サバイバーズ・ゲーム (3) ──「はらわたをぶち撒いて死ぬのは嫌なんです」
篠巻と天城はエントランスホールの隅に座り込んで、背負っていたガンケースを降ろし、中身を改め始めた。
「……ここの職員も、警察官も、一向に別の出口に誘導しようとする気配がありません。私の推測ですが……他の出口はおそらく、ロビーから離れた場所にあるからだと思います。例えば……搭乗ホールの近くとか」
「なるほど……敵の潜む場所に飛び込まなきゃいけないわけだから、知っていても誰も行こうとしないのか」
……ならば、武器が必要になる。
篠巻は振り返り、騒ぎ立てる群衆を落ち着かせることに躍起になっているSAT隊員の背中のガンケースに視線を送る。
あの中に入っている銃を借りることができれば便利なのだが、そんなことは現状では不可能だ。
「何か、まともな護身用具は持ってないか? ナイフ、警棒、スタンガンとか……」
「お言葉ですが篠巻くん……そんな物を持って、ここの保安検査場をクリアできると思います? ありませんよ」
「……ああ、そうだったよね」
篠巻は、手荷物カウンターで回収したリチウムポリマー・バッテリーと、エアーガン用のガス缶を掴み上げて見つめる。
「これがあれば、持ってるエアガンは動かせる。役に立つかな……?」
天城は苦笑いをして、首を傾げる。
「相手の顔に当てれば、怯ませるくらいはできそうですね……」
プラスチックのBB弾を使用する適法のエアーガンといえども、素肌に近距離で当てれば怪我をさせる威力があり、目に直撃させれば失明させてしまう可能性が高い。無論、人や動物に向かって撃てば軽犯罪法違反で警察の御用となる。
エアーガンで撃ち合うスポーツであるサバイバルゲームでも、規則は厳しく定められており、参加者全員は顔を守る防具の着用を必須とされている。
「エアガンで、人を撃つのか……」
「私だって知ってますよ、法律くらい。これは、正当な防衛です。最悪、後に問題になっても、殺されるくらいなら逮捕されて退学になった方がマシです。篠巻くんはどう思いますか?」
「……学校生活に未練は無いな」
篠巻は観念して、持っていた電動エアーガンを取り出した。
M16A2。アメリカ軍で制式採用されていたアサルトライフルを模した、海外製の電動エアーガンだ。金属製で外観は実銃と比較して遜色がないほどリアルで、頑丈だ。カスタマイズされており、40ミリ径のグレネード弾を発砲できるM203グレネードランチャーが装着されている。
ストックの底蓋を開き、バッテリーを接続して収納する。
ガンケースからSTANAGタイプのマガジンを取り出し、振って中にBB弾が詰まっていることを耳で確認してから、底のゼンマイを巻き上げた。
続いて、M203グレネードランチャーに使用する40ミリグレネード弾にガスの注入を始める。
天城はピストル型の電動エアーガンであるUSPに、篠巻の小型バッテリーをセットした。これは実銃には無いフルオート連射機能が備わっているモデルで、リアリティは薄いものの、サバイバルゲーム用ウェポンとしては滅法強い。
ローダーでマガジンに素早くBB弾を詰め、USP本体に叩き込み、親指でセフティをパチリと掛けた。
サバイバルゲームにおける天城のメインウェポンは、M16の全長を短縮したバージョンであるM4A1の電動ガンだが、それがガンケースから取り出されることはなかった。
エアーガンの威力は銃刀法によって上限が定められており、単発の威力自体はどんなタイプのエアーガンでも大きな差はない。それならば、軽量なピストルタイプを持つ方が実用的というわけだ。
篠巻はグレネード弾を四発揃えて床に並べてから、ガスで駆動するコルトガバメントのエアーガンを取り出して、ガスと弾を充填する。
天城は、タクティカルベストを羽織り始めた。
「ん? そこまでやるのか?」
「はらわたをぶち撒いて死ぬのは嫌なんです。レプリカといえども、気休め程度の防具にはなるんじゃないですか」
「まぁ……そうか」
篠巻も、同じくタクティカルベストを身に着けて、ポーチにグレネード弾を収納し、ホルスターにコルトガバメントM1911を収めた。
「────おい、君たち。何してるんだ」
ギクリとして、篠巻はおずおずと振り返る。
険しい表情をした銃器対策部隊の隊員が立っていた。
銃を構えてこそいないものの、右手をレッグホルスターに添えていつでもピストルを抜ける姿勢にしている。
「まさか、本物じゃないだろうな。それは、エアーガンか」
「は、はい……」
「ふざけるな、遊びじゃないんだぞ。さっさとしまうんだ!」
武装した警察官に逆らえる勇気は流石になく、素直に戻そうとしたところで、天城が立ち上がった。
「他の出口を知っていたら、教えてください。私たちは、ここを出ます」
精悍な顔つきで銃対隊員を見据えた。
「……それは危険だ。ここに居なさい」
「やっぱり、テロリストが侵入したんですね?」
その問いに、銃対隊員は「ぐっ」と少し怯んだ。
表向きは一応『火災』という体で避難誘導を行っていたのだから、ここで真実を話していいものか迷っているのだろう。
「あれだけ銃声や爆発音が聞こえたのに、誰がただの火事だと信じるんです? もう、隠すのはやめてください。このままだと、救援を待っている間に全員殺されます。
……お尋ねしますけども、貴方には子供はいますか?」
「……どういう意味だ」
「とにかく答えてください。子供はいますか?」
困惑した末に、銃対隊員は答えた。
「…………娘が、二人いる」
「そうですか。私はこれからなんですけども、貴方だって、家に帰って子供にまた会いたくありませんか? 職務と命、どっちが大事か考えてください。だから……知っている出口を、全て教えてください」
銃対隊員は返答に窮して、ただ視線を泳がせながら黙り込む。
その時。
「──────早く、逃げろ……!!」
一人の血まみれの男が、枯れた声で叫び、エントランスホールに倒れこんできた。
格好から見て、銃器対策部隊の隊員だ。
「黒旗副班長……!?」
天城と話をした銃対隊員が声を上げ、駆け寄ろうとする。
「来るな! 来るんじゃない……!!」
黒旗は血を吐きながら、力を振り絞って叫ぶ。
「すぐ────後ろにいる! 三人だ!! 早く、逃げ……」
その言葉は唐突に途切れる。
風切り音がして、黒旗の首が宙に吹っ飛んだ。
鋭利に切断された首の断面から、鮮血がぱあっと噴き上がる。
首を失った身体は、二、三歩、ふらふらと歩いて、どさりと倒れこんだ。
群衆から大きな悲鳴が上がる。
突然の惨劇に篠巻は絶句しながら、右手でM16A2の電動エアーガン、左手で天城の手を握り、少しずつ後ろへ退く。
……後ろ? 三人?
目を凝らして見るが、黒旗の遺体の後ろには、ひとつの人影もない。
もぬけの殻になった施設があるだけだ。
だが、篠巻は感じ取っていた。
見えない何者かの、邪悪な気配を。





