吹き飛んだ。


 炎が猛烈に成長し広がって、異世界の植物もろとも周囲の物を業火でなめ尽くしていく。




「そんな……! 舞原、舞原ぁああああ!!」



 横川は狼狽して叫び、炎の海に包まれる舞原を助けるべく飛び込もうとするが、咄嗟にその背中を田中が掴んで必死に制止する。



「舞原さんは助かりっこない! 巻き込まれますよ……!」



 火炎放射器が生み出す炎は、ただの炎ではない。放射時の飛散を防止するため燃料はゲル化されており、標的に粘り強く付着して燃焼するのだ。


 全身に燃えるナパーム燃料を浴びた舞原を助ける術はない。



「離せ! 離せ……クソ!!」



 田中を振り払おうと暴れ続ける横川の側で、茂みがカサカサと揺れ動いた。


 

 事態の混乱で顔を蒼白にしていた蓮が、自身の持っていたM7動体探知器の画面を一目見て、驚愕する。


 まるで火災で眠りを覚ましたかのように、大量の小型の熱源反応が次々と現れて、この隊列に接近している。



「何かが、一斉に動き出した!! 囲まれてる!! 早く、ここから……」



 その頭上から、いきなり緑色の物体が落下してきて、蓮の顔に覆いかぶさった。



 それは太った毛虫に似た生物で、背には幾つもの棘が生えていた。


 蓮が悲鳴を上げている内に、その虫は棘から植物のツタをニュルニュルと生やし始めた。



「このクソ虫野郎──!!」



 鹿森が怒鳴りながら、蓮から怪虫を引っ張り剥がして投げ捨て、間髪入れずにM31ソウドオフショットガンを発砲し、虫を容赦なく撃ち砕いた。





「全員、撃ち続けろ! 互いに援護し、虫どもを寄せ付けるな!! ホームの端まで走れ!」




 俺は怒号を上げて、足元まで迫った怪虫を蹴り上げ、HK416のバースト射撃で撃ち抜いた。



「凛瀬沢、火炎放射器を使え! 焼き尽くせ!」



「はい……!」



 凛瀬沢は携帯火炎放射器を構え、電車の下から次々と這い出てくる怪虫たちを狙い、火炎放射を浴びせた。


 ナパーム燃料を浴びた怪虫が次々とジュウジュウと音を立てて黒く焼かれていく。


 焦げ臭さの中に、焼きリンゴのような甘ったるい香りが混じって、吐き気を覚えた。


 

「全く、最低……!!」



 応戦中に弾け飛んだ怪虫の血液を浴びた宮潟は、悪態をつきながらフレアー弾を装填したベネリM4ショットガンを連射する。


 突き刺さったフレアー弾は、マグネシウムの燃焼発光によって怪虫を焼き、その周囲を這う群れもいくらか追い払った。



 その隣では、米海が半べそをかきながらM590ショットガンのフラグ弾を撃ちまくっている。



「来んじゃねーよ!! 虫はクソ苦手なんだよ! 殺せ! 全部殺せ!!」



 取り乱す彼女の背中に、上から落ちてきた一匹の怪虫が取り付いた。


 米海が絶叫するや否や、89式銃剣を左手に握った麻戸井が、その怪虫を躊躇なく刺し殺した。


 麻戸井は米海のこめかみを軽く殴り、SA58を持ち直す。



「さっきからうっさいんだよ……! 殺すなら、黙って殺せ!」





 最後尾では、横川が真っ赤な顔で叫びながらU100軽機関銃を後ろ向きに走りながら連射し、田中が携帯火炎放射器で後方の残りの追っ手を焼却していく。



「俺を食らいたきゃ食らいに来やがれ!! 俺が全部相手になってやらぁああ!!!」



 すっかり弾を撃ち尽くしたU100軽機関銃を投げ捨てた横川は、代わりにM67グレネードのピンを引き抜いて、電車内に投擲し、爆発させた。


 

「まだまだくれてやるよ!! 皆殺しにしてやる!! 舞原の(カタキ)だ!!」



 興奮状態に陥った横川は、もう一つM67グレネードを取り出した。



 見かねた田中が、くれぐれも武器は温存すべきだと忠告しようと思った時。




「うっ」




 横川が急に立ち止まった。


 彼の四肢に、黒い艶のある糸が強く巻き付いている。


 その糸は、巨大蚯蚓によって電車の車体ごと削り抜いて開けられた、あの丸い穴の奥から伸びていた。




 ────『きっと、この怪物は、穴を掘るだけの単純な生物だと思う。地下で生活する、【住民】のために』




 横川の右手から、M67グレネードがポロリと落ちた。


 それと同時に、横川は糸によって穴の奥へと一気に引きずり込まれていった。


 



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