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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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柚岐谷 綾(2)  ──「柚岐谷……俺だって、お前のことが……」



 スタングレネードの放つ凄烈な光が、反応に遅れた俺の視野を奪うべく襲い掛かった。



 だがそこへ、叡が勢いよく俺に抱きついてきた。

 唇が触れ合うほど顔を寄せた彼女が、その時、閃光の影となった。



 俺は右手で腰のGSRを掴み、素早く引き抜く。


 閃光が晴れ、炸薬の煙が立ち込める中に、死神の如くハンマーアックスを振り上げる柚岐谷の姿が映った。



 気を失った叡を抱えながら、俺は引き金を絞る。



 ……すまない。



 重い反動と共に射出された45口径RIP弾。


 それは、柚岐谷の眉間を正確に撃ち砕いた。



 ハンマーアックスが、彼女の手からこぼれ落ちる。


 静止した彼女の身体は、ゆっくりと力を失い、後方へどさりと倒れた。



 全てを見届けた自分の瞳から、自然と、我慢していた涙がこぼれ落ちる。



「柚岐谷…………俺だって、お前のことが……」



 それ以上は言葉にならなかった。俺は膝を折って、そのまま泣き崩れる。




 少し経って、閃光のダメージから最初に復帰した古淵が、駆け寄ってきた。


「…………立てるか、小隊長?」


「古淵……俺は、どんな決断をすべきだったんだ……?」


「そりゃあ、俺にも判らないね……。ただ一つ言えることは……小隊長が撃たなきゃ、俺が撃っていた」


「……そう、か」


 俺に固く抱きついたまま気絶している叡を抱え、立ち上がる。


「おい……半田、宮潟……無事か?」


 尻餅をついた形で倒れていた半田は、目を押さえながら、首をぎこちなく縦に振った。


「本当に大丈夫なのか……? 目をやられたんじゃないのか」


「……すみません実は、閃光を至近で直視して……目をやられました。今は、何も、見えません……」


「心配するな……失明は一時的なものだ。休んでいれば、いずれ回復する」


 出し抜けに、ジャキンッという金属音が擦れ合う音が鳴った。ベネリM4ショットガンのコッキングハンドルを引いた音だ。


「宮潟……! 何をしている?」


 目尻を険しく吊り上げた宮潟は、ショットガンの銃口を、倒れた柚岐谷の身体に向けている。


「何って……トドメを刺すのよ。相手は怪物よ……復活するかもしれない。バラバラにしておくべきよ」


「バラバラ……!? 正気か!? 柚岐谷は死んだ。早く、ここを移動しないと……」


「だから、フラグ弾をブチ込むのよ。一発で解体できる。そのまま、ガラスの下に突き落とす」


 宮潟は血走った目で俺を睨んだ。


「こいつは、宰河の知っている柚岐谷綾じゃないのよ! 狡猾に私たちを騙して、仲間に潜り込んでいたの。最期の言葉だって、聞いたでしょう!? 最初から、宰河を殺すつもりだったのよ。巧妙に敵を手引きして、私たちも一人ずつ消す気だったに違いないわ」


「やめろ……! 俺たちの仲間だった柚岐谷の身体は、この世にひとつしかないんだ。それを粉微塵に消すだと……? 俺は、柚岐谷を、きちんと墓に入れてやりたいんだ」


「……しっかりしてよ、私の小隊長! 私たちの骨が最期までしっかり残るかどうかも怪しいのに、そんなことを気にしているの? 宰河が想っていた本来の人間の柚岐谷は、【文化潜入部隊】とやらの怪物の毒牙に掛かった時点で、既に死んで、消滅したのよ……」


「だが……俺は、それでも……」



 その時、遠くからヘリコプターの音が近づいてきていることに気が付いた。


 視線をその方角に向けた時、凄まじい噴射音が立て続けに聞こえた。



 一瞬の出来事だった。

 後尾から火を噴き上げる黒い円筒状の物体が、高速で壁のガラスを突き破り、俺のすぐ頭上を通過して、反対側の割れたガラスへ抜けていった。



 ────ヘルファイア対戦車ミサイル。



 そんな兵器を積んでいるヘリコプターで思いつくものは、あの機体しかない。



 国防陸軍対戦車ヘリコプター隊の、AH64Dアパッチ・ロングボウ。




 二機のヘリコプターが、こちらを補足しながら接近してくるのが見えた。



「『ハニービー』と……『バンブルビー』……!!」



 上空から車列の警護を務め、竜の襲来の後には行方が分からなくなっていた、あの二機だ。


 

 俺は愕然として、ボディアーマーの肩に取り付けた装置を見た。



 IRマーカー。




 ────『このIRマーカーのおかげで、夜間でも味方を上空から識別できるわけです! もし着けない場合、身の安全は保障しませんよ! ……まあ冗談ですけどね!』





 俺は咄嗟に叫ぶ。



「逃げろ!! あのヘリは、俺たちを殺す気だ!」



「まさか……!?」


 

 宮潟の疑問に応えるように、30ミリ口径M230チェーンガンの発砲が開始された。


 連続した砲声が、夜空を容赦なく打ち震わせ、紅い軌跡を描く曳光弾と多目的榴弾が、次々とガラスのフロアに舞い込んでくる。



「あの魔法陣に飛び込め!! 早く!! 躊躇うな!!」



 アヤカが遺した黒い転送魔法陣。生き延びるには、飛び込む以外に術はない。


 さもなくば機関砲弾を喰らって消し飛ぶか、足場を失って底なしの奈落へと転落する。

 あの二機の戦闘ヘリに何が遭ったかは今は分からないが、敵の手に堕ちたことは間違いない。


 真っ先に古淵が魔法陣に飛び込んで、見えなくなった。

 宮潟は目の見えない半田に肩を貸しながら、魔法陣の縁で一瞬躊躇するが、迫る多目的榴弾の熾烈な掃射に押されるように飛び込んでいった。



 俺も、叡を抱えて必死に駆ける。


 後方を見た視界の端に、下半身を失い黒い血にまみれて倒れたアヤカが映った。



「……ご主人様……ご武運を、お祈りします……」



 アヤカはニコリと笑って、右手の親指を上に立てた。



 俺は歯を食いしばり、砲弾によって砕かれたガラスを大きく飛び越え、転送魔法陣の中に身を沈めた。




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