敵なら殺せ (1) ──「本当に、ボクを守れるの?」
WASPの二人が退出後、SAT隊員たちで改めて任務の細かい段取りを確認し、第二小隊、第三小隊の面々は準備を整えるため次々と会議室を退出していく。
俺は一度、我が第四小隊の四人を改めて集め、その顔を突き合わせた。
このまますぐに装備保管庫に行っても、どうせ定員オーバーで入れないからだ。
「とんでもない事に、なりましたね……」
柚岐谷は腕を組みながら、不安の色がありありと見てとれる顔つきで言う。
「永友さん達が、皆殺しに。敵は、正体不明の力を使う魔法使い。私たちが……勝てるんでしょうか?」
すると、古淵が親指の爪をガリッと噛み落としてから、ふてぶてしそうに言った。
「それでも、勝つんだよ。負けたら死ぬ……地獄送りだ。首を切られるか? 生きたまま焼かれるか? どちらにせよ、俺はそんなの真っ平御免だ。殺される前に、殺す」
机の上に腰を乗せて座る宮潟も、「そうよ」と達観した表情で頷く。
「映像を見たでしょう。奴らは、銃弾で殺せる。弱点を突けば倒せるのよ。それに、今回はさらに強力に武装したWASPの連中が盾になる。いけ好かない奴らだけど、あれだけの装備があればまず負けない」
それに対し、「それは、どうだろう」と疑問を呈したのは、目を赤く泣き腫らした半田だ。
「敵の戦力が、あれだけしか無い保証はない。もし僕がテロリストとして日本の重要施設を襲撃するつもりなら、とっておきの『切り札』を懐に確保してからやる。そうでなければ、警察を退けた後に出てくる国防軍まで相手にできる勝算なんて無いからだ。
魔法を使えるからと言って、終始ただ正面からゴリ押しし続けるだけの幼稚な作戦を遂行するだろうか。異世界軍……彼らが軍隊なら、必ず司令官が居る。そして我々人間と同じく、核兵器のように破滅的で、細菌兵器のように残虐非道な切り札を、彼らも持っているはずだ」
俺は、半田の瞳を見つめる。
仲間の死に憤って自棄になっているわけではなさそうだ。彼の懸念は、もっともの事だ。
敵の攻撃は今現在も続いている。
東京テレポーターから、異界軍の兵士が続々と出現しているという現状だ。
国防軍が一進一退の攻防を繰り広げて抑え込んではいるが、これが何かの『時間稼ぎ』だとしたら。
しかし古淵は、半田を鋭く見やりながら、中指を立てた。
「だからどうした。その最終兵器とやらが起爆したら、その時は諦めて全員仲良く消し炭になって吹っ飛べばいい。無駄なことは考えるな。お前の言う事が本当だったとしても、今の俺達には何も出来やしないんだからな。
考えてみろ、もしお前が敵の狙撃を受けて足を負傷したとして、その時に何を考える? 敵がもっと強い兵器を持っていたらどうしようー、とか、この傷ちゃんと治るかなー、なんてウジウジと考えるか?
違うだろ?
速やかに遮蔽物に身を隠し、敵の方角を特定し撃ち返すんだ。俺たちは、そういう訓練を受けてきたはずだ。俺たちは、ただのソルジャーだ。スーパーマンじゃない。与えられた任務を確実に成功させる。俺たちは、それだけに集中すればいいんだ」
押し黙る半田の胸元を人差し指で突いてから、俺を見た。
「そうだろう……小隊長どの?」
俺は一呼吸おいて、頷いた。
「ああ、その通りだ……。俺も、思い出したよ。こういう時こそ、日々の訓練を思い出し、忠実に任務を遂行すべきだ」
俺は目を閉じ、自分の両手を眺める。
「かつて、永友さんはこう言っていた。
……神は我々に知恵と両手を与えた。この世界を守り、価値あるものにする為に。
しかし、今はどうだろうか。授かった知恵と両手を、悪行に使う者たちがこの世には溢れている。
我々は、彼らと戦わねばならない。
知恵と両手を、世界と仲間のために使うことが出来る正しき人々を、邪悪から守るために」
両手を強く握りしめる。
「仲間の為に戦うんだ。無念に死んでいった仲間たちの為に。任務を必ず成功させよう。汚名を晴らし、SATがただのやられ役、雑魚の連中ではないと、知らしめるんだ。日本警察の底力を見せてやろう。いいな?」
その言葉に四人は同時に強く頷いた。
すると、背後からこんな声が聞こえてきた。
「……本当に、ボクを守れるの? 映画とか漫画だと、いっつも壊滅してるイメージしかないけど」
振り返ると、そこにコーヒー牛乳を持った叡が無表情に立っている。
「何とでも、口だけなら言える。誰でも。本当に実行することができる人は、少ない。想像以上の困難と苦痛が、そこに待ち受けているから」
……俺も、この子はあまり好きじゃない。





