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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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亡者たちのユートピア(2)  ──「宰河の行く先に付いていくわ。心中してあげる」



 俺は頭の中で、東京タワーへ至るためのルートを思考する。


「アヤカ。転送魔法陣が出せる範囲は?」


「頑張って、わたしの視界に入る三十メートル以内程度です。最大転送可能距離は、およそ三百メートルくらいですかね」


「……異世界にも『メートル法』があるのか?」


「ご主人様、野暮なことを聞いてはいけません。ご主人様が理解できるよう換算して、お話をしているのです。

 ……最も近くの建物から塔に移れるよう、わたしが転送魔法陣を展開することは不可能ではありませんが、間違いなく、【ケヘラー】の同胞による妨害を受けると思われます。一定範囲内の転送魔法陣を感知し無効化する魔法や、罠に転化させてしまうような魔法もありますから」


「なら……空を飛べる魔法はあるか?」


「無いことはありませんが、ご主人様の身体自体を飛べるように変化させる魔法は存在しません。人間の持つ道具を使うか……他の国の兵士を捕虜にする必要があるでしょうね」


 東京タワーには、徒歩五分程度の距離に地下鉄の最寄り駅が存在するが、そもそも現在は地上で『徒歩』が全く不可能な状況だ。東京タワー周囲には高層ビルなどは存在せず、隣接する建物から飛び移るようなことも出来そうにない。


 都合よくヘリコプターでも入手出来ない限りは、東京タワーに侵入するためには、この重力を操っている【エルコト】の部隊を発見し制圧する必要があるだろう。しかし、敵がそうシンプルに攻略を進めさせてくれるはずがない。



「……全部、教えてくれ。七つの異世界軍の特徴……どんな武器と魔法を使用するのか……どのように対抗すべきか……全ての情報を知っておきたい」


「────ちょっと待ってよ、宰河……!」


 もはや『小隊長』と呼ばなくなった宮潟が口を挟んだ。


「まさか本当に……私たちだけで、敵の軍の主要部隊をブッ叩くつもり……?」


「……他に良い方法があるか? 空と海には【ロエベッタ】とかいう国が放った怪物軍団、地下には【ガルータム】の【地下浸透部隊】。警察や国防軍は既に壊滅状態。救援は無く、逃げ場だって何処にもない。生き残るには、俺たちが戦うしかないんだ」


 そこで、古淵が頭を抱えて高笑いをした。


「ハハハッ! 最高に刺激的じゃねえか……! 異世界の国家の七つの軍隊相手に、たったこれっぽっちのチームで挑むなんて……マジで歴史に残るぜ! どうせ人間なんて、いつか必ず死ぬもんだ! 暗い穴倉の中で怯えながら殺される時を待つくらいなら、俺は最期まで勇者になってやるよ……!」


 盛大に笑っている彼の瞳には、うっすらと涙が流れている。


「…………俺には何も残ってねえんだ。この仲間以外には……! 嫁にはとっくに不倫されて逃げられた。バケモン共の餌食になろうが、知ったことか。だから……仲間の為に死ぬのは、怖くねえ」


 そんな古淵の様子を見ていた半田は、固く引き締め続けていた表情をボロッと崩し、大粒の涙を落として泣き始める。


「……渋谷のアパレルショップで……僕の元彼女が働いているんだ。テレビで見た、あの、場所だよ……! 向こうは新しい彼氏がいるし、もう僕はただの友達でしかなかったが……それでも……やっぱり、好きだった……」


 涙を流す男二人を見て、柚岐谷は憐憫の眼差しで諭すように言う。


「落ち着いて下さい……自棄になったり、復讐に囚われたりすることは、冷静な判断を失わせます。このまま敵の懐に突っ込めば、間違いなく無駄死にですよ……! 

 それよりも、この東京を包囲するバリアーを突破して脱出する方法を考えましょう。深い地下道を通れば、バリアーの影響を受けずに境界を通れるかもしれません。救援を呼ぶべきです。国防軍が駄目でも、きっとアメリカ軍なら異世界軍に対抗しうるでしょう」


 柚岐谷の意見を受け、俺は無言で宮潟に視線を送る。


「……私は……宰河の行く先に付いていくわ。心中してあげる。一人じゃ、自分の背中は守れないでしょう?」


 最後に俺は、叡を見つめた。



「ボクの気持ちは……ずっと変わらないよ。強いて言うなら、今は7・62ミリ口径の完全被甲弾(フルメタルジャケット)を込めた自動小銃が欲しい」



 ……全く可愛げのない、大した子だ。


 俺は苦笑いを浮かべる。



 そこで、アヤカが手をパンと叩いた。


「ご主人様、そろそろ移動すべきでしょう。長い話は、静かな場所でゆっくりと。誘った本人が言うのもなんですが、ここは目立ち過ぎます……。ご主人様を転送した時に使った、レストランの魔法陣はまだ残してあるので、それと繋がる転送魔法陣を出します。これなら移動時間を節約できますよ」


 『床』に、直径二メートルほどの黒い魔法陣が現れた。内環に湛えられている黒い液体の中を潜れば、この場所に来た時と同じ要領で戻れるはずだ。


 その時、宮潟が猜疑の目で、ベネリM4ショットガンの銃口をアヤカに向けた。


「待って! この中に……入れって言うの? ……この女の罠、だったらどうするのよ」


「おい、銃を降ろせ。俺はこの黒い魔法陣で、ここに転送されてきたんだ。銃弾が転送されるマジックも見ただろう? 能力は本物だ」


 宮潟は、首を横に振る。


「……私が言いたいのは、これがレストランに繋がっている保証が無いってことよ。転送された先が、敵の待ち伏せ場所だったり、奈落かもしれない」


 その疑念に対し、古淵がうんざりした表情で親指をパチンパチンと鳴らす。


「勘弁してくれよ……! 今度は、五十階層分の階段を駆け登れってのか……? この老い先短いオジイサンを殺す気か?」


「ここで無意味に死ぬよりは良いわ。そこまで言うなら、あんたが実験体になったらどうなの?」


 言い争いは懲り懲りだが、二人の言い分はもっともだ。俺は見かねて、アヤカに尋ねた。


「アヤカ。この転送魔法陣に入る前に、安全かどうかを皆に証明できる方法はあるか?」


「同じ能力が使える【ケヘラー】の兵士なら分かるのですが、残念なことに人間のご主人様には判別ができません。

 わたしの愛を、信じてもらうしか……。ご主人様……何でも命じてください。どんな卑猥なこともして見せますから。激しくても痛くても構いません。例えば……」


「やめろ」


「勃ちませんか」


「そうじゃない。アヤカがここで安全を証明できないなら、俺が先に魔法陣に入って証明すれば良いだけの話だ」


「それはご主人様のお仲間が納得しないでしょう。なら……この、トウキョウ掃討作戦の『核心』を、ここでお話しするというのはどうでしょうか。そうすれば、わたしを信じてもらうことができますよね」



 俺は我が耳を疑い、アヤカの瞳を注意深く見つめる。



「核心だと……? まだ、何かあるって言うのか」



「質問されなかったから、話していなかったことです。それは……中嶋叡が狙われる、本当の理由です」



「理由なんて……テレポーターの開発者である中嶋稔道を拉致して利用するか、殺害する為だろう? まさか……違うのか?」



「ああ……ご主人様は、そのように推測していたのですね。実は、それは不正解なのですよ。ご主人様は……中嶋叡を守るのではなく、殺すべきなのです」



「……どういう意味だ?」



「ご主人様が遂行している、中嶋叡を護送する任務。

 これ自体が、警察や国防軍の内部に入り込んだ【文化潜入部隊】によって仕組まれたものなのですよ。


 ご主人様は敵に抵抗するどころか、敵が意図する方向に都合よく動かされていたのです。


 この任務の本当の理由。

 それは……中嶋叡を────」



 突如、地を揺らすような砲声が轟く。


 目の前で、アヤカの腹部が粉々に吹き飛んだ。

 黒い血が爆散し、千切れた彼女の上半身は無残に錐揉みしながら宙を舞う。


 

 返り血を浴びながら、俺は叫び、HK416を振り返りざまに発砲した。


 アヤカを撃った射手の胸元に命中するが、弾丸はボディアーマーによって防がれ貫通せず留まった。着弾の衝撃で怯んでいる隙に、次弾で防御のない腰を躊躇なく撃ち抜く。

 

 足を支える骨盤が砕かれ、その射手は身体のバランスを崩して、ガクリと前のめりに倒れた。


 傷口から黒い血液が流れ落ちて、『床』のガラスを闇の色に染めていく。



「……やはり、お前が…………」



 俺は『彼女』の頭をいつでも撃ち抜けるようHK416を構えながら、ゆっくりと歩み寄っていく。



 かけがえのないチームの一員として、あらゆる苦楽を共にしてきた仲間。


 そんな大切なパートナーを、俺はどうして撃たねばならないのか。そんな大切なパートナーに、俺はどうして裏切られなければならないのか。


 『彼女』との付き合いは、このSAT第四小隊よりも古い。過去、国防海軍特殊部隊SBUに所属していた頃からの親友だ。



「さ……宰河……? どういうこと……?」



 宮潟はベネリM4ショットガンを握り締めながら、俺と『彼女』を交互に見つめ、呆然と立ち尽くしている。



「……ボクは、最初から疑ってたよ」



 叡は床に落ちたM37エアウェイト・リボルバーを素早く拾い上げ、カチリと撃鉄を起こした。



 俺は涙を必死に堪えながら、うつ伏せに倒れたまま乱れた呼吸をしている『彼女』を見下ろし、言った。





「お前も……異世界軍の人間だったんだな…………────柚岐谷」



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