武器庫 (2) ──「君らは違う。 敵を完璧に殺害するために訓練された小隊だ」
そこで、独子が相変わらず気味悪い笑みを浮かべながら、次の装備が入った台車を運んできた。
「はーい、皆さんお待ちかね。独子ちゃんセレクト、『対物兵器』の登場さ」
大柄なソフトガンケースをテーブルの上にドンと載せて、中の銃を取り出す。
「もし、躾のなってないデカブツが現れたら、これで吹っ飛ばせ。SERO社製ゲパードGM6ブルパップ・アンチマテリアル・ライフル。12.7ミリNATO弾を使用し、有効射程は二千メートルに達する。全長は一メートル、重量はたったの十キロ。発砲と同時にボルトと連結した銃身が自動後退し、射撃の反動を大きく緩和する。立射による連続射撃も可能だ。柚岐谷ちゃんの腕力なら、さらにアグレッシブな芸当も出来るかもな」
柚岐谷は満足そうに頷きながら、ゲパードGM6を手に取って眺め、ガンケースに収めた。
「助かります。バレットM82の方が好きですが、あれは長すぎて市街地戦には向かないですから。これなら屋内でも取り回しが良いですね」
続けて独子は、太いフェンシングの剣のような形をした武器を取り出す。
「こいつはお守りとして、全隊員に一発ずつ持たせてる。イスラエルのラファエル社製SIMONライフルグレネード。ライフルの先端に被せて撃てるロケットだ。爆風は指向性だから、二次被害の危険性も少ない。ブービートラップを気にせず壁や強固な扉を消し飛ばせる良い武器なんだが、お偉いさんが科学的根拠もなくイメージだけで危険と判断したせいで、全国配備の予定がお蔵入りになっちまった。けれどこれで、ようやく日の目を見る」
「これは俺も一度訓練で使ったきりだな。最大有効射程は?」
「三十メートル。不足ある?」
「いや、それなら充分だ」
ライフルグレネードを取って、予備弾や爆薬などを詰めたバックパックの脇に一本差しておく。
「さて、最後はメレーウェポンだけど、『いつもの』でいいの? もっと良いのが欲しけりゃ用意するよ」
「使い慣れた物こそ、最高の道具だ」
台車からハードケースを取って、蓋を開ける。
五本の黒いカランビットナイフ。
鎌のような三日月型の刃を持つナイフで、グリップには指を通すための穴が開いている。
東南アジアが発祥で、元々は農耕用の道具だったと云われているが、カランビットナイフはこれを近接格闘用の武器として発展させたものだ。
その運用方法の特殊さ故に、格闘術は敵に動きを読まれ難く、二一世紀以降は西欧諸国でも特殊部隊向けの軍隊格闘技として多くの機関に取り入れられている。
俺は、鞘を抜いて、グリップのリングに右手の人差し指を入れ、逆手に握った。
これは、相手の筋肉を切断する為の形態。湾曲した刃は、円柱状の形をする首や腕や脚を切り裂くのに適した形だ。
握りを解いて、指に引っかけたリングをクルッと回転させ、今度は握った拳の先に突き出す。
これは、相手の臓器を突く為の形態。肋骨の間を突き抜けて貫くのに適し、刺しながら捻れば、そのまま傷を広げ裂くことができる。
四人も次々とカランビットナイフを取って、すぐ鞘から抜けるようにボディアーマーの肩の部分に装着する。
それを見て独子は目を輝かせ、両腕を組む。
「これこそ、SAT第四小隊……別名『死の小隊』の本領だ。
他の小隊は所詮、ちょっと戦闘力の強い警察官に過ぎないが、君らは違う。
敵を完璧に殺害するために訓練された小隊だ。
君らだけは、あのロシア連邦保安庁特殊部隊スペツナズのアルファ部隊から訓練を受けている。
だから、型破り。敵を殺すためならどんな手段でも使う」
独子の熱弁を無視して、俺たちはそれぞれ近接武器を手に取った。
俺と半田と古淵の三人はマチェットを取って、後ろ腰に差した。
マチェットとは、本来はジャングルで使用するもので、進行を遮る草木を叩き切るための短刀だ。
宮潟は、特殊合金製のトンファーを取る。
これは取っ手のついたT字型の警棒で、海外の警察の装備としてもよく見られるものだが、殴る、突く、投げる、そして防御と、様々な使い方ができる優秀な武器だ。
そして柚岐谷は、今朝の銃器対策部隊との模擬戦の際にも使用した大振りなハンマーアックスを手に取る。
「待って。まだ手が空いていたら、これも持って行ってくれ」
独子は、台車に載った最後のケースを取って、蓋を開いた。
「新兵器、M12ワスプナイフ。見た目はただのサバイバルナイフだが、これはグリップ内に炭酸ガスが圧縮されたボンベを装填できる。スイッチを押し込めば、刃先からおよそバスケボール大の冷凍ガスが一気に噴射される。組織を一気に凍結させ、吹き飛ばす。急所に突き刺して使えば、大物でも一撃で倒せる。もしくは、顔に噴きかけて目潰しするにも良い。……今から、スイカを使って実演してやるから見ててよ」
「いや……実演はしなくていい。知っている。SBU(国防海軍特殊部隊)の時に、使ったことがある」
ワスプナイフを取り、グリップ底にガスカートリッジを装填した。予備のガスカートリッジは六本。
腰に着けたホルスターやマチェットの配置と干渉しないよう気を付けながら、ワスプナイフと予備ガスカートリッジの入ったポーチを装着する。
最後に、S&W社製小型リボルバーであるM637エアウェイトの入ったホルスターをボディアーマーに着け、最後にブルズアイナイフをポケットに仕舞う。これこそ、俺のお守りの代わりだ。
俺たちは、互いの装備を見やる。これで、全員の準備は完了だ。
ワンポイントスリングで吊ったHK416にマガジンを叩き込む。
独子は、右手の人差し指を立ててピストルの形を作って、「ばきゅん」と俺の胸を撃つ真似をした。
「これにて、私の仕事は終了。ガンバってネ」
「ありがとう。それじゃあ、行ってくる」
独子と職員たちは、一斉に右手で敬礼をして、退出する俺たちを見送った。
俺たち五人は、大量の武器で身を固めた黒き兵士となり、重厚なブーツの音を立てて並んで歩く。
今回は、一人の少女がオマケでついている。
「まるで、ボクが傭兵雇ったみたい。結構、気持ちいいね」
スティック付きのキャンディーを舐めながら、叡はマイペースに言った。





