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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:03 BLOOD FALLS 「ブラッドフォール」   ── 異世界侵攻を生き延びろ。
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出撃の刻(2)  ──「俺たちはコロンブス側じゃない。ネイティブ・アメリカン側だ」


 WASP隊員は、叡の反応を見てひとしきり楽しそうに笑ってから、「まあ、子供のことはお任せしますね!」と言って去っていった。


 そのタイミングを見計らって、俺は叡に本音で忠告する。


「……確かに、奴らは何をしでかすか分からない。WASPの連中も、これが初の出動なんだからな。叡、言っておくが、絶対に俺から離れるなよ」


「言われなくても、べつに、死ぬまで離れないよ」


 WASPだけではない。同行に不安を感じる集団はもう一つある。


「古淵、半田、柚岐谷、先に装甲車に乗っていてくれ。俺はちょっと用事を済ませる」


「そりゃ面白い用事ですかい? 小隊長どの」


「……いや、全く」


 遠くに『顔見知り』が通ったのが見えて、俺は駆け足でその背中を追い掛けた。

 並んだ銃器対策警備車のすぐ側に、その集団は待機していた。


 銃器対策部隊、第二班の十名。

 班長の善田鉄二は背後の俺に気付いて、「ヒッ」と喉を鳴らした。


 あろうことか、彼は反射的に持っていた国産アサルトライフルの89式小銃を向けようとしたので、俺は素早く銃身を掴んで捻り上げ、彼の鼻を軽く小突いた。


「また、隊員を全滅させる気か? これは訓練じゃない。失敗は死だ。死ねば、そうして怯えたり悔しむことも出来ないぞ」


 朝の模擬戦で第四小隊が全滅させた面々が、そこに綺麗に揃っていた。

 想定外の激戦になった場合に、彼らがいかに脆弱か、俺は身をもって知っている。


「敵は、同じ人間じゃない。俺たちの常識が一切通用しない、異世界の軍隊だ。正体や勢力規模は不明だが、奴らの目的は、俺たち全員をバラバラの八つ裂きにして、新天地を開拓することだ。俺たちは、コロンブス側じゃない。ネイティブ・アメリカン側だ。……本当にお前らは、覚悟は出来ているのか?」


 ほとんどの隊員が暗い顔つきで押し黙る中、一人の隊員は「なめんじゃねえ」と威勢よく言い放った。

 訓練の終盤で木刀で特攻してきた、あの浅黒い肌の女性隊員だ。


挿絵(By みてみん)


「覚悟と肉体で勝るインディアンが、最高の現代兵器を持っていたらどうなるか、試してみようぜ」


 米海はそう言って、M9銃剣を宙にクルッと放ってキャッチすると、モスバーグ社製のM590ショットガンの先端に着剣した。M590には、Cモア社製のレイルウェイ・ドットサイトが取り付けられている。


挿絵(By みてみん)


「お言葉だが、あの時、俺にやったような木刀突撃を実戦でやったら、一瞬で殺されるだけだぞ。勇敢と馬鹿は紙一重だ」


「やるわけねーだろバァカ。放っておいても負けそうだから、ありゃ景気づけにやっただけだよ。ま……もしやるとしたら、今度はコイツで確実に捻じ伏せてやる」


 米海は左手で、黒色の鉄棒を腰の鞘から抜いた。思い切りそれを振ると、ジャキッと音がして、一瞬で先端が長く伸びた。

 26インチサイズの法執行特殊警棒。流通する特殊警棒の中でも大柄で高威力にあたる部類で、手の骨程度であれば簡単に殴り折ることが可能であり、胴体を突けば肋骨を粉砕できる。


「それに今回は、強力な助っ人がある。インディアンは火を着けた矢で戦ったが、私らにはこれがある」


 米海は、俺が最初に訓練で『射殺』した銃対隊員である森内祐太郎が背負っている大型の機材を指し示す。


「携帯火炎放射器。一噴きで、どんなバケモノでも灼熱で焼き尽くしてやれる。今回は、銃器対策部隊の一個班につき二機の火炎放射器を持っていく。まさしく、究極の『銃器対策』だぜ」

 

 携帯火炎放射器。

 これはM2火炎放射器を原型とする国産改良型で、国防陸軍にも配備されている。

 現代では火炎放射器は対人用の兵器としてではなく、障害物の除去や、害虫駆除、細菌に汚染された有機物の焼却処理などに使用するための機材として配備されている。


挿絵(By みてみん)


 俺は視線を移し、他の隊員の装備も確認する。


 銃器対策部隊のトレードマークとも言うべきMP5を持っている隊員は一人もおらず、主力装備をより強力な89式小銃やSIG556に変え、火炎放射器を担当する隊員は、軽量だが大口径の45ACP弾を撃ち出せる火力重視のUMP45サブマシンガンを併せて携帯している。


挿絵(By みてみん)


 各隊員のレッグホルスターには、同じ45ACP弾を使用するFN社製のFNX45オートマチック・ピストルが差してあった。 


挿絵(By みてみん)


 班としての火力だけで見れば、SATに勝るとも劣らない豪華な武力だ。


 米海は、俺の傍らに居る叡をちらりと見て、鼻で笑った。


「私らの心配より、自分の心配をしたらどうだよ? あんたの小隊が子守の担当だろ。せいぜい頑張れよ」


 班の士気は、米海のおかげでそれほど低くもなさそうだが、実際どうなることか。


 これ以上会話することもないので、そのまま立ち去ろうとした時、叡が米海のM590ショットガンを指さして、ボソリと言った。


「そのCモア、マウントのスクリューが緩んでる。そのまま撃ったら、ドットサイトが吹っ飛んじゃうよ」


「あぁ? 何だと? え? あ……」


 米海もドットサイトのネジの緩みに気付いて、慌てて締め直す。


「ただ締めるだけじゃダメ。12ゲージの反動でいずれ外れる。今すぐネジ止め剤を塗布し直した方がいい」


 それだけ言って、叡は「行こ」と俺の腕を引いて歩き出した。

 俺はまた、苦々しく笑う。本当に不思議な子だ。



 第四小隊の面々が乗る九六式装甲車へ向おうとすると、その途中で、険しい表情を浮かべる鶴騎中隊長に「おい、宰河」と呼び止められた。


「……何があっても、必ず、その子を守り通せ。お前なら出来る。死力を尽くすんだ」


 鶴騎中隊長と傘宮中隊副長は、本部で情報収集と部隊の指揮を行うため、今回の警護チームには直接の同行はしない。それも役目だ。冷静な指示者がいなければ、現場はさらに混乱することになる。


「はい。必ず任務を完遂します。日本警察最後の切り札として」


 俺がそう答えると、鶴騎中隊長は俺の肩に手を置いて、強い気迫で言った。


「いいか……? 絶対に、自分を見失うな。いかなる事態に陥っても、必ず任務を思い出すんだ」


 突然のことに、俺は面食らう。

 隊全体の訓示としてではなく、俺個人への忠告としてこんな事を言うとは、一体どういう訳だろうか。


「中隊長……それはどういう意味でしょうか。自分は、絶対に任務を放棄することはありません」


 鶴騎中隊長は、俺の肩を掴む手の力を強めて言った。


「お前の脱走を心配しているわけじゃない。まだ俺の想像の範疇だが……東京テレポーターの職員か警備に、今回の攻撃に協力した『ネズミ』が潜んでいたと俺は推測している。この国を奪うため、他にも……市民、警察、軍人……それらに紛れて、この侵攻を手引きする役が潜んでいる可能性がある」


 俺は目を見開いた。

 鶴騎中隊長は、緊迫した面持ちで続ける。


「人間に、化けることができる怪物がいる。お前たちには、警備チームや民間人が殺害されていく場面しか見せていなかったが、あれには続きがある。首を切り落とされた民間人の少女が蘇り、そして、救援にやってきた銃器対策部隊第八班を壊滅させた」


 プリントアウトした四枚の写真を見せられて、たまらず俺は「ウッ」と口元を押さえた。


 『人間』としての姿の写真。

 首を切り落とされた写真。

 それが立ち上がる写真。

 そして、醜怪な化物となり銃器対策部隊の隊員を喰い散らかす写真。


「監視カメラの映像を解析し、彼女の身元を割り出したが、都内の学校に通うごく普通の学生で、戸籍も本物だった。恐らく、人間の身体を『乗っ取った』んだ。人間社会に浸透できる、バケモノだ」


「まさか……この警護チームにも……?」


「……それは分からない。が、潜んでいる可能性も考慮しておいた方がいい」


 俺は愕然として、叡の方を見た。


「そう。だから、ボクは小隊長さん以外を信用してない」


 何ということだ。

 俺は絶望的な気持ちで、目を閉じて空を仰いだ。


「この子は、核シェルターに閉じ籠もったテレポーターの設計者を、外に連れ出せる唯一の存在だ。敵が欲しがらないわけがない。そう思って、少数精鋭だが練度は最高峰であるお前の第四小隊を、この子の側近として割り当てた」


 鶴騎中隊長は、俺に小型のタブレット端末を差し出した。


「これを持っておけ。発信器の受信装置だ。この子には、秘密裏に発信器を持たせてある。お前だけが、これを使って現在位置が分かる。もしはぐれたり……何者かにこの子が拉致されるようなことがあれば、これで追跡できる」


「この件は、第四小隊のチームメイトには……」


「秘密にしておくんだ。絶対に」


 俺は、その真意をすぐに理解して、寄る辺ない心境になった。


 この怪物は、第四小隊の中にも潜んでいるかもしれない。彼は、そう言いたいのだ。


 宮潟、古淵、半田、柚岐谷。

 共に切磋琢磨してきた、最も大切な仲間だ。


 ……その中に、敵が潜んでいるだと?


「この任務では、想像の域を遥か超えた、強大な脅威と困難が待ち受けているだろう。我々がどれだけ尽力しようが、多くの血が流れ落ちる。混沌と絶望に打ちひしがれ、自分を見失いそうになったら……俺がお前に与えた任務を思い出すんだ。この任務こそ……お前が戦う理由だ」


「…………了解」


 俺は暗澹たる心境で、どうにか返事をした。


 この出発の直前に、味方は居ないと宣告されたも同然だ。


 確かに、こんな事を隊全体に知らしめれば、誰もが疑心暗鬼に陥って恐慌状態となり、味方に銃を向け始めることだろう。

 だから俺はたった一人、このパンドラの箱を腹に抱えたまま、任務を遂行しなければならない。


 最高の心強い仲間が居れば、どんな困難でも戦い抜けると、俺は小隊長として決心していたはずだった。

 しかし今は、その道標は深い暗闇に呑まれ、俺はたった一人、孤独に取り残されている。



 その時、叡が俺の脇腹をどついた。


「大丈夫。ボクがいる」


 叡は相変わらずの無表情で、俺を真っ直ぐに見据えた。

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