ハードライン (2) ──「ずっと、綺麗です。とっても綺麗です」
「……何が可笑しい?」
永友はPM5ショットガンの引き金に指を掛ける。
するとミイは日傘を持った右腕を横に掲げ、背後の十三人の笑い声をピタリと止めさせた。
「もういちど、言いますね。わたしたちは、シンゼンタイシ、としてここにきました。テキイ、はありません。わたしたちは、お話をしにきたんです。……ナカ良ク」
笑顔のまま変わらないのに、最後の言葉だけ、底の知れない不気味さを伴って聞こえた。
「話とは、なんだ……?」
永友は引き金を今すぐ絞りたい衝動を堪えながら、あくまで冷静を繕って尋ねた。
これだけの重武装の警官隊に囲まれても、顔に恐怖の感情をひとつも見せない。
狂っているのか、心中する覚悟が既にあるのか。
どちらにせよ、彼女らに投降するつもりが更々無いのは間違いないことだ。
穏便には澄ますことが出来ない以上、傘宮中隊副長の言う通り、敵の情報を集めるしかない。
「わたしの話、聞いてくれますか?」
ミイは相変わらず無邪気な目をして、嬉しそうに永友を見つめる。
「……どうして、お前らはここに来たんだ」
すると、ミイは今までと変わらないおっとりした口調で言った。
「わたしたちの住む世界は、いま、滅びようとしています」
そして笑顔のまま、話し始めた。
「戦争がくりかえされて、それでもイキモノは減らなくて、わたしたちの生きるための資源が、わたしたちの世界から、なくなりそうなのです。だからわたしたちには、シンテンチ、が必要になったのです」
「新天地……? まさか……」
「そう、シンテンチを見つけたのです。あなたたちの世界です」
ミイは立ち上がって、両腕を広げた。
「ここは空気がきれいです。水もきれいです。たくさんの、ショクブツがあります。あなたたちの世界の言葉で言う、『ユートピア』。わたしも、みんなも、ここをシンテンチにしたいと思ったのです」
目を輝かせて語るミイに対し、永友は鼻で笑って答える。
「……言っておくが、ここはそれほど綺麗じゃないぞ。人間の開発競争で環境破壊は進んでいるし、戦争だってたくさんある。食物連鎖の頂点に立とうと、人と人が殺し合うのを止められない世界だ。平和を守るために、自衛の武器を捨てることができない世界だ。どこが、ユートピアなんだ。バカバカしい」
背中に、栗沢や三条、銃器対策部隊の隊員たちの白けた視線が刺さるのが分かる。『何を真面目に語っているんだ』とても言いたげだ。
永友はハッとして、思わず自嘲する。
まるで彼女らが本当に異世界の住人であると、信じ込んでしまっていたようだ。
「それでも、わたしたちの世界より、ずっと、綺麗です。とっても綺麗です。だから、このシンテンチに、シンゼンタイシとして、わたしたちがここに来たんです」
「……移民として永住権の取得にやってきたなら、入国管理局に申請に行けばいい。だが……お前らは絶対に通せないがな」
小野寺、西生、加座の三人の生首と、ノアズ・アーク内の大量の屍。
彼女らが犯した罪は、決して許されない。
永友は強く叫ぶ。
「どうして彼らを殺した!? お前らは、決して取り返しのつかないことをやったんだ! 新天地としてここに移り住みたいと言うのなら、なぜ、何の関係もない彼らを殺したんだ!? どうして、首を切り落とした!? 答えろ!!」
ミイはしばらくキョトンとした顔をして考え込むと、ニコリと再び笑顔を作り、言った。
「……そうしないと、わたしたちの『力』が、伝わらないじゃないですか」
「は……?」
「わたしは、シンゼンタイシとして来たんです。テキイはありません。だから、ちょっとだけ……コロしました。あなたたちが、わたしたちの『力』を知って、道を開けてくれるように」
ミイは、足元の四つ目の黒猫を抱きかかえ、その頭を優しく撫でた。
「わたしを、この世界で、一番えらいひとの所に、連れて行ってください。
そうすれば、ヘイワになります。
けれど、あなたたちが導いてくれないなら、この道を阻むというのなら……
わたしは、もっとたくさん、たくさん……
────コロシマス」
ほんの一瞬だけ、ミイが、邪悪な地獄の魔物に見えたような気がして、永友は微かに身震いした。
『新天地』。
そう、かつて、ヨーロッパ諸国が、初めてアメリカ大陸を発見した時、彼らもそう思っただろう。
優れた武器を持った彼らは、そこに住んでいた先住民たちを虐殺し、新天地として開拓した。
それが、いま世界最大の軍事力を誇るアメリカ合衆国の歴史だ。
……彼女らは今、それをこの日本で、始めようとしているのか。
「聞いてください。わたしに攻撃をしたら、それは『宣戦布告』となります。
ここにいるみんなを、ミナゴロシにしなければなりません。
でも、わたしはそんなのは嫌です。
だって、わたしは……ヘイワが好きですから」
ミイは笑みを浮かべながら、永友をまじまじと見下ろす。
「あなたは、この中で、一番強いですか?」
「……なに?」
「あなたが一番先頭に立って、みんなに指示を出しています。あなたが、一番、強いんですよね?」
何も答えずにミイを睨むと、彼女は口を大きく開けて「アハハハハハハハハ!」と心底楽しそうに笑った。
「いいことを考えました。あなたをコロせば、みんな、道を開けてくれそうですね」
【Hardline】-【強硬路線】





