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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:06 THE GANTLET「要塞」 ──国会議事堂を奪還せよ。
105/106

東京バトルフィールド ──「忌まわしい戦争の連鎖を終結させる。それだけが、戦う目的です」


挿絵(By みてみん)


 

 光を失い、死の街と化した東京。

 断続的に鋭い落雷が地表を叩き、大粒の雨が激しく降り注いでいく。


 その騒々しい水の垂れ幕を切り裂くように、獣脚竜や偵察用オートバイに乗った兵士たちが道路を通過していった。




「────偵察感知器を設置」



 鎧を身に纏う獣脚竜に乗っているロエベッタ王国軍機動竜騎連隊のレイベル・リブリング軍曹は、素早く鞄から丸底瓶のような外観の偵察感知器を取り出した。


 先端の蓋をカチリと捻り、偵察感知器が一瞬だけ青く発光する起動の合図を確認してから、思い切り投擲してビルの壁面に貼り付けた。


 レイベル軍曹の護衛として背後について走る、グザエシル帝国軍戦術偵察隊の兵士たちが運転する偵察用オートバイの四台のうち、サイドカーが取り付けられた一台には、ケヘラー王国軍技術支援小隊の兵士であるクーラ・ジャブラン上級曹長が同乗している。



「偵察感知器作動確認。異常なし。新橋区域の情報送信を開始する」



 クーラ上級曹長は、膝の上に乗せた立体映像投射端末を操作して、新橋の街の立体映像を表示させた。


 そこには、この班が街の各所に設置した偵察感知器が送信する偵察情報が反映されており、その範囲内で活動する友軍の位置が手に取るように判る。そして同時に、友軍ではない生命反応も識別可能だ。


 クーラ上級曹長は無線機で近辺の友軍に呼び掛ける。



「地上偵察隊から、新橋区域に展開する友軍へ。新橋区域の偵察感知器を各地設置完了。作戦開始準備は整った」

 


――――――――――――



 地上偵察隊が疾走する上方では、黒い軍用飛行船の群れが雨の中を静かに飛行していた。


 そこからまるで大魚の産卵のように、空挺用小型気球に掴まったグザエシル帝国軍降下猟兵師団の兵士たちが降下を開始し、各分隊の持ち場へと正確に展開していく。



「────敵は東京タワーを狙いに来る。迎撃準備を急げ!」



 降下した交差点の中央で、雨でずぶ濡れになりながらSTG44アサルトライフルを持ったハイント・ラダース曹長は部下たちに怒鳴り上げた。



「皇居掃討作戦が失敗した場合、皇居と東京タワーに挟まれたこの街こそ主戦場になる。我々は、人間どもを絶対に食い止めねばならん。祖国の未来の為、最後の一兵になっても戦い続ける覚悟で臨め!」



 道路の両脇に兵士たちがそれぞれ大型の鉄杭を打ち込むと、瞬く間に道路を遮断する銃眼付きの黒いバリアーが出現した。

 そして飛行船から投下された多数の機関銃や迫撃砲が陣地内に迅速に設置されていき、同時に、敵の進行を阻む爆薬や地雷の敷設も開始されていく。


 付近のビルの屋上でも、別の隊が上方からの援護を行うべく準備を進めているのが見えた。



「民間人を発見したら、むやみな殺傷は避け、生け捕りにしろ! 作戦遂行上、必須だ!」



 そう改めて注意喚起していると、早速、付近の建物内を探索していた分隊が内部に隠れていた民間人の一団を連れてきた。


 地上偵察隊が設置した偵察感知器によって、潜伏している人間の位置情報は正確に把握可能だ。

 しかも、この日本では民間人が武装する権利を持たず、抵抗する手段が無いことも知っている。


 だから銃を持った数人の兵士で囲い込むだけで、赤子の手をひねるように降伏させることができる。


 ハイント曹長は、両手を上げて絶望の面持ちでぞろぞろと出てくる民間人の群れの中に、制服を着た警察官が居るのを目ざとく見つけ、腰のホルスターからブローニングP640を取り出して足早に近づいた。



挿絵(By みてみん)



「警官は殺せと命令が下っていたはずだが?」



 ハイント曹長は一切の躊躇なく、その警察官の頭を撃ち抜いた。


 民間人たちの悲鳴が上がり、列の混乱が起こりかけた所を、続けて上空に撃った威嚇の一発で制する。


 

「申し訳ありません。武器を捨てて、投降してきたので……」



 分隊長の兵士の弁明に対し、ハイント曹長は冷淡に言う。



「良い警官と悪い警官の違いは分かるか。市民の味方となって我々に歯向かうのが、良い警官。市民を裏切り我々に降伏するのが、悪い警官。良い警官だけを殺し、悪い警官を生かすつもりか? そういう事だ」



 兵士たちは集めた民間人を選別し、男は両脚を縛ったうえで陣地外の道路に並べて立たせ、女や子供や老人は陣地内で拘束した。


 これにより、敵は民間人の巻き添えを恐れて爆発物を使用した強力な反撃を行うことは出来ず、それに対してこちら側は民間人ごと敵を一方的に掃討できるという圧倒的な優位が形成される。


 建物の屋上で活動している分隊も同様に、敵を上方から機関銃や狙撃銃で一気に撃ち下せる態勢を作りながら、捕虜にした民間人を目立つように配置しておくことで敵の爆撃を牽制している。



「人間共……本当の戦争というものを見せてやる」



 そこで、雨風の音を掻き消すような大音量で『日本語』を使った放送が響き渡り始める。



<『善良な一般市民の皆さん! 我々は、貴方たちを助けに来た救援部隊です! 敵ではありません! 速やかに建物から出て路上にお集まりください! 安全な場所まで我々が誘導いたします! 充分な量の食料や医薬品も用意しています!』>



――――――――――――



 その放送を流しているのは、日本国防軍制式の汎用高機動車であるハンヴィーに先導される大型トラックの車列であった。

 

 

「────『繰り返します! 我々は、貴方たちを助けに来た救援部隊です! 敵ではありません!』」



 日本国防軍の駐屯地から鹵獲した装備一式を身に着けてハンヴィーの後部座席に座る、ケヘラー王国技術支援小隊の女性兵士であるカラット・フェレン兵長は、心の内に湧き起こる罪悪感を意識しないようにしながら、マイクに喋りかける。


 本当ならば「嘘だ。今すぐ逃げろ」と言いたいが、そんな事をすれば自分の両脇に座っている、同じく日本国防軍の兵士に扮したグザエシル帝国軍の兵士に殺される。


 我がケヘラー王国技術支援小隊の標語は、『魔法は、弱き人民の為に有り』。

 軍事的な戦闘や防衛の支援のみならず、民間と密接に関係した職務も多く、事故や災害が発生した際の救援活動も主任務に含まれている。

 この技術支援小隊に属する者は、肩書きこそ兵士であるものの、国民の為に魔法を役立てたいという前向きな志を持っている場合が多く、積極的な戦争を望んでいる者はむしろ少ない。


 自分の取り柄も、この磨き上げてきた翻訳魔法の能力くらいであって、実戦経験は皆無だ。

 このような破壊、虐殺、略奪が横行する残忍な戦争への参加など望んでいない。


 カラット兵長は陰鬱な心持ちで、機械的に口を動かしながら、窓の外で降りしきる雨を眺める。


 東京駅で発生した人間との戦いで、そこに駐留していた多くの兵士が亡くなったと聞いた。

 全体数から見れば微々たる数字かもしれないが、技術支援小隊の若い同胞たちも戦闘に巻き込まれ命を落としたと考えると心が痛む。


 人間への憎悪は湧かない。

 彼らは自分たちの住む地を異世界の軍隊に侵略され、それに抵抗したに過ぎないのだから。


 憎しみを向けるべき先は、愚かな戦争を仕掛け続ける者達だ。


 敵国を滅ぼし戦争に勝利するため、グザエシル帝国は我々の空を壊し、エルコト連邦は我々の海を壊した。

 その行為が世界にどんな破滅的な結果をもたらすことになるのか、軍を動かす立場に居座る愚か者たちは全く考えることが出来なかった。

 そして、その大きな代償を払わせられるのは、愚かな戦術を執行した者たちではなく、末端で動く兵士たちだ。


 日本国の占領に成功し、勢力を拡大してこの人間の世界全体を支配し尽くしたとしても、戦争は決して終わらないだろう。

 同じ過ちは、必ず繰り返される。


 戦争を止める唯一の方法。

 それは、我々の世界がここで滅び去る事のみ。


 カラット兵長は、呼び掛けに従って素直に建物から出てきた民間人たちが拘束されていく光景を、無力の眼差しで見送り続ける。



 ……けれど、私は、まだ生きていたい。



 その時、上空からヘリコプターの飛行音が聞こえ始めた。



――――――――――――



 空に出現した魔法陣から、日本国防陸軍の多目的ヘリコプターであるUH60ブラックホークの群れが次々と現れた。


 雨を吹き飛ばしながら飛行するヘリコプター群は、後続にロエベッタ王国軍翼竜大隊の多数の翼竜騎兵を伴いながら、それぞれ各班の持ち場へと展開していく。



「────こちら上空偵察隊。これより警備行動を開始する」



 UH60ブラックホークの機内で、国防軍の装備を身に纏ったエルコト連邦陸軍特殊戦闘部隊のカザン・ダルトス少尉は、ドアガンとして設置された国防軍のM240汎用機関銃のコッキングハンドルをジャキンッと引いた。



「各員、命令が下るまで皇居への接近は厳禁だ。対空攻撃によって既にロエベッタ王国翼竜大隊に大きな被害が出ている。我々の現在の命令は警備だ。勇者に成りたくても、死んでは何の意味もない」



 カザン少尉の背後で、エルコト連邦陸軍の深緑色の環境適応特殊戦闘服に身を包んだ女性兵士、ギノ・テスキル准尉が、紅く光る宝玉が埋め込まれた黒色の魔法杖をヘリコプターの外に出し、その先端から漆黒の鳥の群れを生み出して空に放っていく。


 これは鳥がその眼で発見した異状を術者に伝える単純な偵察魔法で、前時代的ではあるが、時として他の合理化されきった高度な偵察魔法に勝る情報力を持ちうることもある。


 そこで、UH60ブラックホークの操縦を行っている陸軍特殊支援部隊のルシフ・バシュキー軍曹がふと思いついたように声を掛ける。



「それにしても、ここまで上手くいくとは思いませんでしたよ。重力操作魔法で日本国防軍の装備を丸々奪い取り、駐屯地を襲撃して専門技術者の能力も上手く吸い上げることに成功したわけですから。我ながら、誇らしい限りですね」



 自信に満ちた口調のルシフ軍曹に、カザン少尉は彼の方を見ようともせず、東京の街に視線を送りながら答える。



「これは始まりに過ぎない。問題は未だ山積みだ。エイリス姫も未だに確保できていない。グザエシル帝国側に姫を確保されてみろ。この場の全員の首が消えて無くなるぞ」



「しかし……どうしてたった一人の小娘に、そこまで身体を張る必要があるんでしょうかね。納得いかない部分がありますが」



「馬鹿な質問をするな。皇王の勅令だからだ。しかし、見返りは偉大だ。ここで我が軍が姫を確保すれば、そこを材料に、さらに国内での権限を高めることが可能になる。何より、国民の支持も広がるはずだ。死んでいった戦友たちが、民衆から憎悪の目を向けられ続ける事もなくなる」



「なら、最初からグーリンルド共和国軍に任せることも無かったのに。そう思いますよ。奴らがしくじったせいで、ここまで事態がややこしくなった」



「……それについては同感だ。世論の反感の高まりを恐れて、下手な所で体面を気にして『下請け』に任せたからこうなる。政府の連中は頭の中まで腐りきってる。自分の国を救うことが出来るのは、自分の国の軍隊だけだ」



 そう憎しみを込めて言い捨てた所で、それまで黙って聞いていたギノ准尉が口を開く。



「申し訳ありませんが、私はそんな高尚な理想には興味ありませんね。私が兵士になったのは、家族の為です。新天地を獲得し、忌まわしい戦争の連鎖を終結させる。それだけが、戦う目的です」


 

――――――――――――  

 


 そして、国会議事堂。



「よく生きて帰還した、シェイトン、ノーヴィー。東京駅に駐留していた第三中隊の隊員の中で、帰還したのは君ら二人だけだ」



 オゼロベルヤの裏切りとグーリンルド共和国軍の奇襲から生き延びたシェイトン・アラドール軍曹と、吸血鬼種族である相方のノーヴィー・スロティリンカ上等兵の二人は、ヴォルツ・フェルライン大佐と対面していた。


 全身を血で汚したシェイトンは無表情に、ヴォルツ大佐の労いの言葉を聞き流し続ける。


 自分が次に言い渡される運命は分かっている。

 五体満足で生きている兵士は、それを失うまで、戦場に送られ続けるのだ。


 シェイトンは死んだ魚のような目で、隣のノーヴィーをちらりと見た。


 足を切断され腹を切られ、瀕死に近い重傷を負ったというのに、今は元通りに回復している。 

 そして、強い意志が宿った瞳の光は未だ失われていない。


 

「……さて、君たちには新しい指令を与える。人間の兵士の残党が潜む皇居を掃討し、エイリス姫を確保せよ」



 諦観の念で、シェイトンは息を吐いて瞳を閉じる。



「航空支援は? 爆撃すれば短時間で片付く話では」



 臆さない強気の口調で言ったのはノーヴィーだ。



「航空支援は無い。敵は強力な対空攻撃能力を有している。エイリス姫を生け捕りにする為に、砲撃も使用不可。動かすのは地上部隊のみだ」



「……つまり我々に、むざむざと死ねと?」



「ノーヴィー、君はそう簡単に死なない。それに今回は、第一中隊の兵士と共に、強力な支援がつく。エスミソン公国軍の【無痛不死部隊】との合同作戦だ」



 かつての母国の名前が出てきて、ノーヴィーは眉をピクリと動かす。

 シェイトンも、ただならぬ部隊の名前が挙がったことに、不穏な顔つきになった。


 エスミソン公国軍の中で最も恐れられる【無痛不死部隊】。

 他国に強い畏怖を与えている要素は、その戦闘能力だけではない。そこに所属する兵士の成り立ちにある。


 特に優れた自己治癒能力を持つ吸血鬼種族から選抜され、その兵士たちはありとあらゆる苦痛と恐怖を完全に麻痺させる為、地獄のような激しい拷問を訓練として与えられ続けるのだ。

 それは単なる暴力に留まらず、四肢を切断されたり、生きながら焼かれたり、全身の皮膚を剥ぎ落されたり、自分の眼球を自らの手で取り出すことを強いられるなど、常軌を逸した責め苦を日常として課され続ける。


 そして、その【無痛不死部隊】は志願兵ではない。

 徴兵制度によって集められ健康診断を受けた若者たちの中で、その素質があると判断された者が、強制的に入隊させられる運命にあるのだ。


 

「人間は、撃てば死ぬ。だが、奴らは肉体が粉々になるまで死なないし、痛みも悲しみも感じない。これほど強力な兵士はいないだろう。見習うべき所は多い。我が軍もいずれ、吸血鬼種族の部隊を創設したいところだな」



 シェイトンは、吐き気を堪えて顔をしかめた。

 だがノーヴィーは、そんな扱いなど慣れているというように平然とした表情を保って質問する。

 


「メイ少佐率いる高機動騎兵隊は派遣しないのですか? このような緊急時こそ必要な切り札かと思いますが」



「高機動騎兵隊は、今は国会議事堂の警備として配置する。新橋や東京タワー周辺の警戒に多くの兵員を割いている内に、万が一にもこの場所へ奇襲を受けては元も子もない」



 いつも部下たちに闘志を奮い立たせるような大仰な演説をしておきながら、結局、我が身可愛さか。

 今に始まった事ではないが、シェイトンは心の内で悪態をつく。


 そこでヴォルツ大佐は、机に置いていた銃を取ってシェイトンに差し出した。

 STG44アサルトライフルの面影も少し含まれている、木と鉄で構成されたライフルだった。



「銃が必要だろう。これを持っていけ。警視庁の押収品保管庫から見つかった人間の銃だ。『世界で最も人を殺した銃』と云われる、AK47。二挺ある」



挿絵(By みてみん)

 

 AK47なる銃を受け取り、ひと通りの操作説明を受けた。


 各種のレバーやスイッチの位置は異なるが、STG44とおおよそ運用方法は変わりない。

 もし手持ちの弾薬が尽きたり、予期せぬ動作不良が起こって対処できない時は、躊躇なく捨てろという事だった。


 まさしく自分たち兵士の運命と同じではないかとシェイトンは思いながら、予備のマガジンとAK47に対応した戦闘用ベストを受け取って身に着ける。


 憂鬱な気分のシェイトンに引きかえ、ノーヴィーはいかにも一目惚れしたという調子でAK47をうっとり眺めている。



「いい銃……気に入った。使い古しのカラビナ98Kライフルより、ずっと良い」



 そして同意を求めるように彼女はシェイトンを見つめた。


 シェイトンは少し視線を逡巡させて考えてから、「そうだな」と一言返した。




「────さあ行け、兵士たちよ。我々が背負っているのは、全ての国民の未来だ」




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