しばらく頭ポンポンともお別れです。
「……何だか、娘を嫁に出す気分を体感したみたい。お父さんがいなくてよかったわぁ…。」
ホームで電車を待っている間、ベンチに座った母が溜息とともに呟いた。
「それは、まだ先になると思いますが、約束できる自信があります。」
胸に手を当てて、ニッコリ笑う佐藤くん……佐藤くん?どこの会社のまわし者⁈ CMなんかで見るセリフだよね?それにどこの騎士様ですか?よくできますねっ!見てるコッチが恥ずかしいです!
「あら!」
母、顔が赤いけど、何で?そこ違うでしょ?
「ーー高く伸びた鼻をへし折ってやる。」
横で瑠美ちゃんが悪い顔で呟きましたっ‼︎ 怖いです!
とにかく今のこの空気を何とかしないと!
「佐藤くんも部活?」
「ああ、今日練習試合なんだーー佳奈恵、それ……」
「佳奈恵?」
瑠美ちゃんが剣呑な声を出して、佐藤くんに詰め寄りました!
「……早々に呼び捨て?お前は何様だっ!」
瑠美ちゃん!般若全開です!背後で焔が噴き上がってます!佐藤くんも後ずさって、身構えてます!触るな
危険です!
「瑠美ちゃん!私は気にして無いと言うか、佐藤くんにそう呼ばれることが嫌じゃ無いから!お願いだから威嚇しないでっっ!」
私は瑠美ちゃんの手を掴んで、ブンブン振ってみた。意味は無いけど、これでいつもの瑠美ちゃんに戻ってくれればっ!
「でも、コイツ図に乗ってるっ!チョームカつく‼︎ 」
「ーーーいやぁ、図に乗ってるって言われても、俺、佳奈恵の彼氏だし。それって、軍曹のやっかみーーー」
「もう!佐藤くんも余計なこと言わ無いでっ!」
何でこんなに瑠美ちゃん怒ってるの?それに佐藤くんも煽ってるみたいに見えるし!
「二人とも!私、今日でしばらく会え無いんだけれどっ!最後にこんなの酷いよ!」
すると二人同時にハッとした表情で、私を見て来た。
「ごめん、そうだったわ。この問題は後日改めるは。」
瑠美ちゃん!まだやる気なんですか?そんなに気に入らないんですか?佐藤くん、ナニやらかしたの!
「佳奈恵、ごめん。」
佐藤くんが屈んで私と目を合わせると、なぜかウサギの縫いぐるみの頭をポンポンと叩いた。なぜ?
首を傾げて佐藤くんを見る。今日もイケメンさんですね。
「コレ、一緒に連れて行ってくれるのか?」
「うん。だって、佐藤くんから貰った大事なウサギの縫いぐるみだもん。ホラ見て、ここに貰った初心者マーク貼ったの。」
すると、佐藤くんが頭をガリガリと搔きながら、
「ーーありがとう。なんか照れ臭いけど。」
顔を少し赤くして言った。何だか私も照れてしまう。
「ふっ、似た者同士か?」
瑠美ちゃんの皮肉なんて聞こえません。
そんなことをしていると、電車が到着すると言うアナウンスが流れ、しばらくすると、電車がホームに滑り込んで来た。
見慣れた景色を眺めていると、佐藤くんが私の頭に手をのせてポンポンと叩いて来た。
見上げると、眉毛を下げた佐藤くんが私を見ていた。
「どうしたの?」
「ーー昨日、俺が言ったこと、忘れるな。」
「うん。忘れるわけないでしょ?すっごく嬉しかったんだから。」
私がそう言うと、佐藤くんの顔が赤くなった!もう!だから私も照れちゃうじゃない!ううう!顔が熱くなってる!
「なんでこんなにーー」
何かを我慢するように、電車の壁に付いた手を握り込んで、顔を背けた。……?どうした?
しばらく悶えて?いた佐藤くんが、ジャージのポケットに手を突っ込み、握った拳を私の前に出して来た。
「ナニ?」
佐藤くんが拳を返して目の前でゆっくりと開ける。?
大きな手の平にあったのは、華奢な造りのネックレス。
「えっ?」
私がびっくりした表情で、佐藤くんの顔と手の平のネックレスを何度も見回していると、クスッと笑いを漏らした。
「やっぱりさぁ、初心者マークじゃ様になんないからコレ、渡そうと思って。」
それは、昨日行ったショッピングモールの中にあった、アクセサリーのお店に売っていたネックレスだった。
お店の照明で、キラキラとしていたそのネックレスを、ウットリ見ていた私に、佐藤くんは気が付いていたの?
「コレ……買うために、また行ったの?あのお店に?」
どうしょう。すっごく嬉しい。嬉しくて、佐藤くんの顔が滲んできた。
「うん。本当は迷ったんだ。重い奴って思われるのもやだなぁって。でも後々、軍曹に知られてぐちぐち言われたくないし。で、結局佳奈恵の嬉しい顔が見たくて行ってきた。恥ずかしくって、包装までは頼めなかったけど……手、出して。」
手を差し出すと、その上にネックレスが載せられた。
佐藤くんの熱がほんのりこもったネックレス。
「コレ、今度デートする時に付けて来て。今付けたりすると、また軍曹が煩いから。なっ。」
私はなんて幸せ者なんだろ。
手の平にのせられたネックレスを見つめて、手を握り締めると、顔を縫いぐるみに押し付けた。
「ーーーあ、ありがぁ…とぉーーー」
縫いぐるみ越しのありがとうの言葉は、ちゃんと佐藤くんに聞こえただろうか?でも、今佐藤くんの顔を見ちゃうと確実に泣ける自信があるから。
私の状況を分かってくれたのか、佐藤くんが頭をポンポンと叩いてくれた。
残り1、2話となりました。( 多分…。)
もう少しお付き合い下さいませ。
読んで下さりありがとうございます。




