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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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硝子のヴァルキューレ(1)  ──「お礼は結婚指輪で良いわよ」



「……ふざけるな。今さら命乞いか。お前らは……身勝手に、楽しんで、民間人を虐殺した。決して許さない」


「信じてもらえないでしょうが……わたしが指示したのは、中嶋叡の殺害のみです。民間人ついては、私は、直接殺してもいないし、指示も出していません……。彼らが自主的に始めました。この立派な建物を、自分たちの物にするために……」


「悪い所業は全て部下のせいだと? 死人に口なし。言いたい放題か。いい気なもんだな……!」


「信じてくださいなど、厚かましいことは言えませんが、本当です。最愛のご主人様に、嘘はつけません……」


 俺は跪いたアヤカの服装を注視する。彼女の服だけは返り血で汚れていないから、本当のことを言っているのかもしれない。

 だが、易々と俺を信用させられると思うならば、大間違いだ。


「部下の行動は全て、それを束ねる者の責任だ。お前は、止められる立場だったのに、しなかった。同罪だ」


「……止めなかったことついては、申し訳なかったと思います。わたしは、ご主人様にしか興味はありません。姿を消してずっと、ご主人様を窓から見ていたんです。その間に、待機していた仲間たちが、身勝手な暇つぶしとしてあんな惨いことを……」


「デタラメを言うな。往生際が悪い。まだ、叡を狙う気なんだろう?」


「もう、やめました。わたしは先刻言った通り、ご主人様をお守りするため、軍が狙っているその子を殺そうと参りました。ですが……ご主人様は、わたしの想像よりも遥かに逞しく、鬼神のように強いです……。わたしごときが倒せる相手ではございません。だから、わたしは一生、ご主人様の元に服従しようと誓いました」


 俺は内心で、怒りを何処に向けて良いかが次第に分からなくなっていた。


 アヤカの話は一応、筋は通っている。


 首都第一銀行ビルのオフィスで見たモーショントラッカーには引っかからなかったが、彼女に人間と同じ体温が無いのであれば、外の浮遊する瓦礫などの反応に紛れてしまうから、見破ることはできないであろう。

 あの時、姿が見えなくても、実は彼女がウインドウに貼り付いて、じっと俺を観察していたのかと思うと、気味が悪い。


 アヤカを日本の法律で裁くとしても、現段階では、叡の殺害を指示した殺人教唆未遂でしかない。

 東京を壊滅させる未曽有の大惨事を招いたメンバーの一員であるから、十年以上の有期刑あるいは無期懲役となる可能性はあるが、死刑は恐らく難しい。

 それに今は、抵抗や逃亡を試みているわけでもなく、投降している。



「小隊長さん……こいつは絶対、信じないで! 目が怖がってない。それはたぶん、勝算があるから」



 躊躇する俺に、再び叡が撃つことを唆す。叡の懸念も、もっともだ。


 叡の確実な安全を確保するためには、アヤカも絶対に射殺すべきであるが、これは警察官としての道理には明らかに反する。



 ……彼女を生かすべきか、殺すべきか。



 俺はG17のサイト越しに、アヤカの瞳を注意深く見つめた。


 職業上の経験から、俺にも判る。叡の言う通り、投降しているアヤカの瞳の中には、恐怖の感情を一切感じられない。



 だが、これは……。

 




「あ」



 アヤカが何かに気が付いた様子で、ぽかんと口を開いた。


「……敵の小隊が来ました。中嶋叡を狙って、外からこちらを偵察しています」


「何だと……!?」


 これは、俺の注意を逸らすための罠かもしれない。


 G17の照準をアヤカから決して外さないようにしながら、叡に呼びかける。


「叡! 外に何か見えるか!?」


「何も見えないよ……!!」


 するとアヤカは首を横に振る。


「全員、透明化していますので、肉眼では視認できませんよ。東京テレポーターを襲撃した奴らと、同じ国の小隊です」


「待て……『国』と言ったか? どういう意味だ」


「わたしたちは多国籍軍なのです。利害が一致した七つの国が結集し、このトウキョウへ、それぞれ強力な部隊を送り込みました。わたしは、【ケヘラー】という教養ある高貴な先進国の者ですが、東京テレポーターを襲ったのは、一番卑しくて教養のない【グーリンルド】という後進国の者です」


「さっきお前が言っていた、【高機動騎兵隊】という奴らか?」


「違います。いま、外に居るのはザコです。【高機動騎兵隊】は、【グザエシル】という軍事力トップの国の最精鋭部隊です。詳細は省きますが、遭遇すれば生きて帰ることはできません」


「……省かれた詳細というものを、今すぐ吐いてほしいのだが」


「その話は後でゆっくりと、ご主人様……。いまは、ここを切り抜ける方が先ですよ。……わたしが、手助けしましょう」


 アヤカがそう言った途端、彼女の足元から緑の光の波紋が発生して、俺と叡の身体を貫通し、瞬く間に周囲に広がっていった。


「おい、何をした!?」


「これで……敵が()えますよ」


 俺と叡は景色の変化に気が付いて、驚嘆の声を上げる。


 ガラスの壁の向こうに、光る緑色の靄が幾つも現れている。その数、十五。よく見るとそれは、人の形をしている。


「【グーリンルド】は、もともと【ケヘラー】に隷属していた国で、似通った文化と魔法を持ちます。ですが、所詮はただの真似事……下位互換でしかありません。いつ彼らに手を噛まれても大丈夫なよう、わたしたちは、対抗術を習得していました」


 緑色の靄が、急に慌ただしく動き始めた。見破られたことを、彼らも察知したのだろうか。


「ご主人様と視覚が共有できるよう、強めの術を使いました。これは透明化している相手自身にも同じ靄が見えてしまう欠点がありますが、これで、種族が異なるご主人様でも透明化を見破ることができます」


 俺は観念して、G17の狙いをアヤカから外し、周囲の緑の靄をいつでも撃てるよう警戒する。


「……これはありがたいが、数の上で不利なことが分かっただけだ」


 物資が乏しいこの状況では、逃げることが最良の選択であるが、天地が逆転したこのフロアの構造上、困難だ。


 巨大なガラスケースがこの温水プールのフロアに被さっているような構造で、そのガラスの屋根を『床』として俺たちは立っているが、本来の出入り口は約三階層分上の高さにあり、手が届かない。


 俺一人であれば壁の骨組みをよじ登っていくことは不可能ではないが、体力の劣る叡を連れて行くとなるとかなり時間が掛かり、とても敵の襲撃を受ける前に逃げ切ることなど出来そうもない。


「他に、致命的な切り札になる魔法はあるか? 念じただけで敵を一撃必殺できるような魔法は?」


「安心してください、ご主人様。そのような便利な術は、最高の魔法技術力を持つ国【エルコト】でも持っていませんよ」


「なるほど……素晴らしい安心安全情報だな。最高のメイドだよ。……つまり俺は再び、一人でこいつらを殲滅させる必要があるのか。良いさ……やってやる」


 そこで叡が、俺のふくらはぎを軽く蹴った。


「小隊長さん……ボクに、あの銃を貸して。ボクも、一緒に戦う」


「大丈夫、安心しろ……G17の弾はまだ残っている。俺が必ず守り抜いてやる」


「ボクも、小隊長さんのことは信じてる。でも……貸してほしい。怖いから」


 そう言った叡の瞳を、俺は深く見つめる。


 一度は叡の手に渡したM637を、再びここで貸すことはできる。だが、今の俺には他に思うところがあった。


「…………アヤカを撃つ気なんだろう。俺が撃たないから、代わりに射殺しようとしているのか」


 図星であったのか、叡は目を伏せて押し黙る。


「俺は惚けているわけじゃない。このメイドが再び俺や叡の命を狙ってきたら、必ず容赦なく撃ち殺す。今は……この場を生き残るために、利用する」


 するとアヤカは、何が気持ち良かったのか顔を赤らめて、もじもじとした。


「ああ……もったいないお言葉です、ご主人様ぁ……。もう、たまりません。濡れすぎてビショビショです……。わたしを、ご主人様の専属メイドとして扱き使ってくれるのですね……。心も身体も、全て捧げさせていただきます……」


「こんな時に、その気持ち悪い口調はやめろ……! そんな言葉、どこで覚えた!?」


「エロマンガで見ました」



 俺は左手にG17を握り、床に落ちたマチェットを素早く回収して右手に握った。


 しかしながら、G17の非力な9ミリ口径ホローポイント弾では、GSRのRIP弾のように首を狙って一撃で断頭するような芸当は不可能だ。


 マチェットを使って懐に飛び込むにしても、敵が東京テレポーターの虐殺の際と同じ変形自在の大鎌を使用してくるのであれば、大きな危険が伴う。


「クソッ……ライフルの重さが恋しいな……」



 そう愚痴をこぼした時、プールの端、手の届かない高さにあった閉ざされた出入り口が、盛大に蹴破られた。



「宰河────!! 助けに来たわ!!」



 宮潟だ。


 この高層ビルを生身で駆け下りてきたせいで、息を大きく乱している。

 必死の形相で、『小隊長』と呼ぶことすら忘れているようだ。


「待て! そこを降りたら戻れないぞ!」


 言い終える前に、宮潟は飛び降りてきてしまった。俺は思わず頭を抱えそうになる。


 彼女はベネリM4ショットガンを右腕だけで構え、ストックを肩に当てて走り込みながらアヤカに狙いを定めた。


「その女が標的!? 撃つわよ!」


「待て、こいつは撃つな……!! 敵は、ガラスの壁の向こうに居る! 緑の靄が見えるか!?」


「……何あれ、オバケ!?」


「説明は後だ! 奴らは、叡を狙って攻め込んでくるつもりだ。掃討する」


「なるほどね、良い度胸じゃない……!」


 宮潟は、左腕に抱えていたHK416とボディアーマーを、俺に渡した。


「必要でしょ? 持ってきてあげたわよ」


「……でかした。この世で最高の相棒だ」


「お礼は結婚指輪で良いわよ」


 俺は速やかにボディアーマーを羽織った。重装備の重さが心地よい。

 手に取ったHK416のチャージングハンドルを少し引いて、弾が装填済みであることを確認した。やはり、戦うならコレだ。



「小隊長────!!」



 出入り口から、ゲパードGM6を抱えた柚岐谷が続けてやってきて、大声を上げた。


「柚岐谷! そこを……」


 降りるな、と忠告する前に、柚岐谷は降りてきてしまった。


 続けて、ヘトヘトになった古淵と半田もやってくる。


「止まれ……! ここに降りてくるな! 戻れないぞ!」


 言い終える前に、彼ら二人も飛び降りてきてしまった。


「まったく、人の話をしっかり聞ける奴はいないのか……!?」


 俺が怒ると、古淵と半田はぜいぜいと息を切らせながら、笑う。

 

「さーせん、小隊長どの……地獄まで、お供しやす……」


「同感です……宰河さんの為に全力で走ってきたのに、今更『止まれ』なんて聞けませんよ」


 俺は呆れて苦笑し、輪になった第四小隊の中心で、HK416を構え直す。 



「……その言葉、信じているからな。全員、俺と一緒に、地獄までついて来い」



 そこで、輪の外で寂しそうにしていたアヤカが、声を上げた。



「ご主人様────敵が、突入してきます」




 壁のガラスが、一斉に割れた。



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