殺戮のミスト ──「スモークを使え!」
「RWSが破壊されました……!」
ストライカー装甲車の遠隔操作式銃塔RWSを操作していたWASPアルファ小隊隊員が、大声を上げた。
「もうここは駄目だ! 脱出するんだ!! 早く!!」
装甲を殴りつける音に合わせて激しく揺れる車内で、左崎は隊員たちに出口のハッチを示した。
「ハッチを開きます!」
二人の隊員が、車両後部のハッチを押し開いた。
しかしそこに、竜の顔があった。
天井から逆さまに、大きな顔を覗かせている。
左崎は驚愕してAA12を構えるが、ハッチの前で立ち竦む二人が邪魔で発砲ができない。
「そこをどけ────!!」
たちまち、竜の腕が伸びて二人の隊員を身体をまとめて鷲掴みにし、あっという間に外へさらっていってしまった。
上から身も凍るような恐ろしい悲鳴が聞こえ、ちぎり取られた血まみれの腕や脚がハッチの前に無残に落ちて転がった。
「左崎少佐……!! このまま外に出れば、あいつらに喰われます! どうすれば!?」
怯える部下に、左崎は真っ赤な顔で怒鳴る。
「このままここに居ても同じだ! スモークだ! スモークを使え!!」
左崎と隊員たちは一斉にスモークグレネードのピンを抜き、ハッチの外に投擲した。
地面に転がり起爆したスモークグレネードが見る見るうちに白い煙幕を広げ、周辺を濃煙で包んだ。
「このまま真っ直ぐ全力で突っ走るぞ。充分に距離を取ったら、一斉射撃で奴の首を獲る。私の背中についてこい!」
「了解!」
左崎はAA12を抱え、ストライカー装甲車を飛び出し、地を蹴って走り出した。
すぐ後続の隊員が「うわっ!」と声を上げた。
地面に落ちた仲間のちぎれた脚を踏んで、バランスを崩したのだ。
そんな隊員を、白煙の中から現れた黒い腕が鷲掴みにして、死神の如く連れ去っていった。
「みんな、止まるんじゃない! 走れ!!」
隊員たちがストライカー装甲車から次々と脱出して左崎に続くが、黒い腕は容赦なくそれを攫い上げていく。
部下たちの悲鳴を背中で聞きながら、左崎は未だかつてない死の恐怖に身を蝕まれていった。
それでも、無我夢中で走り続けた。
スモークグレネードの濃煙を抜けて振り返った時、そこに部下は一人も残っていなかった。
「……この、野郎……」
精一杯強がった台詞を吐いた左崎の歯は、がちがちと震えていた。
あのストライカー装甲車よりひと回りも大きい筋肉逞しい竜が、煙の中で立ち上がった。
そしてAA12を構える左崎を見下ろし、血まみれの顔で邪悪な笑みを浮かべた。
────こいつ、我々を弄んでやがる……!
この銃に装填してある12ゲージフラグ弾で、この怪物を倒すことはできるのだろうか。
倒せなければ、ここで殺される。
左崎は、恐怖でそれ以上動くことが出来なかった。
その時、一際大きな発砲音が鳴った。
左崎は正体を瞬時に察し、飛び退いて地面に伏せた。
盛大な飛翔音を立てながらロケット弾が竜の顔面に突き刺さり、大爆発を起こした。
横転した銃器対策警備車の上に、ヘッドホン型のイヤープロテクターを着けたアルファ副小隊長の相須梨子が、膝立ちの格好でパンツァーファウスト3対戦車ロケットランチャーを構えていた。
相須は、撃ち終えて用済みとなった発射チューブを乱暴に捨て、代わりに背負っていたアキュラシーインターナショナル社製AS50アンチマテリアル・ライフルに持ち替えてから、左手を振った。
「左崎少佐ぁー! 大丈夫ですかー? 死にそうですかー!?」
妙に元気でテンションが高い、WASPナンバーワンの馬鹿隊員だ。しかし、対物火器の扱いは随一のプロフェッショナル。
別のストライカー装甲車に搭乗し相須が率いていたアルファ小隊の半分と、ブラヴォー小隊の生き残りの隊員たちも、竜を断続的に撃ちながら続々と現れる。
「少佐! 大丈夫ですか!?」
ブラヴォー小隊長の星乃が差し伸べた手を、左崎は跳ね退ける。
「少佐?」
「黙っていろ……!」
自分の下に居た部下が、全員死んだ。
恐怖で、自分は何も出来なかった。
重く圧し掛かる現実が、左崎の心を軋ませ、深い亀裂を入れた。





