ドラゴン・ストーム(2) ──「この場所は危険だ……!!」
その怪物が何者かと思考する間もなく、俺は構えたHK416の引き金を絞っていた。
銃の中で、シアの解放と共に落ちたハンマーが5・56ミリ口径スチールポイント弾のプライマーを叩き抜き、引火した発射薬の爆発によって、炎と共に鋭い弾頭が回転しながら銃身から撃ち出された。
竜が素早く身体を捻る。
竜の胸を狙って発砲したそれは、肩を裂くように着弾し、黒い鱗を鋭利に削り取った。
────避けやがった……!
次弾を撃とうとしたその時、竜の口が紅く輝いた。
凄まじい熱を感じ、俺は目が眩みながらも元居た場所を飛び退く。
刹那、喉奥から紅く燃える光弾が発射された。
一瞬前まで俺が立っていた場所に正確に着弾、爆発が起こり、俺と柚岐谷は爆風で剥がれたアスファルトの破片と共に吹っ飛ばされた。
宙に放り出されながら俺は、親指でセレクターを弾いてフルオート位置にセット、HK416の全自動連射を放った。
不意を突かれた竜の腹に初弾数発がめり込むが、竜は身体を跳ね上げ空を飛び、残りの弾を回避する。
「柚岐谷────!!」
俺が着地しながら叫んだと同時に、もう一つの巨大な『砲哮』が上がった。
ゲパードGM6。仰向けで柚岐谷が正確に発砲した12.7ミリNATO弾が、翼を広げ浮いている竜の身体のド真ん中を突き破った。
紅く光る臓物が、盛大に背後へ撒き散らされる。
竜の動きが鈍くなったところで、俺はHK416の猛連射をその顔面に叩き込む。
頭部の銃創から紅い炎が噴き上がり始め、ついに断末魔と共に、悪魔の顔が炸裂。まるで花火のように紅い炎を纏った肉を散らし、力を失って墜落した。
俺はポーチから新しいマガジンを取りながら、残弾わずかのマガジンを外して落とし、HK416をリロードした。
「……おい、大丈夫か!」
SAT第三小隊の隊員たちが、次々と装甲車を脱出する。
彼らはまだ、この場所で何が起きているかを知らない。
副小隊長の隊員が、頭部を喰いちぎられた北村小隊長の死体を見て、弱々しい声を上げる。
「死んでる……嘘だろ……? 今のは、何なんだ……! 俺は……何を見てるんだ!!」
突然の事態に狼狽し、部下にまともに指示が出来る状態ではない。彼だけではなくどの隊員も混迷し、恐慌状態に陥っている。
「落ち着け!! 屋内に避難するんだ!! この場所は危険だ……!!」
俺が必死に呼び掛けるが、隊員たちは空を飛び交う竜の群れに気付いて次々と悲鳴を上げ、さらに場は収拾のつきようがなくなっていく。
「────!?」
出し抜けに、凄まじい力で俺は背後に引っ張られた。アーマーを強く掴まれ、息が出来ない。
と────同時に、空から巨大な黒い塊が降ってきて、第三小隊の面々は、一瞬にしてその物体に押し潰された。
短い悲鳴、そして、骨と臓器が粉々に砕かれる鈍い音が鳴り響く。
落ちてきたそれは、大型竜の死骸であった。
小火器のものではない、砲による弾痕がその身体に穿たれている。
上空で竜と戦っているAH64Dアパッチ・ロングボウが撃墜したものに違いない。
「……たす、けて……くれ……」
下半身を潰されてかろうじて生存した隊員が一人、こちらに向かって手を伸ばす。
俺はすぐに駆け寄ろうとするが、その場を動けなかった。
振り返って見ると、俺の背中を、柚岐谷が必死で掴んでいた。
死んだと思われていた大型竜の瞳が、いきなり輝いた。
ビキビキッと表皮が割れ、そこから紅い炎が漏れ出し、あっという間にその全身を呑み込んだ。
下敷きにした隊員を巻き添えにして。
生きたまま灼熱の炎に焼かれる隊員を見ながら、俺は絶望に叫んだ。
柚岐谷は、そんな俺の肩を思い切り揺さぶる。
「小隊長……! しっかりしてください……!! ひとまず、建物に戻りましょう!!」
柚岐谷は俺を気遣いながら、そこに飛び掛かってきた小型竜に対し、片手で持ったゲパードGM6の砲弾を正確に浴びせた。
着弾の衝撃で竜の胴体は両断され、上半身と下半身が離れ離れにボロ布のように飛んでいった。
俺は口の中に溜まった埃まみれの唾を吐き捨て、HK416を握り直した。
「クソッ……クソォオオオオオ!!」
憤怒に咆えながら、柚岐谷の背中を狙って飛翔してきた小型竜の頭を、HK416のショートバースト射撃で撃ち砕く。
柚岐谷と共に銀行ビルへ撤退しながら、俺は無線に向かって叫び立てた。
「……こちらS4!! 四方八方から怪物による攻撃を受けている! 装甲車は使用不能! S3は全滅した! 我々は退避し脱出ルートを探す!」





