第六話：歓喜と指導

　屋敷に帰ったエレンを待っていたのは――メイドたちの手厚い歓迎だった。

「エレン様、ご無事で何よりです……っ」

　普段冷静なリンは目尻に涙を浮かべながら抱きつき、

「もぅほんっとめちゃくちゃ心配したんすからね……！」

　昨晩一睡もできなかったティッタは半べそをかき、

「あの終審裁判に掛けられて、よく無事に出て来られましたね。……はぁ、本当によかった」

　シャルは心の底から安堵(あんど)の息を吐く。

　そしてもちろん、他のメイドたちもみな、エレンの無事を喜んだ。

「――みなさん、心配をお掛けして本当にすみませんでした」

　エレンがペコリと頭を下げると、大勢のメイドたちが彼をもみくちゃにした。

　それを遠目から優しく見守っていたヘルメスは、少ししてパンパンと手を打ち鳴らす。

「みんな、嬉しい気持ちはわかるけど、一旦その辺りでストップしよう。エレンもまだ疲れているだろうからね」

「「「はっ！」」」

　主の命を受け、すぐさま仕事モードに移行したメイドたちは、それぞれの職場へ戻っていった。

「それじゃエレン、今日はもうゆっくりして――と言いたいところなんだけど……。大事な話があるから、ボクの執務室に来てもらえるかな？」

「大事な話、ですか？」

「うん、キミの『魔眼』について、ちょっとね」

「わ、わかりました」

　そうして二人は、執務室へ移動する。

「――ふぅ、それにしても本当に無事でよかった。殲滅部隊に捕縛されたと聞いたときは、心臓が止まるかと思ったよ」

「すみません。助けていただき、ありがとうございました」

「どういたしまして。とりあえず……魔術教会の『正式な決定』は、また後日うちへ届くだろうから、この先どうするかについては、向こうの出方を見て決めるとしよう」

「正式な決定というのは、どういう意味ですか……？」

　裁判の結果は無罪。

　これ以上に何を決めるのか、という当然の疑問が浮かび上がる。

「一応、無罪ということになってはいるけれど……。史上最悪の魔眼を野に放つというのは、あまりにも革新的な判決だ。保守派の魔術師からの反発は必至(ひっし)、教会は決して一枚岩じゃないからね。保守派の息抜きや機嫌を取る意味も込めて、何かしらの条件や制限をこちらに押し付けてくるだろう」

「な、なるほど……」

「それに……どさくさに紛れて、エレンを暗殺しようとする者も出て来るかもしれない。キミの立場は、依然として危うい状態だ」

「……っ」

　ヘルメスの話を聞き、エレンはゴクリと唾を呑む。

「でも、大丈夫。そんな諸々のリスクに対応できる、素晴らしい名案を考えたからね！」

「名案？」

「これから一週間、ボクが付きっ切りで指導する！　エレンが史上最悪の魔眼を使いこなすためのトレーニングをするのさ！」

　ヘルメスはそう言って、ニッと微笑むのだった。