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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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殺人摩天楼(2)  ──「残るは、一人」



 俺は、マチェットを握った右手首の上に、GSRを構える左手を交差して重ね合わせる。


 背中越しに、叡の怯えた視線を強く感じた。

 この子を、俺は絶対に守らねばならない。



 対峙する十人の敵は、チェーンソーを盛大に唸らせながら、じわじわと俺を包囲するように距離を詰めてくる。


 全員のチェーンソーの刃が、徐々に焼けるように紅く輝き始めた。


 エンジン音に紛れて、彼らは俺の知らない言語を使って互いに指示を飛ばし合っている。誰もが、俺を嘲り笑うかのような口ぶりだ。


 アヤカは後ろへと後退し、これから始まるであろう殺戮の宴の様子を穏やかな表情で見守っている。まだ、彼女は参加するつもりは無いらしい。



 十対一。


 こちらには銃はあるが、最大の急所である彼らの頭部は鉄仮面によって守られており、非力な拳銃弾では撃ち抜けない可能性が高い。よって、他の部位を狙う必要がある。


 俺が構えているGSRに装填されている弾は、八発。予備の弾は、ボディアーマーと共に全て置き去りだ。


 左のホルスターには9ミリ弾を十九発装填したG17、アサルトスーツの胸ポケットには38スペシャル弾が五発収まったM637リボルバー。


 今使える銃は、それが全て。


 銃で全員を倒すとすれば、使用できるのは一人につきたったの二~三発。



 彼らはそれを見越しているからこそ、銃を持つ俺が相手でも、平気で接近してくるのだ。

 この状況は、敵にとって圧倒的な優位。




 ────俺が、銃しか使わないのであれば。



 


 警視庁SAT第四小隊。


 『死』と読み替えられる『四』は忌避される数字であり、表向きでは、その小隊は欠番とされている。

 しかし実際には、他の小隊とは全く異質の訓練を受ける、完全な【殺害】を専門とする部隊がここに存在する。

 最終手段として殺害を選ぶ部隊ではなく、殺害を前提として出動する部隊。


 警視庁SAT第四小隊は、刑法の中で最も重罪である【外患誘致罪】を犯した者への、法執行部隊として特設された。


 日本での適用例が過去一例も存在しなかったその罪は、刑法にこう記されている。

 




 ────刑法第八十一条。外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。



 


 俺は身を低くして、『床』のガラスを後ろ足で蹴った。


 瞬時に、チェーンソーを振り上げて構える執事の男の懐に入り込む。


 動揺して雑にチェーンソーを振り下ろそうとする執事の腕を、俺は左腕を使って固めながら、右手のマチェットで彼の腹を容赦なく貫いた。

 柔らかい腸を突き破る生々しい感触。思い切り刃を捻ると、彼の黒い血液が、刺した傷からドボリと溢れ出した。


 ────まず、一人。


 彼のすぐ左隣に居たメイドが、叫び、血が焦げつくチェーンソーで猛然と斬り掛かった。

 俺は刺したマチェットのグリップから右手を放し、瀕死の男の襟首を掴んで、思い切りチェーンソーの動線へと押しやると、獰猛な刃は男の身体を一瞬で肩口から斜めに両断した。


 男の上半身がずるりと滑り落ち、それにより切り拓かれた俺のGSRの射線は、無防備なメイドの胸元を正確に捉えた。


 引き金を絞り銃口から撃ち出された凶悪なスパイク状のRIP弾は、亜音速でメイドの胸に着弾、肉を喰い破りながら回転分離し、口径の倍以上の傷穴を穿ちながら、背中から大量の黒い血液を伴って抜けていった。


 衝撃で仰け反った彼女の喉に、追撃で撃ち込んだRIP弾は、気管、食道、脊髄を一撃で破壊して首を切断し、頭部を宙に飛ばした。


 ────二人目。


 転がった二人の遺体は、蝋人形のように服ごとドロリと黒く融け、液体となって崩れ落ちていく。


 マチェットをブーツで蹴って上方に放り、右手でキャッチした。



「小隊長さん!! 助けて……!!」



 叡が叫んだ。

 二人のメイドが、俺から距離を取って二手に分かれて回り込み、叡を直接狙おうとしている。


 咄嗟にGSRを構えた俺に、二人の執事が左右から斬りかかった。


 俺はその場に背中から倒れこみ、チェーンソーの刃を回避した。眼前で二つのチェーンソーが激突し、凄まじい金切り音と熾烈な紅い火花を散らせる。


 仰向けに着地すると同時にGSRを発砲し、激突の衝撃で怯んでいる左の執事の足首を撃ち砕き、間髪入れずに、左腕を軸に身体をしなやかに回転させ、マチェットで右の執事の足首も切断する。


 そこに飛び込んできた別のメイドが、俺の身体めがけてチェーンソーの刃を垂直に振り下ろした。

 俺は素早く転がって回避すると、チェーンソーの攻撃によってヒビが入ったガラスにRIP弾を撃ち込んで、そのメイドの足場を粉々に砕いた。


 悲鳴を上げて墜落していく彼女を見届けきることなく、俺は照準を変え、叡を襲おうとするメイドの首を撃ち抜き射殺した。


 続けざまに、叡を狙うもう一人のメイドへ向けて発砲する。

 メイドは咄嗟にチェーンソーを盾に銃弾を防御したが、俺は次弾で彼女の足首を発砲し、体勢を崩したところで、その首を正確に撃ち砕いた。



 そこで、GSRのスライドが後退位置で停止。弾切れだ。


 

 ────これで七人沈めた。残るは、三人。



 立ち上がった所でいきなり、チェーンソーが回転しながら飛んできて、マチェットで薙ぎ払うと、短剣を逆手に握った執事が叫びながら突進して来た。


 俺はマチェットとGSRを同時に放棄し、執事の短剣を持つ手を捕らえ、脇で締め込み『床』へ投げ倒してから、左手でG17をホルスターから引き抜き、首に突きつけ三連射を撃ち込んだ。


 そこに、最後の執事も短剣で威勢よく突き込んできた。俺は身体を逸らして短剣を避け、左腕で固めて封じると、右手で腰に差したM12ワスプナイフを取って、彼の喉に突き刺し、ガス放出スイッチを押し込んだ。


 刃先から低温ガスが噴射され、組織が一瞬で凍結、放出の圧力で首が爆散した。

 凍結した黒い血液の破片が派手に飛散し、頭部が転げ落ちた。首の断面から、白い冷気が上がる。



 大振りで隙が多いチェーンソーは不利だと感じて短剣に持ち替えたようだが、どのみち、俺を倒せる練度ではない。



 ────残るは、一人。



 最後の鉄仮面のメイドが持つ武器を見て、俺はハッと目を見開いた。

 

 離れた位置に立つ彼女は、仲間を殺された恐怖で明らかに動揺し肩を震わせながら、チェーンソーを捨て、小型の黒いリボルバーを構えていた。


 S&W社製のM&P360リボルバー。制服警官に一般的に支給されている銃だ。

 警官を殺した際に、奪っていたものに違いない。


挿絵(By みてみん)


 しかしながら、銃口こそ俺に向いているものの、戦意はほとんど喪失しているように見える。あの身体の震えでは、まともに弾も当たるまい。


 俺は狙いを定め、G17の引き金を絞った。


 彼女の右手の指に当たり、銃が吹っ飛んだ。


 

「最後のチャンスだ……死にたくなければ、両手を上にして、投降しろ! 俺の言葉が分かるか!?」



 メイドは、がたがたと震えながら、両手を恐る恐る上げていく。



 そこで俺は、自分の中にまだ甘さが残っていることに気付いて、嫌気が差した。

 俺が倒した連中だけでなく、彼女もまた、多くの民間人を殺害したのは間違いがないことだ。


 ここで生かしておけば、またほとぼりが冷めた頃に、殺戮を再開することだろう。

 最悪の場合、叡の命を再び狙いに来るかもしれない。



「……畜生」



 投降する彼女へどのような措置を施すべきか、葛藤していた時。


 一発の乾いた銃声が響いた。


 メイドの首に、丸い小さな穴が開いた。

 一拍遅れて黒い血が噴き出して、彼女は力を失いゆっくりと倒れた。




「ご主人様ぁ……本当に、素敵でした……」



 

 M&P360を握ったアヤカが、うっとりと蕩けた目で俺を見つめたまま、足を切断され呻いている二人の執事を射殺した。


 アヤカは銃口から立ち昇る硝煙をフッと吹き消し、その場に銃を捨て、俺の前に歩み寄り、跪いて上目遣いで見つめた。



「もう、ずっと……濡れっぱなしでした。わたしは……一生、ご主人様の元についていきます。誓いました。最愛のご主人様のためなら、何でもさせていただきます……」



 その真意不明の不気味さに圧され、俺はG17を構えながら後ずさりする。


「小隊長さん……こいつも、さっさと撃って……!」


 叡は、虫けらを見つめる眼差しでそう言った。

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