アイソレーション(2) ──「この地雷は、足ではなく、より致命的な胸部や頭部を狙って殺傷できるよう設計されている」
足早に駅の北側区画へと戻った俺たちは、改めてこの場に全員を集めて顔を合わせた。
戦闘員として生存しているのは、SAT第四小隊の俺たち四人と、警護隊の十三名の生存者のみ。
この現状武力で、得体の知れない異世界の怪物たちが待ち受ける地下鉄を走破しなければならないのだ。地上は壊滅し、救援は無い。
「全員、よく聞け。この地下鉄駅を襲った奴らに、5・56ミリの通常弾は効かない。徹甲弾をいつでも撃てるよう、銃に装填しておけ」
俺はHK416からスチールポイント弾が装填されたSTANAGマガジンを抜いて、代わりにアーマーピアシング徹甲弾が装填されたマガジンをセットした。
他のSATと銃器対策部隊の隊員たちも、それに倣って次々とマガジンを交換する。物々しい金属の擦れ音が、否応なしに場の緊張を引き立てた。
「これで、敵を貫けるのか」
初老だががっしりとした体格で迫力を感じさせるSAT隊員、栄城透警部は、M27IARのマガジンを交換しながら、ドスの効いた低い声で俺に尋ねる。
「それは、実際に敵と出会ってみなければ分からない。だが、5・56ミリNATO弾の弾速は毎秒九百メートルを越え、SA58の7・62ミリNATO弾を上回る弾速だ。アーマーピアシング徹甲弾の弾頭は、戦車砲弾の素材にも利用されるタングステン合金製。対峙する敵は、直径一メートル程度の穴を潜れる程度のサイズだ。撃ち抜ける公算は大きい」
U100軽機関銃を持った銃器対策部隊第三班班長の横川が、俺の言葉に対して頷く。
「ストッピングパワーの低さは、弾数で補えば良い。一発なら殺せないだろうが、百発撃ち込めばどうだ? もし、敵がこの弾丸にも耐えうる装甲を持つ生物だというのなら、自重は相当に重く移動速度も低い。別の『対処』を行うには充分な時間が取れる」
そこで、黒いキャップを被り、優男に見えるが普段から口が悪いSAT隊員の鹿森哲徳警部補が、くちゃくちゃとミントガムを噛みながら言う。
「まったく……WASPの奴ら、かなわん怪物が出たってことでションベン撒き散らして、この駅に運び込んでいた多くの物資を置き去りにしちまったようだ。イケイケの俺らが活用してやろうじゃないか。武器とムスコは、使わなきゃ腐るだろ」
宮潟と叡の二人は、鹿森の下品な言葉を受けて露骨に嫌悪する顔つきになった。
鹿森はそれに気付きつつ、壁に立てかけられたその強力な火器を指で示し、陽気な調子で続ける。
「さて、そこのお嬢さんたちよ。男臭さがムンムン漂う、この極太のイチモツを見てくれ……こいつをどう思う? 俺の生存本能が、ビンビン言ってるぜ」
壁に立てかけてあるそれは、国防軍の対戦車砲だ。
AT4無反動砲が二挺、パンツァーファウスト3対戦車ロケットランチャーが一挺。
そうしたところで、背が低く男とも女ともとれる中性的な美形のSAT隊員の蓮司音警部補が、鹿森の尻を強く蹴ってその場から退場させた。
蓮は、自分のHK416のボルトキャリアーの火薬汚れを掃除しながら、機械的に説明する。
「警察では通常全く使うことがない武器だから、一応、改めて説明しておく。
AT4無反動砲は、一発の射撃で使い捨てだけど、軽量。装填された84ミリ成形炸薬砲弾は、五十センチの厚さの装甲板を撃ち抜き破壊可能。
パンツァーファウスト3対戦車ロケットランチャーは、重量はおよそAT4二挺分と重い代わりに、ロケットブースターを搭載した110ミリ対戦車ロケット弾を撃ち出す。弾道測定コンピューター内蔵の光学照準器を搭載し、有効射程は非常に長い。予備弾は無し。これも一発限りになる」
これらの火器は無論、警察の装備として採用されているものではないが、SATでは国防軍との合同作戦を想定し、有事の際には多くの軍用火器を使用できるよう訓練を受けている。
銃器対策部隊のグループも、この場では舞原と横川が国防軍の出身であるから、この強力な対戦車砲が宝の持ち腐れになることはなさそうだ。
「……なるほど、頼もしいが、この三発で足りるかどうか分からない。他に強力な武器は?」
その問いに対し、蓮は足元に置かれた武器ボックスを二つ蹴り開ける。
「右は、M18クレイモア指向性対人地雷。左は、M16バウンシングベティ跳躍地雷。地雷はそれぞれ十個ずつ。リモコンによる無線起爆、トリップワイヤー、どちらでも起爆が可能。
M18クレイモア指向性対人地雷は、起爆すると、封入された七百発のベアリング弾がショットガンのように正面六十度に射出され、掛かった敵を肉ミンチに変える。指向性ゆえに、敵を迎撃できる方向に向けておけば、後方の味方が巻き込まれるリスクを最小限に、標的だけを確実に爆殺可能。
M16バウンシングベティ跳躍地雷の方は、起爆すると、跳躍用爆薬によって約二メートル上方に撃ち上がった後、本体が爆発し全方位約三十メートルの範囲に金属弾を飛散させる。この地雷は、足ではなく、より致命的な胸部や頭部を狙って殺傷できるよう設計されている。軍の一分隊を、一発で壊滅させられる。強力だけど、言わずもがな、充分な距離を取らねばこちらまで危険が及ぶ。使いどころは難しい」
俺は、緑の弁当箱のような形のM18クレイモア地雷と、缶詰にそっくりなM16バウンシングベティを手に取り、見比べる。
「地雷か……。狭いトンネルで使うには不向きだが、道を崩して敵を生き埋めにしたり、いくつか束にして即席の対戦車地雷にしても使えそうか。……他に、WASPが残した武器はあるか?」
「グレネードランチャー用の40ミリHEグレネード弾が三十発。M67フラググレネードが二十個。後は、7・62ミリNATO弾、5・56ミリNATO弾、12ゲージショットシェル、45ACP弾の予備弾薬がタップリ」
「アンチマテリアル・ライフルは無いか?」
「残念、それは見当たらなかった。外で死んだ隊員の死体や、ストライカー装甲車の車内を調べれば見つかったかもしれないけど……天地が逆転した今じゃ、どうしようもない」
「そうか……」
俺は今更ながら、柚岐谷のゲパードGM6アンチマテリアル・ライフルを回収してくるべきだったと後悔した。
すると、銃器対策部隊のひとり、呉碁が気付いたように手を挙げた。
「ちょっと待った! ひとつ、大きなものを忘れてないか」
それを受けて、蓮は「ああ……」とあまり力のない返事をする。
「まだ何かあるのか?」
「うん。けど、正直言って使いどころがかなり難しい……」
話の流れを見た舞原と凛瀬沢の二人が、壁の隅に置かれた一際大きい車輪付きキャリーケースを開いた。
俺はその中を覗き込んで、感嘆の声を漏らす。
そこに収納されていたのは、ブローニングM2A1重機関銃。
WASPがストライカー装甲車に据え付けていたもので、無論、人が手に持って撃てる代物ではないが、三脚を用いて設置して使用することで、大火力を誇る12.7ミリNATO弾を嵐のように連射可能な、非常に強力な火器だ。
凛瀬沢は、ブローニングM2A1用の大型弾薬箱も持ってきて、側に置いた。
「WASPが持ち込んでいた重機関銃弾は、焼夷剤と高性能爆薬を弾頭に封入した、MK211徹甲焼夷弾です。軽装甲車の装甲を貫き、かつ乗員を一人残らず爆殺するための弾薬です。国際的には対人使用は厳禁とされていますが……私たちが戦う相手は人間ではないから、セーフです……よね……?」
面白くもないことを言う。
俺は、ブローニングM2A1重機関銃のキャリーケースの重量の感触を確かめた。重機関銃本体、射撃用三脚、弾薬まで含めると、五十キロを優に超える重量で、これを生身で持ち運ぶとなると部隊の進行速度に多大な影響を及ぼす。
これについては、WASPの隊員たちが置いて行ったのも納得だ。
だが、対戦車砲が三発しかない現状では、この火力は捨てがたいものがある。
「対物火器は不足している。これも持って行こう。負担を分散して、銃身、機関部、三脚、弾薬に分けて運搬するんだ。そうすれば、無理なく運べる」
そう提案すると、米海が嫌そうに首を傾げる。
「狭っ苦しい地下道でこんなもの、どこで役に立つんだい? 普通、車両に載せるか、陣地防衛用の銃だぜ。それに、持って行くって……何処にだよ?」
「俺たちは、東京タワーを目指す。ここを奪還する以外に、俺たちが生き残る術は無い」
俺はその場に居る全員の顔を順々に見つめながら、アヤカから得た異世界軍の東京侵攻計画の情報を話し始めた。





