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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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異世界国ガルータム:地下浸透部隊(1)  ──「出やがったなバケモノォオオオオオ────!!!!」


 

 三洋百貨店前駅、南側区画。


 奥の防火扉を背に設置したブローニングM2A1重機関銃の手前で、古淵、舞原、横川が輪になって座りながら談笑していた。


「まったく……聖夜だって言うのにどうして俺は、嫁が裸で待っているベッドじゃなく、むさ苦しいおっさんと筋肉野郎と一緒に、気味悪い虫食い穴の開いた地下鉄駅で時間を過ごしてるんだろうな……」


 舞原が自分の口髭をこすりながら苦笑する。


 すると、筋肉野郎こと横川が、スッと舞原との距離を詰めた。


「ならば、俺が裸になってやろうか? それならプラマイゼロだろう」


「ふっ、ざけんな……! 何のプラマイだ! 想像しちまっただろ……! そんな冗談やめろ……!」


「……実はな、お前のこと、ちょっと良いなと思っていたんだ」


「え? じょ……冗談じゃないのか」


 ドン引きする舞原の瞳を、横川が真っ直ぐに見つめる。


 古淵はニヤニヤしながら、コーンポタージュの缶に口をつけて、成り行きを見守った。



 二人のそんな雰囲気を惹き立てるように、洋菓子のような甘い匂いが漂ってくる。



「ぶっ……! てめえ、こんな時にフレグランスなんて使ってんなよ? 気色悪いな……!」


「ん? 俺はそんな女々しいもの使っていないぞ。お前じゃないのか。てっきり、お前が発情した匂いが、俺に嗅ぎ取れるようになったのかと……」


「いい加減にしろよ……!」


 舞原は顔の向きをキッと変えて、古淵の持つコーンポタージュを指さした。


「おい古淵! よくそんな甘ったるいコンポタ飲めるな! こっちまで甘臭いぞ……!」


「あー? 何だと?」


 古淵は、缶から漂うコーンポタージュの匂いを嗅ぐ。


「……いんやー、俺じゃねえな……。むしろ、このコーンポタージュ、結構塩っぽい味だぞ」


「じゃあ、この甘い匂いはどこから……?」


 男三人で、しばらく無言でクンクンと鼻を鳴らす。


 古淵は立ち上がって、背後の防火扉に手を当てた。



 この封鎖されている先には、地下鉄半蔵門線への入り口がある。


 休憩を終えた後、向かうべき場所だ。



「こっちの方向から、漂ってきているようだぜ……」



 防火扉のわずかな隙間から漏れてきているようだ。


 古淵は腰のポーチから有毒ガス検知器を取り出して、防火扉の周辺を調べる。



「……安全だな」



 古淵の結果を聞いて、舞原と横川は揃ってホッと安堵の息をついた。


「甘い匂いのする代表的なガスと言えば、シアン化水素、いわゆる青酸ガスだが……違うらしい。嗅ぎまくった俺たちに、今のところ、何の異変も起きてねえからな。多分、自動販売機が壊れてジュースでも漏れてるんだろう……」


「おいおい、ビビらせないでくれよ……寿命が縮むだろうが! もし、この匂いの正体が青酸ガスだったら、どうなってたんだ?」


 古淵は、残り少なくなったコーンポタージュを一気に飲み干してから、言う。



「ホロコースト。ナチスがユダヤ人の処刑のために収容所のガス室で使ったのが、青酸ガスだ」



 舞原と横川は、戦慄した表情で互いの顔を見合わせる。自然と、呼吸の数が少なくなった。


「まったく、クソ恐ろしい話だよな。一人の指導者の意思で、百万人以上のユダヤ人が虐殺されたんだから。……だが安心しろよ、現代にナチスは居ない。…………多分な」


 そう締めくくって、古淵は大きく深呼吸をした。

 






 一方、北側区画。



 銃器対策部隊の三津村は、歩きながらM7動体探知機のモニターを食い入るように見つめていた。


 出し抜けに、右肩を背後から叩かれて、三津村は驚愕し飛び上がる。


 そこに居たのは、携帯火炎放射器を背負い89式小銃を手にした、同じく銃器対策部隊の仲間の田中であった。


「おっ、驚かさないでくれよ……!」


「そんなゲームボーイに夢中になってる方が悪いだろ。ちゃんと、目を使って警備してくれや」


 田中は、自分の目元を指で示す。三津村は不貞腐れて、M7動体探知機を構え直した。


「……あのなぁ、お前は壁の中が見えるのか? 【地下浸透部隊】とかいう異世界の穴掘り名人が、間近に迫ってるかもしれないんだぞ」


「自分の目と耳より信用できるものなんぞ、あるか?」


「人間よりも、機械の方が優れてる。明白だな……」


 三津村は、控えめに出した人差し指で、ある方向を示す。


 そこには通路の隅で寝転がり、盛大ないびきをかいている米海の姿があった。


「ったく……女の子に銃を奪われたばっかりだってのに、どうしてこう呑気にグッスリ寝ていられるかね……」


 一応、例のM590ショットガンは大事そうに抱きかかえられている。だが持ち主がここまで爆睡していては、あまり意味がない気がする。


 三津村と田中の視線は、その横で座り込んでいる麻戸井の方へ向いた。


 麻戸井は、駅の売店や自販機から拝借したスナック菓子とジュースをモリモリと食べている。


「……麻戸井、君の胃袋はどうなってるんだ?」


「何、あたしに文句あるの? 栄養がなければ、走れないし、銃も構えられない」


「いや、理屈は分かるけど……それにしたって、こんな状況でよく食欲が湧くもんだな……」


 麻戸井は口を押さえながら小さくゲップをすると、脇に立てかけたSA58バトルライフルを持ち上げて、見せつけるように三津村の眼前に立て置いた。


「お前の銃の口径は、5・56ミリNATO……あたしの銃は、7・62ミリNATO。馬力が違う。食った分だけ、しっかり働いてやる」


 三津村が返答に困っていると、麻戸井はそのまま平然と食事を再開する。


「はぁ、まったく……」


 呑気なものだ。三津村と田中は、ため息をついた。



 その時。





 ────照明が突然、消えた。





「な、何だ!?」



 唐突な暗闇に、三津村はその場で慌てふためく。


 非常誘導灯だけがおぼろげに点灯しているが、照明に目が慣れていたせいで闇をほとんど見通すことができない。


「落ち着けよ。みっともねえな……」


 田中は89式小銃の取り付けたフラッシュライトを点灯した。


「お前は、何でそう落ち着いていられるんだよ……! 敵が電気を遮断したんだ……! 襲撃が近い……!」


「慌てんなよ、慌てんな……。竜の群れの襲撃で、ついに送電施設がやられたんだろ。今まで電気が通っていたのが不思議なくらいだ。ここだけじゃなく、おそらく一帯全域の電気が死んでる」


「だからって、ここが大丈夫な理由にはならないだろ……?」


「考えてもみろや。襲撃するつもりなら、もっと派手な場所を狙うだろ。こんな地下の穴ぐらの一か所を、誰が好き好んで襲撃するんだ?」


「……それも、そうか」


 そこで、自分のフラッシュライトを点灯した麻戸井が、SA58のコッキングハンドルをジャキッと引いた。



「もう忘れた? あたしらは、中嶋叡の警護をしているんだよ。異世界軍の連中が血眼で狙っている、たった一人のガキのな……」



 三津村は唖然として、M7動体探知器のモニターを注視した。


 停電前には映っていなかったはずの、正体不明の大きな熱源が映っている。



「…………壁の中に……熱源?」



 三津村はM7動体探知器のリストバンドを腕に通して保持しながら、スリングで吊っていたSIG556を握り直した。


 マガジンを抜いて5・56ミリアーマーピアシング徹甲弾がセットされていることを確認してから、マガジンを戻し、左手でコッキングハンドルを引いて初弾を装填。最後に、フラッシュライトとレーザー照準器を点灯させた。


 三津村はSIG556を構えながら、同じように警戒する田中、麻戸井と共に慎重に歩を進める。



 そして、熱源を探知した壁の正面に立った。


 この壁のすぐ向こうに、熱を持った大きい何かが潜んでいる。



 ……異世界の新手が、ついに来たか。



 唾をごくりと飲み込んで、三津村はSIG556の銃口を熱源の方向へ向けた。



「三津村、やめて。何する気……?」



 麻戸井が咎めるが、三津村は構わず銃の狙いを定め続けた。



「……先手必勝だ。この弾なら、壁を撃ち抜ける。敵は、俺たちが奴らを探知できることを知らない。奇襲を仕掛けてくる前に、こっちから仕留める」



 親指でセレクターを、フルオートの位置にセットした。



「名案だ。三人で一斉に撃てば、間違いなく蜂の巣にできる……」



 田中も同調し、89式小銃を壁に向ける。



「おいおい……。倒せなかったら、真っ先にあたしらが死ぬんだけど? 【地下浸透部隊】とやらの怪物の正体は見た? 誰も、見てないでしょ」



「だからって、このまま放っておいて敵に先手を打たせるのか……? 味方を起こして場が慌ただしくなったら、敵に気付かれる。チャンスは今しかない。どのみち俺たちは、迷路の中のネズミ。八方塞がりなんだよ……」



 麻戸井は納得がいかなそうだったが、渋々と三津村と田中の横に並んだ。


 三人で、射撃準備をする。



「三秒、三秒だ。カウントダウンしたら、一斉に引き金を引く。マガジンを撃ち切るまで撃つ。いいな」



「全く……米海のバカが、どんな顔して起き上がるか見ものだねえ……」




 麻戸井は、構えたSA58の引き金に指を乗せる。



 しかし。




「ん……?」




 三津村自身は気付いていないが、M7動体探知器のモニターに変化があった。


 大きな丸い熱源が、三人を覆うように被さっているのだ。



 ……これは?



 麻戸井は、『床』を見て、それから『天井』を見た。


 微かに、石臼を挽くようないびつな音が聞こえる。


 本来は地下鉄駅の床である頭上から、細かい砂塵がパラパラと降ってきた。



「あっ……」



 そこで気が付いた。


 壁を掘ることができる生物なら、床だって掘れるに決まっている。




「────危ない!!」




 麻戸井は咄嗟に叫び、その場を飛び退いた。


 田中もそれに驚いて、反射的に下がる。



 カウントを始めようとした三津村だけが、そこに残された。




「……え?」




 刹那、凄まじい轟音。


 一瞬で、『天井』が崩落した。


 現れたのは、無数の牙を何重にも成る輪の形に持った、ヒルのような巨大な怪物の口。


 肉が腐敗する悪臭。


 恐ろしく野太い咆哮が駅構内を震わせ、突き抜ける。




 ──────異世界国ガルータム、【地下浸透部隊】。




 細かい瓦礫と大量の涎を浴びながら、三津村は絶叫する。



「出やがったなバケモノォオオオオオオオオ────!!!!」



 SIG556を上へ発砲しようとする。



 だがそれと同時に、壁からもう一体の怪物が猛スピードで飛び出した。


 無数の牙を、掘削機の如く高速回転させながら。



 三津村は牙に巻き込まれ、一瞬で胴体を粉砕された。


 ミキサー同然に大量の血飛沫を撒き散らし、空間を深紅色に染め上げながら、三津村の肉片が噴き散った。




 麻戸井は全身に血を浴び、腹の底から叫びながら、SA58の引き金を思い切り絞る。



 撃ち出された7・62ミリNATO弾の甲高い銃声が、東京地下鉄に巣食う【地下浸透部隊】との壮絶な戦いの幕開けを告げた。




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