軍曹デス。
「助かったよォ、佐藤。」
青木さんが大袈裟に肩を落とす。
アレからはるくんは加賀さんを抱えるようにして、校舎の中に戻って行った。
【かな、いい加減にしろよ。】
私に捨て台詞を残して。
「良かったよ。途中、新聞部のヤツと会って、山田達が大変だって聞いて走った、走った。」
佐藤くんが青木さんの傘をさして、1つの傘に2人で入っている。
私とでは身長差で、傘の意味が無くなってしまう。主に私が。
「田中さん、新聞部の人達も使ってるんだ。すごいね。さすが次期部長。使えるものはネコでも使う?」
青木さんがクスクスと笑う。なんだか笑い方まで色気が滲み出てる。う〜ん、黒井くんと恋人かぁ……。
「山田、大丈夫か?」
傘があるから、佐藤くんの顔は見えない。見ようとすると、私の顔面が濡れる。それはイヤ。
「まぁ…。」
ボソっと言った言葉は、ヤッパリ傘に阻まれて佐藤くん達には聞こえなかったようだ。
「山田?」
すると、傘の一片が持ち上がる。
「大丈夫…じゃぁないよなぁ。怖かったろう?ゴメンなぁ。」
持っていた傘を青木さんに渡して、私の顔を覗き込む佐藤くん。
「佐藤くん!濡れる!」
慌てて私の傘を差し出すが、悲しいかな高さが届かない。
「明日からはそんなヘマしないから。」
佐藤くんは、爪先立ちして傘を差し出す私に首を振ってやんわりと押し戻した。
雨に濡れていく佐藤くんを見る。
笑っているのに、どうしてか今にも泣きそうに見える。
「佐藤くん、私は……大丈夫、だよ。だから、ごめんね。ありがとう。」
自信が無いけど、目一杯の笑顔で佐藤くんに返す。
でも、佐藤くんは歩みを止めて俯き、
「青木、山田頼む。」
言うなり踵を返し、学校へ走って行ってしまった。
「……青春だねェ」
青木さんが、走り去る佐藤くんの後ろ姿を見て呟く。
佐藤くんはどうして…私よりも傷付いた顔をしていたんだろう。
私は、すでに無い佐藤くんの後ろ姿を探した。
火曜日の朝、いつも通り瑠美ちゃんが来るのを、駅で待つ。
昨日の雨がウソのように、雲ひとつ無い晴れ渡った空だった。
不意に携帯が鳴り、見て見ると瑠美ちゃんからだった。
「エッ?」
メールには、お腹の調子が悪いから、先に学校に行ってくれ。と書かれていた。
どうしようと思った時、上空から声を掛けられた。
「オッス!山田。」
見上げれば、佐藤くんのいつもの顔。
濃いめの茶色い髪に、サイドを短く刈り込み、トップと前髪を少し長くして横分けにしていて、少し釣り目の猫目で、背が190あって、話をしてると首が痛くなって、時々時差も発生して、ヤケに馴れ馴れしくって、いつも私を子供扱いする、目の上?のタンコブだ。
「お、は、よ、う!山田!」
頭をグリグリされた。短いからイイけどねっ!
「そんなに言わなくっても聞こえてる。おはよう、佐藤くん。」
「昨日はごめんなぁ。ちゃんと家に辿り着けたか?」
更にグリグリされたので、腕を掴み投げた。
「辿り着けたから今ここにいる。今朝は佐藤くんが一緒に行くの?」
「ああっ、よろしくな。ところで軍曹は?」
「……軍曹?……」
何?軍曹って?
「あっ…イヤぁ、コレ言うなよ。杉野の事、軍曹って呼んでんだ。ホラ、あいつ怒るとすんげぇ怖いだろ?だから、軍曹。」
頬をポリポリと掻きながら、気不味い顔で言う佐藤くん。
でも、ピッタリな感じ?瑠美ちゃんには悪いけど、鬼軍曹。
「これバレたら、またどやされるからさぁ。なっ。」
「いつも瑠美ちゃんに怒られてるの?」
またって事は。
「あ〜〜〜っ、最近?多いかな…。で、杉野は?」
「お腹の調子が良くないから、先に学校へ行ってって、連絡が今来た。」
と、急に佐藤くんが後ろを向き、片手で頭を押さえる。
「クッソ!軍曹…謀やがった‼︎」
えっ?何を?
読んでいただきありがとうございます。




