東京封鎖 ──「撃ち切っちまったら、終わりだ……」
一方、東京湾、アクアライン連絡橋付近上空。
国防海軍特殊部隊【SBU】を載せた三機の哨戒ヘリコプターSH60Kが、竜の大群に追われながら飛行していた。
その最後尾のヘリに搭乗している、SBU第一小隊四班副班長、春騎朝子少尉は、その凛々しい顔立ちを苦痛に歪めながら、ドアガンとして備え付けられたゼネラルエレクトリック製M134ミニガンを発砲し続ける。
「しつこい……! 奴らには、諦めってものがないの!?」
電動で高速回転する六つの銃身が、秒間100発に迫る凄まじい連射速度で7・62ミリNATO弾を宙へ放ち、哨戒ヘリに接近しようとする竜を次々と撃ち砕いていく。
しかし竜の群れは恐れをなして退くどころか、銃声に惹かれるように次々と集まってくる。
「春騎! 弾丸を節約しろ……撃ち切っちまったら、終わりだ……」
側の簡易ベッドで横たわっている班長の櫻井篤志中尉は、血混じりの咳を吐きながら、か細い声で忠告した。
櫻井は、竜の攻撃によって右腕を喰いちぎられ、腹部にも重傷を負っている。
隊員による応急処置を受けているが、これほど深刻な傷では、一刻も早く病院へ連れて行かねば、彼の命はない。
だが竜の猛攻は絶え間なく続いているせいで、まともに着陸することができない。
それに、かろうじて着陸できたとしても、市街もここと同じ地獄の様相であることには変わりない。
「櫻井中尉! 気をしっかり……! 必ず助けます!」
「……俺のことは、いい。それよりも……お前たちが……生き残る方法を、探せ……」
まさか、こんな異常な事態に陥るとは誰も思ってもみなかった。
台場の東京テレポーターでテロが発生し、地上で展開する部隊の支援のためSBUが出動した。
しかしその時、東京テレポーターが巨大な紅い光を放って爆発し、そして間もなく上空から、見たこともない竜の怪物たちが現れたのだ。
春騎は、東京テレポーターがあったはずの場所に視線を向けた。
そこには今、地の果てへと続くような巨大な深い穴が開き、その周囲では紅い煙が台風のように激しい渦を巻いている。
肉を砕く音と共に、機内が激しく揺れた。哨戒ヘリのローターブレードに、竜を巻き込んだのだ。
……いったい、この国はどうなってしまうのだ?
同乗しているSBU隊員の一人が、外を見て大声を上げた。
「街を見てください! あれは、何ですか!?」
言われなくとも、春騎の視界にその光景は映っていた。
地表から、ありとあらゆる物が、天空へと吸い上げられていく。
まるで我々を縛る重力が、真反対に働き始めたかのように。
この海上では、竜の襲撃を受けていること以外の異変は起こっていない。
────と、思っていた。
出し抜けに、哨戒ヘリの進行方向から爆発音が轟いた。
「何だ!?」
先頭を飛行していた哨戒ヘリが、爆散し、粉々に砕けて落ちていくのが見えた。
「────!」
春騎は、確かにその目で見た。途方もなく巨大な紅い半透明の幕が、進行方向を遮っている。
「ぶつかる……!! 退避を!!」
前方を飛んでいた二機目の哨戒ヘリも避けきれず、半透明の幕に衝突した。鋼鉄の機体が一瞬でひしゃげ、大爆発を起こした。
壊れたローターブレードがスローイングナイフのように飛んできて、春騎が咄嗟に避けた、M134ミニガンを切断し破壊していった。
爆風を受けながら、春騎が乗る最後尾の哨戒ヘリはギリギリで旋回し、半透明の幕を回避した。
機内が急激に傾いた拍子に、同乗した隊員や積んである装備が波に呑まれたようにひっくり返った。
簡易ベッドに寝かせられていた櫻井も、弾みで転げ落ちる。
「櫻井中尉!」
姿勢を取り戻した後、春騎は、すぐに櫻井を助け起こすが、彼は目を閉ざしたまま動かなかった。
首に指を当てて脈を測ると、彼はすでにこと切れていた。
「そんな……!!」
絶望的な気持ちで、春騎は外を見た。
紅い半透明の幕は、切れ目なく続いている。まるで、囚人を閉じ込める隔壁のように。
これがもし、東京テレポーターを中心として形成されたものと仮定するならば。
半径約三十キロに及ぶ巨大な隔壁の中に、自分たちは囚われたのだ。
外界からの救援は得られない。
この閉鎖された範囲内には、国防軍の駐屯地は存在する。
しかし、地上を襲い続けている重力反転現象によって、多くの兵士だけでなく、戦車や戦闘機、武装の大部分が失われたはずだ。都心の国防の牙は、折られたに等しい。
建物の中に残っていた人間は生存しているであろうが、外に逃げることは物理的に不可能だ。
次々と襲い掛かる竜の群れの餌食となる時を待つことしか出来ないであろう。
春騎は、かつて同期として行動を共にしていた男を思い浮かべる。
彼はいま、警視庁特殊部隊SATの隊員として、国防陸軍特殊部隊WASPの連中と共に、テレポーター設計者を救出する作戦を遂行しているはずだ。
彼は、死んでしまっただろうか。
────いや、生きているはずだ。春騎は、そう直感した。
「……宰河……お前なら、どうする?」
春騎は、異世界軍への復讐に燃える瞳で、彼がどこかに居るであろう東京の街を遠く見つめながら、そう呟いた。





