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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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皆殺しの地下庭園  ──「きれい……」



 何が待ち構えていようとも、この地下鉄を走破するしかない。それが生き残るための唯一の道だ。 

 


「全員、弾を補充しろ。残弾の少ないマガジンは必ず交換。空いたマガジンポーチには、予備のマガジンを余すことなく詰めておけ。持ち切れない分の弾薬は、極力均等に分担してバックパックに携帯するんだ」



 俺の指示に従い、早急に隊員たちは銃の点検と弾の補充を始めた。


 銃器対策部隊の三津村と呉碁だけでなく、SAT第二小隊長の沖國が死んだ。


 つまり今、生存者の中で最も階級が高く、これから隊全体を率いることになるのは俺だ。


 だが、自ら宣言せずとも、全員が暗黙の了解として俺の指示に付き従ってくれるのは幸いな事であった。


 リーダー役で揉め、今後の行動方針すら転覆し統率不能に陥るのは、極限状態では大きな障害となる為だ。

 


「さっきの戦闘で、携帯火炎放射器が破損していないかもよく確認してくれ。敵の攻撃や味方の流れ弾でタンクに亀裂が入っていたら大惨事になる。念のため二人掛かりで点検してくれ」


 

 該当する凛瀬沢、森内、田中は、一様にその『大惨事』を想像して顔を蒼くして、そそくさと携帯放射器の点検を始めた。



 M27IARを持った半田は、大容量FATマガジンを古淵にも共有し、互いに5・56ミリNATO弾の制圧射撃が可能な態勢を整えた。


 鹿森と蓮も、同様に栄城からFATマガジンを受け取る。


 ベネリM4ショットガンを持つ宮潟は、使い切ったスピードローダーへの弾の充填を米海にも手伝わせる代わりに、フラグ弾をセット済みのスピードローダーをいくつか彼女に分け与えている。


 横川は、U100軽機関銃の摩耗した銃身を取り外して新しい銃身へ交換する作業を行っており、麻戸井はSA58バトルライフルのマガジンを二個ずつビニールテープで繋ぎ合わせ、戦闘中にも迅速なリロードができるよう工夫していた。


 麻戸井の行動を見た舞原も、腰に差した銃剣の刃こぼれの確認を中断して鞘に戻し、同じように64式小銃のマガジンをテープで束ね始める。


 

「……俺は、ここに残る」



 全員の作業の手が止まり、その声の主に注目が集まった。


 栄城だ。


 壁に寄りかかって、失った右腕の傷を左手で押さえながら、自虐的な笑みを浮かべる。



「俺は今、血の臭いをプンプンさせている。間違いなく、敵に嗅ぎつかれるだろう……いい獲物だな。だから……俺がここで殿(しんがり)になって、追ってくる敵をブチのめしてやる。重機関銃を残していってくれ」



 栄城は、俺を見やった。



「……そういうわけだ、小隊長よ。お前たちは先行しろ。俺はここで一服やりながら、追っ手を迎撃してやる」



 失血により衰弱しているが、彼の瞳は強い決意に燃えていた。


 隊の重荷になりながら失血死する時を待つくらいなら、一人の特殊部隊の隊員として、最期に大きな役割を受け持つことを選んだのだ。


 彼の覚悟を理解した俺は、無言で頷いた。



 栄城は安心したように一息ついて、タバコを一本取り出して口にくわえ、のそのそとブローニングM2A1重機関銃の元へと移動し、座り込む。


 火を点けるためライターを探っていたところで、横で見ていた蓮が、彼のタバコを口から取り上げた。



「おいおい……こんな時でも健康志向か……?」



 蓮は黙って、タバコの先端を自分のHK416の銃口に押し付けた。


 発砲によって焼け上がった銃口で、タバコに火が点いた。


 そして、タバコをそっと栄城の口に添え戻す。


 栄城は目を丸く見開いて、蓮の顔をじっと見つめた。



「…………こうしてみるとお前、いい女だな」



 彼女、蓮は照れ隠しに顔を逸らし、少し怒ったように言う。



「……そういう事は、次からもっと早く言ってくださいね」



 二人を見て、俺は自分の拳を強く握り締めた。



「さあ……新手が来る前に出発するぞ。狭い地下では、射撃方向が限定される。誤射に注意しろ。


 先頭は俺と古淵、そして携帯火炎放射器を持った凛瀬沢だ。


 後ろに半田、ショットガンを持った宮潟と米海がついて、叡の脇を守れ。


 その背後を、鹿森、蓮、麻戸井、田中は二列になって互いに二メートル程度離れた状態でついてこい。


 最後尾は、U100軽機関銃を持った横川と、射程の長い64式小銃を持った舞原、そして火炎放射器を持つ森内が固まってくれ」



 別の巨大蚯蚓が壁を破って奇襲を仕掛けてきた場合、出現する位置によっては部隊が分断される可能性がある。


 よって、隊列の前後で偏りが出ないよう戦力を均等に割り振っておく必要があるのだ。


 それに、予め各員の配置を決めておけば、パニックで互いの位置を見失う事も起こりにくくなる。



 改めて思う。特殊部隊庁舎を出発した時、兵士は何人居ただろうか。


 隊はあっという間に壊滅状態に追い込まれ、今や、この十三名だけだ。



 その数字の不吉さを俺と同様に嗅ぎ取っていた鹿森が、M31ソウドオフショットガンを握りながら、微かに震える声で言った。



「十三、十三、十三……。俺が大嫌いな数字だ。勘弁してくれよ。俺が好きな数字は、『ラッキーセブン』と『シックスナイン』なんだよ」



 鹿森がいつものように付け加えた余計な一言に、真面目に反応したのは空気が読めない凛瀬沢だった。



「私も『ラッキーセブン』は好きですけど、それって……生存者が七人だけになった時、ようやく事態が好転するってことになりませんか?」



 重い沈黙が流れた。


 平時に聞けばあまりに意味不明な理屈であったが、今では妙に現実味があった。


 深いトンネルに入った十三人。出口から出てきたのは、七人だけ。そんな想像がよぎって、否応なしに暗然とした気持ちに覆われる。



 その時、ジャキッと、聞き慣れた金属の擦れる音が響いた。


 あろうことか、死んだ呉碁が持っていたSIG556アサルトライフルが、今は叡の手に握られている。



「ボクを忘れないで。十四。十四人いる」



 そこに、戸惑いの表情を浮かべた米海が噛みつく。



「お、おい! だから何で、お前みたいなガキが銃を持ってんだよ……!」



「……訓練を受けた重武装の大人が、銃を持った。けれど、殺された。数え切れないほど死んだ。……大人も子供も、関係ないよ」



 叡は、こういう子だ。俺と話すとき以外には可愛げが全くない。


 

 SA58を持った麻戸井が、俺の肩を軽く叩いて言った。



「頼りにしてるよリーダー。最初っから、あんまり思い詰めないでよ。存分に、敵を殺す指示をくれ。それに従う。……それで死んだとしても、あたしは恨まないよ」



 

 彼女は言いながら、銃身下部に取り付けたM203グレネードランチャーに、40ミリ高性能炸裂グレネード弾をカポンッと装填した。最後の言葉には、明らかな皮肉を感じ取れる。


 どう返答すべきか迷っている内に、彼女は持ち場へと行ってしまった。



 古淵がM7動体探知器を取り出して、これから足を踏み入れる防火扉の先の動体反応を確認し始めた。



「動体や、妙な熱源は無いようだ。しかし……防火扉の向こうは、ここより温度が少しだけ高いらしい」



「……何か、潜んでいるのは間違いないだろうな。何が出てきても、躊躇なく、撃て」



 俺は速やかに進み出て防火扉の施錠を外した。


 いつでも開けられるよう左手を掛けながら、古淵に視線を送った。


 HK416を右手に握った古淵と俺は、無言で頷き合う。



 そして同時に、防火扉を押し開いた。



 奥から、暖かい空気と共に、濃厚な甘い匂いが吹き込んで来た。



 俺と古淵はHK416を素早く構え、フラッシュライトに照らし出されるその先の光景を見た。









「嘘だろ」




 


 


 想像を遥か超える信じ難い光景に、全員が言葉を失う。



 防火扉の先は、地下鉄半蔵門線の乗り場へと繋がる改札口であったはずだ。


 しかし眼前にあるこの景色に、そんな現代施設の面影はなかった。



 唖然とする古淵が、その率直なイメージを言葉に漏らした。





「…………妖精の、森」





 そこにあったのは、淡い多彩な光を放つ植物が生い茂る、幻想的な森であった。


 『床』、『天井』、壁の一面が草で覆われており、見たこともない様々な花が生えている。


 その綺麗に咲いた花が、例の甘い香りを漂わせながら、複雑な色彩の柔らかい光を内包しているのだ。


 停電によって闇に包まれているはずのその空間は、今やネオンのような花々が放つ妖艶な光に覆われた、幻想的な異世界の森へと変貌していた。



 誰もが、この世の物とは思えないこの地下庭園の光景に、無言で魅入ってしまった。




「きれい……」


 

 目を輝かせた凛瀬沢が、静かに進み出た。



 そこへ、花に留まっていた白い蝶のような小さい生物が、彼女の元へゆっくりと飛んできた。


 凛瀬沢が差し出した右手に、ぴたりと止まる。


 その蝶は、触角をぴくぴくと動かし、彼女の顔を見た。


 指を動かして捕まえようとすると、蝶はパッと羽を広げて飛び立ち、森の奥へと消えて行ってしまった。



「……もしかして、誘ってるの? この奥に来て、って……」



 彼女の言葉に、俺は我に返った。景色に見とれている場合ではない。


 ここは、間違いなく改札口だ。草に覆われた凹凸が、その原型を残している。


 いくら無人で放置されたからと言って、たった数時間でここまで植物が生い茂るはずがない。



 【地下浸透部隊】の仕業だ。



 俺はHK416を構え直し、慎重に草を踏みつけて歩を進める。



 一際大きい、青く光る花が足元にあって、俺はしゃがみ込んで観察する。


 よく見ると、根元でツタのような紐状の植物が複雑に絡み合っていた。



 ……!



 ツタが絡まって分かりにくいが、銃が落ちていた。大きさから見て、ライフルだ。


 絡まったツタを引き剥がして、銃身を持ち上げてみた。



 SA58バトルライフル。


 麻戸井が今持っているものと同じ、WASPの連中が持ち込んでいたものだ。


 ここに逃げ込んだWASPの隊員たちが、巨大蚯蚓の襲撃から逃走する際、ここに落としていったのだろうか。





 ────────いや、違う。





 グリップに、人間の右手がくっついている。



 俺は邪魔なツタを次々と掴みちぎって、そして、言葉にならない声を上げる。




 この森の正体……それは。




 愕然として、引きちぎったツタを手放した。


 



 ──『王でも大臣でもない、ただの小娘と老人の護衛としては、史上最強の警護チームとなる。大船……いや、戦艦大和に乗っているようなものだ』




 花の根元にあったのは、会議室で迷言(めいげん)を残したWASPのブラヴォー小隊長、星乃弓子中尉の干乾びた死体だった。



 彼女の身体中に植物のツタが刺さっており、彼女の想像を絶する恐怖と苦悶に開かれた口から、その大きな青い花が生えている。



 星乃中尉の血肉は、この異世界の美しい花の養分にされたのだ。


 ……恐らく、生きたままに。



 俺はフラッシュライトで、他の花を照らしていく。


 惚けていた凛瀬沢もようやく気付いて、甲高い悲鳴を上げる。


 


 姿が見えなかった利用客や駅員たち。


 皆、ここに居た。


 ツタによって(はりつけ)にされ、花を植えられたのだ。




 古淵が『妖精の森』と形容した、この儚く幻想的な森。





 それは、人間の血肉を養分として育つ、人食いの森であった。





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