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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:02 THE GATEWAY OF HELL 「地獄のゲートウェイ」 ── 異世界の使者と対峙せよ。
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涙痕のコールドブート (1)  ──「あなたのせいです」



 篠巻は、呆然と佇んだ。


 つい一瞬前まで、将来を誓い合って行動を共にしていた天城蓮華の身体が、いまは頭部を失ってどす黒い血液を噴き出させながら、糸の切れた人形のようにゆっくりと倒れた。


 鈍い音を立てて床へ落ちた彼女の頭部からも、じわりと黒い血溜まりが広がり始める。




 ……蓮華が、死んだ。




 篠巻の顔から、表情が消えた。


 決壊したように冷たい涙が瞳から溢れ始める。


 猛烈な冷寒に苛まれて、足が震え、呼吸がままならなくなる。


 心臓が脈打つたびに、現実の受容を拒む脳が疼き、意識が朦朧とした。





 凄惨な死臭にまみれた地獄の中で、か弱く灯っていた最後の希望の炎が、ついに揺れて消えた。


 そして、漆黒の闇が現れた。


 微かに残っていた一筋の光が、消え失せ、篠巻の心は完全な闇に覆われた。



 力の抜けた手から、MPXサブマシンガンが滑り落ちる。





「……せっかくの、リカイの良いニンゲンさんが、死んでしまいました。あなたのせいです」



 そう責めるように言ったミイの顔は、痙攣するように笑っていた。 



「男のニンゲンさんは……嫌いです。いつも、女のニンゲンさんを食物(ショクブツ)にしているのに、こういう時には、守ろうともしない。逆に、守られて、男のニンゲンさんのために、女のニンゲンさんが死ぬ。だから、男のニンゲンさんは、大嫌いなんです」



 怒りを含んだ声色に反して、血で汚れたミイの瞳は輝き、晴れ晴れとしている。


 彼女にとって、そうした人間の悪しき背景も、この大殺戮を極上の味へと昇華させる香辛料に過ぎない。


 ただ無機質に殺すだけでは飽き足らず、殺す相手に対してドラマを嗅ぎ取ることで、自身が行う殺人の意味をさらに強めようとする、本物のシリアル・キラー。




 篠巻は無言で、大鎌を握るミイを、睨んだ。



 心を覆う闇に、ひとつの光が現れた。


 その一筋の光明は、鮮やかな血の色をしている。


 最愛の彼女を失った篠巻は、その光に向けて、静かに歩みを進めた。








 ────この女を、殺す。





 殺す。



 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。



 



 篠巻は、ホルスターからコルトガバメントを抜いた。


 ガスで駆動するタイプの、銃刀法に適合したエアーガン。



「また『銃』ですか? 気が済むまで、撃ってはいかがでしょう。でも、わたしは倒せません」



 ミイは油断していた。



 篠巻はマガジンキャッチを押して、グリップからBB弾とガスが詰まったマガジンを左手の上に落とした。


 右手に握ったコルトガバメントの本体を、宙にふわりと放り投げる。



 訝しげなミイの視線が、空中の銃に向いた。



 篠巻は左手に握ったマガジンの、ガス放出バルブを強く押し込んだ。


 盛大な噴出音。放出口から低温のHFC134aガスが放たれ、ミイに浴びせられた。




 彼女が短い悲鳴を上げて一瞬怯んだ隙に、篠巻は床に落ちたMPXサブマシンガンを右足で蹴り上げ、キャッチすると同時に、引き金を引いた。


 鋭い銃声。銃口から発砲炎が伸びて、フルオートの弾丸がミイへ浴びせられる。


 しかしミイが瞬時に展開した赤いバリアーによって防御されてしまう。



 効かないことを想定していた篠巻は、素早く銃の狙いを傍らの消火器へ移し、発砲した。


 消火器が破裂し、大量の消火剤がバリアーを張るミイを覆った。



 ミイは怒りに叫びながらバリアーの中から、幾重にも人間の首を狩り取ってきた凶暴な蛇のブレードを放つ。


 しかし、空振り。


 バリアーに白い消火剤がびっしりと纏わりついて、視界が阻まれていたせいだ。




 ────コザカしいニンゲンめ。




 ミイは舌打ちをして、バリアーを解いた。


 張り付いていた消火剤が、宙に解放される。



 視界を取り戻すが、目の前にあの獲物の姿は無かった。


 ミイは辺りを見回すが、両脇の搭乗ホールの通路にも、自分が殺した血まみれの死体しかない。




 ……逃げた?




 しかしあんな僅かな時間で、足音もなく逃げられるはずがない。


 そこでミイは、気が付いた。



 床の血がおかしい。


 まるで……何かが音もなく滑ったような跡がついている。




 刹那、重い銃声が轟いた。


 風切り音が聞こえて、大鎌を持つ右腕に銀色の小さい金属塊がめり込んだと同時に、それは爆発した。




「ギャァアアアアアアアアアアアア────!!」




 ミイは目を見開き、悲鳴を上げた。


 右腕が、消えた。砕け散った。爆散した。


 断面から、灰色の血が容赦なく噴き出す。

 



 篠巻は、惨殺された警察官たちの死体に埋もれながら、血で汚れたM870ショットガンのフォアエンドをジャキンッと引いた。


 排莢口から軽やかに、『FRAG』と刻印された薬莢が排出される。



 フラグ弾。


 軽装甲車両や機械への攻撃に効果的な、18ミリ口径の徹甲グレネード弾を発射する。

 対人用としての使用は、厳禁。



 篠巻はフォアエンドを前方に押し戻し、次の矢となるフラグ弾を薬室に装填した。



 ミイは絶叫しながら、バリアーを展開し直そうとするが、出来なかった。


 警察官たちに撃たれた腹部の傷が疼いて、意識が一瞬、遠のいたからだった。




 篠巻はミイの眉間を照準し、引き金を絞った。


 12ゲージフラグ弾が発砲炎と共に銃身から射出され、空を切り裂きながら彼女の眉間に一直線に迫る。




 ミイの断末魔は、フラグ弾の壮絶な炸裂音に掻き消された。




 爆炎と共に、彼女の頭部は砕け散り、消え去った。


 それが、侵攻の初手の『捨て駒』として差し向けられ、欲のままに罪なき命を奪い続けた彼女の最期であった。


 

 篠巻は、震える手からM870ショットガンを放した。


 心に宿っていた血の色の光が消え失せて、ただの虚無に戻ってゆく。



 

「……蓮華」



 最愛の彼女の名が、篠巻の口からこぼれた。



 もう彼女は何処にも居ない。


 死んでしまったのだ。


 もし、この場所を生きて共に出られていたら、恋人同士としての新しい未来が待っていたはずだった。


 しかし、彼女は殺されてしまった。




 倒れたミイの身体は徐々に灰色に固まっていき、崩れ、ただの灰の山へと成り果てていた。


 そこへ、どこかに隠れていたのか、目が四つある黒猫のような生き物が、静かにミイの残骸へ近寄ってきた。


 黒猫は鼻をスンスンと鳴らして、悲しげにひとつ鳴くと、その灰の中に自らうずまって、動かなくなった。




 ……『私に、また、その格好いい篠巻くんの背中を見せてください』


 

 ふと、彼女の言葉が蘇って、悲しみが抑えきれなくなった篠巻は、ひたすら声を上げて泣き始めた。


 床を拳で叩き、彼女を守り通せなかった後悔に喚く。


 死の静寂に覆われた血の海の中で、篠巻はただ泣き続けた。



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