異世界国ガルータム:地下浸透部隊(2) ──「徹甲弾をありったけ撃ち込め! 確実に、殺せ!」
頭を引っ掻き回すように騒々しい、銃声、怒号、悲鳴。
夢の世界で爽やかな天空を羽ばたいていた米海は、急速に浮力を失って墜落していき、深い闇に包まれた。
仰天した米海が目を開けると、そこには決して覚めることのない血生臭い悪夢が広がっていた。
フラッシュライトの丸い光源に照らし出された、辺り一面に散った大量の血と肉片。
すぐ横に顔を傾けると、ボロ布のように裂かれた、人間の上半身が転がっていた。
それは、三津村の残骸であった。
あまりに衝撃的な目覚めに、米海は短く悲鳴を上げた。その弾みで、小失禁してしまう。
彼女の人生における駅での失禁は、これで通算二度目となった。
「────また壁に潜りやがった! 全員、壁に注意しろ!! どこから出てくるか分からんぞ!!」
沖國は、銃口から硝煙を上げるAA12を構えながら、怒声を上げた。
「おい、まだ火炎放射器は使うなよ!! ここで使ったら全員業火の巻き添えだ! 爆薬も同じだ!」
携帯火炎放射器を構えようとする銃器対策部隊の森内を怒鳴りつける。
それを受けた森内は小さく舌打ちをして、代わりにスリングで下げていたUMP45のコッキングハンドルを掴んで、ジャコンッと引いた。
傍目に怒声を聞いていた凛瀬沢も、背負っている携帯火炎放射器に伸ばそうとした手を、そっと引っ込めて、代わりに89式小銃を握った。
SATと銃器対策部隊の隊員たちの銃から照射される多数のレーザー照準器の光線が、闇を切るように通路に錯綜する。
HK416を抱えた蓮は、深い呼吸を繰り返して恐怖を必死に押し殺しながら、銃に取り付けたイオテック社製のXPS3ホロサイトの電源を入れ、覗き込んだレンズの中に赤色のレーザーホログラフィックによる照準円を投影させた。
ハンドガードに取り付けたレーザー照準器も併用して、蓮は歯を強く噛み合わせながらその狙いに全神経を集中する。
その側にはHK416を構えながらミントガムを渋い顔で噛み続けるSATの鹿森が居て、その奥では、宮潟と半田が鋭い眼光で次なる攻撃を警戒していた。
「ち、ちくしょう……三津村……! クソッ、クソッ……!!」
臆病な声を上げているのは、銃器対策部隊の呉碁だ。SIG556を構える手が、小刻みに震えている。
その彼の動向を、89式小銃を構えた田中は不安げに横目で観察する。
彼に心配や同情を感じているわけではない。錯乱した味方による誤射を恐れているのだ。
そうした仲間の状況を見渡していた米海は、再び「イッ」と肝を潰す声を上げる。
すぐ隣に、血まみれの麻戸井が立っていたのだ。
「おっ、お前、血、血が……! だっ、大丈夫か?」
「……あたしの血じゃないよ」
事態の深刻さを捉えた米海は、目を見開きながらM590ショットガンをゆっくりと構え、フォアエンドをジャキンと前後させた。
M27IARを構えたSATの栄城が、低い声で場を威圧するように言った。
「次に出てきた瞬間、一斉射撃を食らわせてやれ。徹甲弾をありったけ撃ち込め! 確実に、殺せ!」
だが、その直後。
彼の背後の壁に亀裂が入った。
「──────!!」
壁を砕き破る轟音が鳴り響き、盛大な白い粉塵を舞わせながら、掘削ドリルの如く高速回転する大量の牙が現れた。
そのまま、栄城の背中へ猛然と突っ込む。
再び、鮮血が散った。
「がぁあああああああああああああ────!!!」
避けようと反射的に身体を捻った栄城だったが、牙に右腕を持って行かれた。
巻き込まれたM27IARが粉々に砕かれ、へし折れた銃身やレールハンドガード、レシーバーの残骸などが火花を上げながら飛び散り、破壊されたFATマガジンから金色の5・56ミリ弾が跳ね散った。
栄城の悲鳴と武器の破片の落下音は、立て続けに起こった銃声の猛烈な嵐によって消し飛ばされた。
隊員たちが次々と銃を発砲する。
装填された銃弾の火薬が次々と炸裂し、空間を容赦なく震わせた。
銃口から弾丸を伴って噴き上がった数多の鮮やかな砲炎が、闇の中で、敵の全貌を照らし上げていく。
そこに居た怪物は、巨大な紫色の蚯蚓。
しかしその牙は現代のあらゆるものを削り砕き裂くための高速掘削に適した凶暴な形状をしており、その蠕動する長い身体にも、ドリルのような螺旋状の模様を描く無数の細かい刃が生えていた。
それが、この駅に多数の虫食い穴を開けた怪物の正体であった。
米海は叫びながら、通路を縦断する巨大蚯蚓に向けたM590ショットガンを力の限り連発し、防弾装備貫通用の鋭い矢を封入した12ゲージのタングステン・フレシェット弾をありったけ叩き込んだ。
その隣で、麻戸井もSA58バトルライフルをセミオートマチックで速射する。
隊員たちの銃撃が怪物に着弾する度に、耳障りな金属音と小さい火花が飛んだ。
発砲し宙に放出された大量の薬莢たちが、豪雨のように『床』に降り注いでいく。
だが、攻撃が効いている手応えが無い。
巨大蚯蚓は、そのまま反対側の壁を掘削しながら引っ込んでいってしまった。
米海は弾切れのM590ショットガンを下ろし、苦悶に喘ぐ。
「効いてねえのかよ、嘘だろ……!!」
「……いったい、どうすれば……」
同じく苦虫を噛み潰した顔になっていた半田は、ふと、『床』に落下した巨大蚯蚓が残した表皮の細かい破片に視線を奪われた。
半田は眉を顰め、自分の身体を守っているボディーアーマーに手をやった。
自分たちが装備しているドラゴンスキン・ボディアーマーは、小さい防弾プレートを鱗のように織り込むことで、被弾時に衝撃を拡散し防御能力を高める構造を持っている。
あの巨大蚯蚓の表皮にも、それと同様の効果が現れているのではないか。
複雑な表皮は地を削り抜くのに役立つだけでなく、着弾した弾丸の威力を分散させる効果を持っているに違いない。
さらには、痛覚も非常に鈍いように見える。
だからあれだけ山ほどの銃弾を撃ち込んでも、活動を停止しないどころか怯みもしないのだ。
……なんて奴だ!!
鹿森は、弾を撃ち尽くしボルトが後退停止したHK416の銃口を下げ、残弾のないマガジンを床へ脱落させた。
「クソッ、まだまだ来る気かよ……!! あいつらのサイズ、俺のムスコの二倍はあるな……!!」
いかなる時でも決して下ネタを忘れない鹿森は、予備のマガジンを銃にガチャリとセットして、ボルトリリースを乱暴に叩いてジャキンと次弾を装填した。
「栄城……!! 大丈夫か!?」
沖國はAA12を抱えながら、右手を失った部下の元に駆け寄った。
「……大丈夫、かすり傷ですよ、こんなもん……!!」
栄城は痛みに耐える苦しい顔つきで、左手を使ってG17ピストルを抜いた。
親指をグリップに引っかけながら、他の指でスライドを握り込んで捻るように引いて、片手で初弾を装填した。
「どこがだ!? こんな時まで強がるんじゃない! とにかく、今すぐ止血を……」
その時、沖國の真上の『天井』から、二匹目の巨大蚯蚓が現れた。
「あっ……」
悲鳴を上げる間もなく、その巨大蚯蚓は沖國の身体を押し潰し、粉砕した。
幾年にもわたり過酷な訓練を乗り越え実績を積んで、一年前にようやくSAT第二小隊の小隊長まで上り詰めた沖國清冶警視の人生は、ここで一瞬にして消失した。





