地下殺戮包囲網 ──「生き残れるわけねえだろ……こんな地獄……!!」
強い地響きが起こった。
手負いの二匹の巨大蚯蚓が、同時に北側区画の壁を破壊し現れた。
爆発物で損壊した顔をお互いに突き合わせ、低い唸り声を上げている。
二匹とも血まみれの重傷で、最初に現れた時のような威勢は感じられない。放っておいても、いずれ地中のどこかで死に至るであろう。
俺は、その醜悪で愚かな怪物たちに一抹の憐憫を感じた。
巨大蚯蚓が唸りながら、南側区画の端に陣取った俺たちを見た。
そして最期の力を絞るように血混じりの咆哮を上げ、二匹は絡み合いながら通路を滅茶苦茶に掻き回し、猛進してきた。
「──────────爆破!!」
俺の号令と同時に、古淵がM18クレイモア指向性対人地雷を起爆した。
作動した遠隔起爆装置が、地雷内部のC4可塑性爆薬を爆破し、封入された七百発のベアリング対人殺傷鉄弾を圧力で前方へ一斉射出させた。
五個のM18クレイモア指向性対人地雷が同時に爆発し、合計三千五百発の殺傷鉄球の嵐が巻き上がり、凄まじい衝撃波が通路を突き抜ける。
炎を纏った弾丸の猛嵐が、二匹の怪物の表皮をズタズタに引き裂き、大量の牙を容赦なく粉々に砕いていく。
巨大な悲鳴が上がった。
俺はAA12を構え、叫ぶ。
「全員、撃て!!」
横川のブローニングM2A1重機関銃が、吼えた。
薬室に装弾された12・7ミリNATO弾が点火され、約二万ジュールに達するエネルギー、秒速約千メートルに及ぶスピードを併せ持つ、破壊神の如き炸裂焼夷弾頭が、銃身内のライフリング溝に強く噛みつきながら回転加速し、鉄の中で冷えた空気を灼熱で切り裂きながら、巨大な砲炎を伴って銃口から噴き出した。
凄まじい着弾の爆炎が、怪物の肉を撃ち砕いていく。
地を容赦なく揺さぶる重機関銃の猛連射が続いた。
俺はAA12をフルオートマチックで撃ち込み、宮潟がベネリM4ショットガン、古淵がHK416、半田がM27IARを発砲した。
蓮と鹿森は栄城から受け取った大容量FATマガジンをHK416に装着して大量の弾幕を放ち、栄城自身は伏射姿勢で横川から借りたU100軽機関銃を床に二脚で固定し左手一本で制圧射撃を行った。
銃器対策部隊の米海、麻戸井、凛瀬沢、舞原、森内、田中もそれぞれ自分の銃の弾丸をありったけ怪物に撃ち込んでいく。
俺は弾を撃ち尽くしたAA12を捨て、素早くHK416に持ち替えてフォアグリップを握り締めながら、断末魔の呻きを上げる怪物へ発砲を続けた。
咆哮が薄れてきたところで、叡が俺の隣に立って、正確に構えたM45A1で怪物を撃った。
「……────撃ち方、止め!」
俺は右手の握り拳を掲げ、射撃を中止させた。
二匹の怪物は、ついに死の沈黙に沈んだ。
ただの肉屑の塊と化して、もう、微動だにしない。
────我々は、怪物を倒したのだ。
だが、誰も、何も、言わなかった。
勝利の栄光とはほど遠い、血と火薬の焦げた匂いが立ち込める、この陰鬱な地下道の中。
重苦しい静寂の数十秒が流れた。
それを突き破ったのは、森内の涙声だった。
「……こんなバケモノが……何匹もいるのかよ……!!!」
森内が自分の頭をグシャグシャと掻き、弾を撃ち切ったUMP45サブマシンガンを乱暴に投げ捨てる。
「生き残れるわけねえだろ……こんな地獄……!!」
その場でへたり込んで、めそめそと力なく泣き始めてしまった。
彼の言う通りだ。勝利に喜ぶことなど到底できない。
【地下浸透部隊】。たった三匹の怪物だけで【部隊】という名が付けられるわけがない。
今ここで戦ったような怪物が、さらに東京中の地下に巣食っているのだ。
彼に掛けるべき言葉は見つからず、俺は冷静に周りへ尋ねる。
「……犠牲者は?」
それに対し、米海がぶっきらぼうに答える。
「二人死んだ。三津村と、沖國……」
「違う……」
横槍を入れたのは、麻戸井だった。
両脚を失いぐったりと倒れている呉碁の脈を測り、彼女は首を横に振った。
「呉碁も……死んだよ」
麻戸井は、力なくうなだれた。
続いて俺は、蓮に介抱されている、右腕を失った栄城に視線を移した。
「栄城さん……しっかりして、大丈夫。絶対に、助かるから……!」
蓮は精一杯気丈に振舞って栄城を勇気づけようとしていたが、その瞳は抗えない現実を受け入れた悲しみに満ちていた。
「……心配するな……俺は、無敵だ」
栄城の意識は虚ろで、顔も死人のように青白い。
止血帯で失血を抑制し応急処置を受けているが、一刻も早く病院で緊急手術を受けなければ、彼の命は無い。
しかし、この異世界の軍隊に支配された混沌の領域の中で、いったい何処の病院が無事に動いているというのであろうか。
彼も、長くはもたない。
叡が、M45A1からマガジンを抜いて、コートのポケットからジャラッと45ACP弾を取り出し、マガジンにカチャリカチャリと押し込んで撃った分の弾を補充しながら、ぼそりと言った。
「ねえ、小隊長さん。アヤカが【ガルータム】って国について言ってたこと、覚えてるかな。攻めてきた敵国の一個中隊を壊滅させたって話」
「見せしめに両腕を切り落とされた中隊長だけが帰ってきたっていう、あのエピソードか……」
「うん。小隊長さんは、いま殺したこの怪物に、そんな小賢しい知恵があるように見えた?」
俺は無言で巨大蚯蚓の亡骸を見て、目を細める。
この怪物共は、そんな邪悪な機転を働かせるどころか、人の両腕を狙って『切り落とす』ことすら難しいであろう。
「きっと、この怪物は、穴を掘るだけの単純な生物だと思う。地下で生活する、【住民】のために」
その時、俺の鼻孔が違和感を察知した。
火薬や血の強い悪臭の中に、この場に不釣り合いな、誘うような甘い香りが混じって漂っている気がする。
「おい……どこからか、甘い匂いがしないか……?」
すると古淵が、俺たちの真後ろにある封鎖された防火扉を指さした。
「そっちの方から、ずっと匂ってきてる。毒ガスじゃないようだが……。そう言えば……さっき嗅いだ時より、匂いが強くなってる気がする……」
砂糖をふんだんに使った不健康な洋菓子のような、異様に甘ったるい匂い。
俺はHK416を握りしめ、頑丈に閉ざされた防火扉を睨みながら、言葉をこぼした。
「──────この先に、何がいるんだ……?」





