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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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硝子のヴァルキューレ(2)  ──「わたしの瞳には、ご主人様しか映っておりません」



 砕けた無数のガラス片が、四方八方から降り注いでくる。


 そして、狙いを定めたHK416の引き金を絞ろうとした、刹那。



「わたしが、守ります」



 肌の表面に電気が通るようなジリッとした感覚が走り抜け、目の前に、黒い半透明の薄膜が現れた。

 降りかかろうとするガラス片が薄膜に触れた途端、弾かれて、星のように煌きながら散っていく。


「これは!?」


 咄嗟に周囲を見回すと、シャボン玉のようなドーム状の薄膜が俺たちを囲っていた。


 まさか、バリアーか……!?


 東京テレポーターを襲撃したミイが率いる【グーリンルド】の小隊も、この能力で銃撃を防御していた事を思い出す。


 バリアーの中心で腕を左右に広げたアヤカが、にやりと笑った。



「ご主人様……決して、この中で発砲しないでくださいね。コレは、もっと強力なモノです」



 俺の正面。壁に取り付いていた緑の靄の一人が、透明化を解いた。


 姿を現した白装束の男の右手に握られているのは、黒い大鎌。

 それは東京テレポーターで重装備の警官隊を次々と狩り殺した、残忍で狡猾な変化自在の刃を持つあの武器であった。


 男は俺の首を狙い、鋭い刃先を大蛇のように伸ばし繰り出した。


 しかしそれは黒のバリアーに当たって容易に弾かれ、勢いを保ったまま使い手の元へ返り、男の首を一瞬で斬り飛ばした。


 

「……こうなるからですよ」



 攻撃態勢に入っていたはずの【グーリンルド】の攻撃部隊たちは、その男の死をきっかけに、ぴたりと動きを止めた。


 そのまま耳を澄ませてみると、言語は相変わらず分からないが、怯え慌てるような口調で何事かを言い争っているようであった。


 恐らく、この黒いバリアーの性質を知っており、それに守られた俺たちを攻撃することは不可能だと察して、撤退すべきかどうか口論しているのであろう。



 後ろで、カチリと、銃の撃鉄を起こす音が鳴った。

 柚岐谷が、左手でR8マグナムリボルバーを構え、アヤカの後頭部に突き付けている。



「小隊長……この女は、どう見ても敵のようですが? 【魔法使い】……ですよね」



 彼女だけでなく、宮潟、古淵、半田も、一様に緊張の面持ちで銃口をアヤカに向けている。


 アヤカは、自分を狙う銃口を順々に見て、吐き捨てるように苦笑した。


「命の恩人に対して、すいぶん、非道な扱いをされるんですね……? どう思いますか、ご主人様……?」


 俺は咄嗟に、一番近い宮潟のベネリM4ショットガンの銃身を掴んで、無理やり降ろさせた。



「やめろ、全員、銃を降ろせ! こいつは……今は、敵じゃない!」



 すると宮潟がムッとして、俺のあごを思い切り鷲掴みにする。


「どうしちゃったのよ、宰河……!? 敵をかばうなんて、私たちが来る前に何があったの!? 筆下ろしでもされた!?」


「大馬鹿野郎、こんな時にふざけるな!」


 叡は擁護もせず、無言で俺を白い目で見続けている。

 アヤカを気に食わないのは全く変わらないらしい。


「最初は敵だったが、俺が降伏させた……」


「ナニを使って……!?」


「どういう質問だ!?」


 俺は宮潟の腕を振りほどく。こんな痴話喧嘩でじゃれ合っている暇はない。敵に囲まれているのだ。


「アヤカ! どれが敵の小隊長か分かるか!?」


「あぁ……最愛のご主人様に頼られて、もうわたしはビショビショの洪水状態です……。もう、わたしの瞳には、ご主人様しか映っておりません……」


「お前も真面目にやれ……!!」


 腰をくねらせるアヤカを無視して周囲を観察していると、『天井』に近い上方の壁に取り付いている緑の靄の一つが、目立つ赤の靄へと変色した。



 ……彼女の能力は、こんな便利なことも可能なのか。



 俺は第四小隊のチームメイト全員から冷たい視線を浴びながら、アヤカに尋ねた。


「敵の小隊長を仕留めたい。このバリアーで、俺の撃つ銃弾だけ貫通させることは可能か?」


「いえ……それは出来ません。これは最も優れた防御壁なのですから。ですが……代わりにこんなことは出来ますよ」


 俺のすぐ足元、『床』のガラスの上に突然、小さい黒い泡が噴き上がった。そして、握り拳程度のサイズの黒い魔法陣が現れる。



「これは、ご主人様をこの場所にテレポートさせたものと同じ、転送能力をもつ魔法陣です。この転送魔法陣に弾丸を通すと、もう片方の転送魔法陣から弾丸が飛び出します。この意味が……お分かりですか?」



 俺は意図に気付いて、赤い靄に覆われた小隊長の居る位置の、反対側の壁を見上げた。

 割れ残った壁のガラスに、小さいもう一つの黒い魔法陣が貼り付いていた。


「……なるほど、な」


 俺はHK416を下げて腰のウェポンキャッチに銃身を固定、スリングでぶら下げた状態にする。


「宮潟……ベネリを貸してくれ。フラグ弾も一発」


「え? 何するのよ……?」


 宮潟からベネリM4ショットガンを借り、機関部下の装填口からフラグ弾をカチャリと込め、コッキングハンドルを引いた。ボルトが後退し、排莢口から赤い散弾ショットシェルが排出され、入れ替わりにフラグ弾が薬室に装填された。


 アヤカは頬を染め、恥じらいながら言う。



「ご主人様……ふたりの、はじめての共同作業ですよ。このわたしの穴に、ご主人様の熱い弾丸を今すぐ突き込んでください……」



 俺はアヤカを完全に無視し、転送魔法陣へ向けて銃を垂直に発砲した。

 同時に、安定翼を展開させた18ミリ口径徹甲グレネード弾が高速で飛翔する通過音が、頭上を突き抜けていく。


 顔を上げた時、赤い靄は爆発四散していた。


 名も顔も知らぬ敵の小隊長はボロ屑となり、灰色の血液と肉片を散らしながら、夜空の闇へと墜落していった。



「すげえなぁ……こりゃ、たまげた」



 古淵は、ヒューッと口笛を吹く。



「こんな強力な敵の魔法使いをセフレメイドに調教しちまうとは……小隊長どの、見直したぜ」



「……あいにく、まだ童貞だ」



 俺はベネリM4ショットガンを構えたまま、残りの【グーリンルド】の攻撃部隊たちの動きを注意深く観察する。


「ご主人様……敵が、撤退していきます。きっと、ご主人様とわたしの、時空を超越した愛の力に屈したのでしょう……」


 悲鳴に近い声を上げながら、緑の靄が次々と、上方へ撤退していく。


 彼らは壁を歩く能力を持つのか、あっという間に全員の姿が見えなくなってしまった。



「……切り抜けたぞ」



 俺は信じられないという気持ちで、セフティを掛けたベネリM4ショットガンを宮潟に返した。



 だが、場の緊張は解けていなかった。

 半田はアヤカを心底気味悪がる様子で、首を捻った。


「……僕は、腑に落ちませんよ。どうして彼女は、宰河さんに協力するんですか……?」

 

 彼はM27IARの銃口こそ降ろしているが、セフティは掛けておらず、いつでも撃てる状態を保っていた。


 特に露骨な敵意を示しているのは柚岐谷で、R6マグナムリボルバーの銃口をアヤカから外さない。


「小隊長……こんなわざとらしい色気に負けてしまうなんて、らしくありませんよ。完璧に従順なメイドなど、空想の産物です。私たちを罠にかけるつもりで、彼女は小隊長を騙しているんです。即刻……射殺すべきでしょう」


「へぇ、随分な物言いですねぇ……どの口が、そんなこと言うんです?」


「この女は、間違いなく危険です。今の小隊長は……目が曇っています。ここで救われたのは、中嶋叡を生け捕りにする手柄を独り占めにするためでしょう。隙を見て、裏切るつもりに違いありません。危険な状況こそ、冷静な判断を」


 すると、宮潟もアヤカにベネリM4の銃口を向ける。


「私も……尻軽女は絶対に信用しないわ」


「……まだ処女ですよ?」


「こんなクソあざとい処女が居てたまるかよ……」



 そこで俺は再び、二人の銃を強引に掴んで降ろさせ、叱責する。



「冷静になるべきはお前らだ! 現時点では、彼女に敵意は無い。たとえ……心の内で、裏切る算段を既につけていたとしても、だ。


 彼女を射殺すべき時は、彼女が明確な敵意をもって叡や俺たちに危害を加えてきた、その時だ。


 それまでは、彼女へ危害を加えることは許可しない。俺たちは、軍人じゃない。警察官だ。それを忘れるな……!」



 そう鋭く力を込めて言うと、古淵は腕を組んで頷いた。



「小隊長どのの言う通りだ。俺は、もはや女の身体には興味は無いが……貴重な情報源として生かす価値が充分にある。何せ、異世界の軍に侵攻を受ける、このワケの分からん狂った状況の中で、意思疎通が出来る捕虜を確保したんだぞ? 生き延びるために、敵の情報が必要だ」


「それはどうだか……。もし、彼女が嘘を言っていたら?」


 疑問を呈した半田に対し、古淵はヘヘッと鼻を擦りながら答える。


「そんな時は、言われた嘘と逆の行動を取りゃいい話だろ? 嘘の反対は真実、真実の反対は、嘘だ。……大したことじゃない。恐れるな」


「ふむ……それは、深い事を言っているようで、深くないよな……?」


「まぁな」


 そんな二人を横目に俺は、アヤカを黙って注視し続ける叡に聞いた。


「叡も、まだ、アヤカを殺してほしいと思うか……?」


「……ボクには、分かんない。助けてくれたことは確かだけど……信用はしてない」


「そうだな……俺も、そんな感じだ……」


 バリアーを解いたアヤカが、楽しげな瞳で俺をまじまじと見つめた。


「ご主人様、これから何処に行きますか?」


「この真下にある……いや、今は真上か……地下鉄だ。そこで仲間と合流する」


「えっ?」


 アヤカの表情が固まった。何か思い当たるものがあるらしい顔つきだ。


「……おい、何だ。言え」


「地下鉄は……非常に危険です。それならまだ、ここでわたしと一緒に居た方が安全ですよ。そうしませんか?」


「俺に言わせれば、地上の方が地獄だ。ここに留まるわけにはいかない。地下鉄を通れば、竜の怪物の攻撃や、天地逆転の地形変化の危険を避けて進めるだろう?」


「違います。侵攻が順調に進んでいるならば……地下には……もっと凶悪で恐ろしいものが潜んでいます」


「何だと……?」


 尋ねると、アヤカは意味深に聞いた。




「ご主人様…………例えば、『火炎放射器』とか、持っていますか?」




 真意が分かりかねる質問だが、その武器は思い当たるものがあった。




 ────『インディアンは火を着けた矢で戦ったが、私らにはこれがある。携帯火炎放射器。一噴きで、どんなバケモノでも灼熱で焼き尽くしてやれる。今回は、銃器対策部隊の一個班につき二機の火炎放射器を持っていく。まさしく、究極の銃器対策だぜ』




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