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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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ダスト・トゥー・ダスト  ──「六時方向、真後ろからも新手が三人だ!」



 視界が一瞬でイタリアンレストランに切り替わり、俺は飛び込んだ勢いを保ったまま、『床』の転送魔法陣から飛び出した。


 叡を抱えたまま勢いよく着地した俺に、宮潟が駆け寄ってくる。


「宰河! 大丈夫……撃たれてない!?」


「俺は大丈夫だ……半田も無事か?」


 半田は目元を押さえて壁に寄りかかりながら、片手を振った。


「……何とか、生きてます。死んだ方がマシな気分ですが、ね」


 『床』を見ると、役目を終えた転送魔法陣が泡立ちながら消失していく。


「……アヤカ。彼女が、俺たちを助けたんだ」


「まったく……殺しに来たり、助けたり……ワケの分からないメンヘラバケモノ女だったわね。結局のところ、何がしたかったのかしら……?」


 古淵が、半田に肩を貸してやりながら、シニカルに笑う。


「人間だって似たようなもんだ。誰しも、心の中に天使と悪魔を飼っている。……それより早くここを離れようぜ。戦闘ヘリまで敵に回っちまった。四面楚歌……敵だらけだ」


「ああ、そうだな……」


 俺は抱きかかえていた叡の顔を見る。白雪姫のように、穏やかに目蓋を閉ざしたままだ。


「……もう、起きてるんだろ?」


 すると、叡の目がパチリと開いた。


「……どうせ死ぬなら、ボクはこうしてお姫様みたいに死ねたら幸せかな」


「馬鹿野郎、誰が死なせるか。ライフルが持てないから、降りてくれ」


 叡を降ろしてやってから、俺はHK416を握り直す。


「地下鉄を目指そう。SATと銃器対策部隊の生き残りと合流する」


「本当に大丈夫かな……。地下は危険みたいだけど」


「俺だって嫌だが……この状況じゃ、他に道は無いだろう。それに、仲間の持っている武器も必要だ。行こう」


 先頭を俺が進み、その後ろに戦闘に参加できない叡と古淵と半田が続いて、宮潟は最後尾を警戒しながら、レストランを出た。



 俺に気を遣って、誰も柚岐谷についての話を出さないのが幸いだった。彼女を撃ち抜いた瞬間のことを思い出すと、銃の引き金を引く指が震える。


 だが感傷に浸る暇もなく、M7動体探知器を構えた古淵が、敵の来訪を告げる。



「十二時方向、十メートル先……体温の無い動体が三つ、ゆっくり接近してくる」


 商業ビルの無人の通路。割れたウインドウのガラスから冷たい風が吹き込んでくるばかりで、そこには何の姿も見えない。


 叡が、後ろでボソリと言った。


「……消火器」


 意図を理解した俺は、転がった赤い消火器に向けてHK416を発砲する。


 銃弾を食らって破裂した消火器が、白い消火剤の粉を振り撒いた。その中に、大鎌を持って咳き込む三つの影が浮かび上がる。


 【グーリンルド】の兵士だ。



「────皆、伏せろ!!」



 俺は姿勢を落としながら、親指でセレクターを弾いてフルオートにセットしたHK416を、真横に傾けて発砲する。右端の敵の胸をバースト射撃で撃ち抜き、反動による銃身の跳ね上がりを利用しながら、続けざまに残る二人の敵も薙ぎ撃つ。


 敵の一人が撃たれる寸前に伸ばした大鎌の刃が、仰け反って、大理石の『天井』を激しく切り裂いた。俺はHK416をクルッと元の方向に構え戻し、ミニドットサイトで照準した敵の右腕を撃ち砕き、大鎌を吹き飛ばした。



 古淵は半田と折り重なって倒れながら、叫ぶ。


「六時方向、真後ろからも新手が三人だ!」


 背後の突き当りの割れたウインドウの『床』に散った破片が、独りでにカチャリと音を立てる。


 宮潟は右手一本でベネリM4ショットガンを構えながら、素早く左手を銃の下から回してコッキングハンドルを引いた。排莢されようとするバックショット弾を指で下方向に押し戻しながら、握っていた一発のワイヤー弾を薬室に直接押し込んで、ボルトをジャキッと前進させ、引き金を絞る。


 広がりながら高速で射出されたワイヤーソウが、透明化した三人の刺客の足をまとめて切り落とした。透明化が解けた【グーリンルド】の兵士たちが、前のめりに倒れて床をのたうち回る。宮潟は続けざまにバックショット弾を発砲し、彼らの頭をスイカの如く粉砕する。


 俺は、消火剤まみれになりながら大鎌を拾おうと手を伸ばした虫の息の【グーリンルド】の兵士の腕を踏みつけ、その頭にHK416のセミオート射撃を撃ち込んだ。



「クリア……! 階段はこの先だ!」


 古淵は半田を助け起こしてM7動体探知器を構え直す。



 俺はHK416を構えて警戒しながら、通路の曲がり角を曲がる。


「あっ!」


 古淵が叫んだと同時に、曲がり角から女が飛び出してきた。


 【グーリンルド】の伏兵だ。殺気立った表情で飛び掛かってきて、俺のHK416を強く掴んだ。


 俺は左手を銃から離して拳の底で敵の顎を殴りつけ、怯んだところでその顔を後方へ押しやり、銃ごと薙ぎ降ろすように床へ倒して、そのまま銃弾を撃ち込んで射殺した。しかし銃を掴んだままの手が、離れない。


「動体が二体! ファミレスの中だ!」


 側のファミリーレストランのウインドウが、派手にぶち破られた。俺はその場で身を屈め、飛んできた大鎌の変形刃を避けた。

 HK416を繋いでいたスリングを留め具のプッシュボタンを押して断つと、右手でホルスターからGSRを素早くドロウして発砲、大鎌を振るった敵の一人を射殺する。


 だが、もう一人の姿は見えない。

 俺はファミリーレストランに飛び込むと、割れずに落ちていた赤ワインボトルを取り上げて、すかさず宙に放り、GSRで撃ち抜いた。赤ワインが飛び散って周囲にばら撒かれるが、いくつかの飛沫が落ちずに空中で留まった。


 あそこに透明化した敵が居る。


 しかしGSRは、撃った薬莢が排莢口に詰まり、撃てなかった。


 俺は迷わず、持っていたGSRを敵の方向へ素早く投擲した。鈍い激突音がして、透明化が解けて怯む男の兵士が姿を現した。


 男は転がったテーブルを蹴って俺と距離を取りながら、大鎌を捨て、腰からサーベルを抜いた。俺はボディーアーマーからカランビットナイフを握りこんで引き抜き、倒れたテーブルを一気に跳躍して距離を詰める。


 男が勢いよく突き出したサーベルを身体を捻って避けつつ、カランビットナイフの三日月型の刃で巻き取るように男の右腕を深く切り裂き、そのまま俺の左脇を使って捕えて引き込んで、男の首を切った。大量の血を噴き流しうなだれる男の首の後部に、カランビットナイフを刺して頸神経を切断し、完全に敵を沈黙させる。


 宙を斬ってカランビットナイフの血を払って鞘に収め、GSRを拾い上げた。マガジンを半分抜いてスライドを引き、詰まった薬莢をチャキンッと排出する。


 そこに叡が来て、HK416を俺に投げた。


「……こんなに強いのに、童貞って本当なの?」


 銃をキャッチして、俺は彼女を睨む。


「童貞か処女か、そんなもので人間の価値は決まるのか?」


 HK416をスリングで繋いで、半田に肩を貸す古淵の方へ視線を移した。古淵は、ばつが悪そうに頭を下げる。


「すまない、小隊長……気を抜いていたわけじゃない。体温が無いと、敵の動体は感知できても、待ち伏せはほぼ見破れないんだ……」


「別に、咎めるわけじゃない。他に、敵がいないか見てくれ!」


「待て。……ちくしょう、まだ来るぞ! 階段の方向だ! 今度は、六体!」


「全く、最低だな……」


 左手でボディアーマーから新しいマガジンを取って、銃に挿してあるマガジンに添えるように同時に掴み、素早く抜いて入れ替える。


 俺は通路に出て、宮潟と共にその場で伏せ撃ちの姿勢になり、突き当りの階段から現れるであろう敵集団を待ち構えた。


 人差し指を、ゆっくりと引き金に掛ける。


「あ! ま、待て……! 撃つな!!」


 古淵が大声を上げる。



 銃の照準の先に、六つの黒い人影が現れた。




「────おい、宰河! やっぱり、お前たちだったか!」



 SAT第二小隊の小隊長、沖國だ。


 その後ろには、銃器対策部隊の粗暴な女隊員、米海の姿もあった。


「よかった、無事だったんだな……。連絡が無くてすまなかったな。地下鉄では無線が通じない上、こっちも……いろいろあった。銃声が聞こえたもんで、助けに来たんだ」


 俺は安堵の息を吐いて、立ち上がる。


「……そうか、ありがとう」


 米海は銃剣を付けたM590ショットガンを肩に乗せて、俺をじろじろと見る。


「おめえ、生きてたのかよ? 幽霊じゃないよな……?」


「それはこっちのセリフだ……! よく、無事だったな」


「……あんまり言いたかねーが……運が良かっただけだ。仲間が大勢死んだ」 


 沖國は、ここに居るメンバーの数を数えて、不穏な顔つきになった。


「おい、柚岐谷はどこだ? ……まさか」


「ああ……俺たちを守って、怪物にやられた……」


 俺の嘘に勘付くことなく、沖國は言葉通りに受け止めて、視線を俯かせた。


「あの柚岐谷まで殺られたなんて……! クソッ……この先、俺たちはどうなるんだ……!」


「諦めるな……まだ、仲間も武器もある。叡だって、子供だが、こうして生き延びている。辛いが……俺たちだけで戦うしかないんだ」


「……全く、お前の言う通りだ。家も職場も失って、いまの俺たちにあるのは……任務だけだからな」


「地下鉄に行こう……敵から情報を得たから、安全な場所で共有したい。そっちは何人、生き残った?」


「全部で……十三人だ。SATが俺を含めて四人、銃器対策部隊が九人。WASPの連中は相変わらず行方不明だ」


 まさしく壊滅状態。

 あれだけ多数の装甲車で勇ましく出撃したというのに、今や生存者はほんの一握りだ。


「だがな……あまり強がってもいられない状況だが、生き残っているのは豪傑ばかりだ。武器や爆薬も、WASPのバカ共が残したものをいくらか回収してある。まだ、存分に戦える」


「……なら、携帯火炎放射器は、何機ある?」


「え?」


 俺は、沖國の後ろで周囲を警戒している銃器対策部隊の隊員が背負っている、その機材を見つめ続けた。




 ────『トウキョウの地下は、【グザエシル】の同盟国【ガルータム】の【地下浸透部隊】が支配する根城に変貌している可能性が高いです』


 


「携帯火炎放射器は……三機ある。竜には効かなかったから、燃料もほとんど使わず残っているな。どうして、そんなことを聞く?」





「……敵の【巣穴】を突破するのに必要だ。俺たちがこれから踏み入れる……その地下鉄のことだ」

 


 



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