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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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ストラングル・ホールド(1)  ──「もし奴の死体を見つけたら、そのまま供えてやれ」





「クソッ……敵が多すぎる!!」


 俺は、たまらず叫んだ。


 横転した装甲車や燃え盛る瓦礫のせいで大通りの見通しは極めて悪く、竜の群れの絶え間ない攻撃にも晒され、まともに仲間や脱出ルートを見つけることが出来ないまま、俺は柚岐谷と共に銀行ビルへ駆け戻った。


 叡を守るためロビーの奥で待機していた第四小隊の三人に向かって声を上げる。


「外は怪物だらけだ! 建物の奥へ避難しろ!」


 背中越しに振り返って見ると、小型竜たちが次々と耳障りな鳴き声を上げながら追跡してきている。


「小隊長! スタングレネードを使う! そのまま走れ! 光を見るなよ!」


 受付カウンター越しに、古淵がピンを抜いたスタングレネードを投擲した。


 床へ落ちたと同時に、白い閃光と轟音が炸裂し、ロビー内に強烈な衝撃波が迸った。


 それをまともに喰らった小型竜たちは奇声を上げ、相次いで気絶して墜落したり、暴走して壁や床に激突した。


 第四小隊と叡は、一定以上の大音響をカットする射撃用イヤープロテクターを耳に入れており、閃光を直視さえしなければダメージはほとんど受けることはない。


「まったく、小隊長は本当にモテモテですね……! 大したもんですよ!!」


 半田はそう皮肉たっぷりに言いながら、M27IARを正確に射撃し小型竜たちにトドメを刺していく。


「許せませんね……全員排除します!」


 柚岐谷が床をのたうち回る小型竜に、ハンマーアックスを振り下ろし、床の石ごと打ち砕いた。


 続けざまに、瑯矢がベネリM4を出入り口に向けて発砲する。


 並んだ二体の小型竜の首が、同時に切断されて宙を舞った。12ゲージワイヤー弾だ。


「……私の小隊長は絶対に渡さないわよ」


「お前ら、真剣にやれ!!」


 俺は怒鳴りながら、床を這って噛みつこうとする小型竜の頭を、振り下ろしたマチェットで叩き切る。


「古淵! 防犯シャッターを降ろせ! カウンターの内側にスイッチはあるか!?」


「あった、オーケー!」


 古淵は受付カウンターの内側についているプラスチックカバーが付いた赤色のボタンを見つけ、手を掛けながら叫ぶ。


「白線の内側にお下がりください──!」


 俺と柚岐谷がカウンターの内側に飛び込んだと同時に、ボタンを押した。


 天井から鋼鉄の防犯シャッターが高速で下り、瞬く間にカウンターとロビーを隔離した。


 防犯シャッターの外で小型竜たちがそれを叩くが、喧しいだけでビクともしない。


「……最高の防犯装置だな。強盗が入っても、ロビーの客は置き去りに、自分らの身と金は死守できるってワケか」


 古淵は防犯シャッターを拳で叩く。


 ひとまず大きく息を吐いた俺は、叡にカロリーメイトの空き箱を投げつけられた。


「怖かった。今度は離れないで。もし次、離れるなら、ボクに銃を置いて行って」


 相変わらず叡は無表情だが、瞳がわずかに潤んでいる。


「……すまない。まさかこんな事態になるとは、思いもしなかった」



 俺は無線を取り、改めて呼び掛ける。


「こちらS4。我々は現在、首都第一銀行のビルの行内に避難している。防犯シャッターを作動させ、怪物どもの攻撃を阻んだが、大通りは怪物だらけで、逃げ場がない。現在も、空の魔法陣から次々と生み出され続けているようだ。他の隊の現在地を教えてくれ!」


 すると、初めて返答が入った。



<こちらS2!>


 SAT第二小隊長の沖國だ。


<俺たちは、向かいの日本橋三洋百貨店に、銃対の生き残りと一緒に立て籠もっている! だが防犯万全のそっちと違って、こっちには脆い窓と民間人が多すぎる!>


 彼の声の後ろで、SATと銃器対策部隊が放ったであろう多数の銃声が響き、その中に悲鳴が混じる。


<バケモノどもが次々と入ってきている……! 人員も火力も足りん! WASPの野郎が、揃ってどこかに消えやがった!>


「消えただと?」


 俺は、目を細める。


 確かに、戦闘ヘリが墜落し車列が壊滅してから、彼らからの応答は無い。どの隊も竜の壮絶な奇襲を受けて恐慌状態となり、激しい戦闘で一時的に応答できなくなることは理解できるが、今の今までWASPから何の連絡もないのは異常だ。


 武力に勝る彼らが、初出動とはいえ一人残らず一気に全滅するとは考えにくい。


<奴らは最初から……こんな緊急事態になったらさっさと俺たちを見捨てる算段だったんだ! そうとしか思えん……!>


「待て……嘘だろう!? 彼らは国防軍の特殊部隊だぞ! こんな簡単に任務を放棄し裏切るなんて有り得ない! それに、任務の鍵になる中嶋叡は、俺たちの元に居るんだぞ……!」


<奴らにとっちゃ、小娘一人の命なんぞどうでも良かったんだろうよ! この任務が失敗すれば他に打つ手は無くなって、最終手段として、東京テレポーターを空爆して跡形もなく吹っ飛ばす作戦を正式に実行できるんだからな!>


 俺は唖然とする。


 沖國の言う通りだ。この一連の事態を最も早く解決できる策は、この国の貴重な技術資産である東京テレポーターを爆撃することだ。


 しかし政府がその決断を躊躇したから、テレポーター開発者の中嶋稔道を確保し技術的に停止させようとする、この任務が先に実行に移されている。


 それに対して国防軍は、こう考えていたのではないだろうか。


 何故、国のメンツを守る為に、大きな犠牲を払わねばならないのか。

 この任務の時間稼ぎのために、台場を防衛する最前線の兵士たちが血を流し続けている。

 爆撃を実行すれば、この事態は迅速に終息させることができるというのに。


<あの左崎のクソ野郎の、会議室での態度を見ただろう! 自分たちに被害が出たら、俺たちをさっさと切り捨てて離脱するつもりだったんだ!>


 沖國は激しい銃撃の音の中で、叫ぶ。



<ここに、援軍は来ない! 俺たちしかいないんだ!!>


 

 畜生……!

  

 俺は、やり場のない怒りをどうにか抑え込み、熱い息を吐く。


「……宮潟。まさかとは思うが、オレンジを持っているか?」

 

「持ってるわよ。出発前、食堂から貰ってきたのよ」


 一部始終を聞いていた宮潟は引きつった笑みを作りながら、バックパックから白いビニール袋に入ったオレンジを取り出した。


 縛った袋の中で潰れて裂け、果汁が中であふれている。


「あら、潰れてるわ。どうする?」


「ちょうどいい。あの野郎にはお似合いだ。もし奴の死体を見つけたら、そのまま供えてやれ……」


「フッ。了解よ」


 俺はマチェットについた小型竜のドロッとした血液を拭き落としてから、後ろ腰の鞘に叩き込み、HK416を持ち直す。


「さて、みんな……これからどうする。プランは二つだ。安全が確保されるまでここに立て籠もるか、危険を顧みず外に脱出するか……」


 すると、まず柚岐谷が防犯シャッターに手を当てながら意見を述べる。



「ここに籠城するのが、最善だと思います。この建物は、見かけ以上に頑丈です。

 一昨年に大規模な改築が行われ、外見以上に、内部の構造はタフになっています。最も頑丈な金庫への侵入はおそらく無理ですが、書庫であっても優れた耐火構造を持っているので、そこへ厳重に立て籠もれば、炎を吐ける竜がやってきても、優れた耐性を発揮するはずです。

 それに加え、大規模災害が発生した緊急時には避難所としても使用できるよう、多くの非常用物資が備蓄されています」



「詳しいな……」


「去年、都心の大災害を想定した防災講習で、習ったじゃありませんか。……忘れましたか」


「……それは、忘れていた。すまない」



 そこに半田が手を挙げ、異議を唱える。



「安全が確保されるとは、いったい何時のことですか……? 

 僕たちは宰河さんの指示に従い、外に居た民間人の一切を見捨てました。

 逃げられない怪我人は今頃、あの竜に残らず焼き殺されたか、胃袋に収まっていることでしょう。

 他の仲間たちも襲われ、全滅の危機に陥っています。

 そんな状況の中で、警察の精鋭特殊部隊である我々は、避難民のために用意されていたであろう物資を独占してムシャムシャと食い散らかしながら、いつ来るかも分からない救援が来るのを待つと? 

 素晴らしい名案ですね」



「ちょっと、あんたねぇ……!!」 


 宮潟が血気盛んに掴みかかるが、半田は憮然とした顔でそれをすぐに振り払う。


「宮潟さん、こんな状況だからはっきり言うが、最近のあんたは盲目的すぎる。宰河さんに惚れてるんだろうが、馬鹿らしい。僕らは何のために警察になり、この特殊部隊に志願した? 市民を守るためでだろう!? 我々警察が彼らを助けなければ、いったい誰が助けるんだ!」


「だからって、今の私たちに何が出来るって言うの!? 私が、歩けない民間人をかばって怪物に殺されたら、それで満足、それが正義、なんて言うつもり!?」


「そんな状況で死なないために、僕たちは対テロ特殊部隊として高度な訓練を受けてきたんだろう! 市民を守れず見捨ててしまう警察なんかに、価値なんて無い……!」


 突然、二人の足元の床に花瓶がガシャンと叩きつけられた。


 投げたのは、叡だった。



「そこまで言うなら、今すぐ出ていけ。お前は邪魔だ」



 叡は憤怒に満ちた表情で、外の方向を指さす。


「ボクは、お爺ちゃんを助けるために、ここにいる。警察もそう言って、ボクを連れ出した。小隊長さんも、ボクを必ず守り通して、お爺ちゃんも助け出すと言った。それを信じて、ここまで付いてきた」


 叡は瞳に涙を溜めながら、声を荒げる。



「ボクは、お爺ちゃんを絶対に助けたい。お爺ちゃんは、ボクをずっと、守ってくれたから。

 お爺ちゃんが希望を持って苦労して創った発明を……こんな残酷に悪用している奴らがいる。

 ボクは、許せない。

 お爺ちゃんと一緒に、止めなきゃいけない。

 そのために、ボクはここにいる。


 ────だから、邪魔をするな!!」


 

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