96:復興の始まり
王国歴516年、春。
芽吹いた草木が順調に丈を伸ばしつつあった頃。
我らが偉大なるグロリアブレイド王国の王都に、只ならぬ災い……否、悪意が襲い掛かった。
突如として王都の各所から瓦礫で身体が出来た魔物が溢れ出し、スタンピードのように人々へと襲い掛かったのだ。
通常のスタンピードと違い、街の中に魔物が直接現れたために、王都が誇る、高く堅牢な城壁も意味を為さず、突然の災禍に人々は逃げ惑い、恐れ慄くばかりであった。
そして、真に驚くべきは、そのような事態がたった一人の魔術師によって引き起こされたと言う点。
この事態を引き起こした犯人の名はノスタ・ルージア。
王国歴506年に滅ぼされたスデニルイン辺境伯領はルージア村の出身で、ルージア村を治めていたルージア男爵の嫡男だったと思われる。
属性は第一属性が『肉体』。第二属性が『郷愁』と思われるが、詳細は不明。
今回の事件を何故起こしたのか、何が目的だったのか、そう言った点については、断片的に伺える痕跡はあれど、はっきりとした事は分からない。
確かなのは、第二属性に目覚めたにも関わらず、ノスタはその事を隠すばかりか、王国に敵対する道を選んだと言う事。
自身の属性を巧みに生かした魔道具作りの才を持っていながら、その才を人を傷つける事ばかりに使っていた事。
最終的に、己が作った魔道具によって強大な何かになろうとして、王国が誇る宮廷魔術師たちによって討たれた事。これだけである。
この事件の最終的な死者・行方不明者の総数は百人を優に超えるが、正確な人数は主に被害が生じた部分が王城の目が届きづらい場所が主だったために不明。
怪我人は重軽傷者合わせて数千名から数万名。これは王都が通常は魔物など存在しない安全な土地であり、この手の災禍に不慣れであった点も大きいだろう。
怪我は無くとも、影響を受けたと言う話をするのなら、王都に当時居た全ての人間が当てはまる。
また、関係性は不明だが、同時に起きた火災も被害に含めるのであれば、その数はさらに増える事となる。
本件の被害規模は一人の魔術師が起こした被害としては規格外と言う他ないものだった。
が、王家、王城に仕える者の働きが無ければ、被害がさらに増えていた事に疑いの余地はない。
最悪、王都……否、王国が滅びていた可能性も存在する事だろう。
よって、本件を解決に導いた宮廷魔術師、騎士団、魔術師団、魔道具職人、侍従、兵士、市井の有志たち、そのいずれもが最大級の称賛をされるべき存在である事は確かである。
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「復興が早い……」
「当然です。これほどの大穴を放置しておくわけにはいきませんから」
ノスタが起こした事件から数日。
王都内の安全は無事に確認された。
そして、安全が確保されたのなら、次にするべきは復興。
と言う事で、復興作業が早速始まり、念のための警備として立つワタシとヘルムス様の前では、ワタシの『おさきまっくら』によって開いた大穴を埋める作業が行われていた。
見た限りでは、魔術師団と市井の魔術師から土属性の魔術師をかき集めて、土を生成する単純な魔術によって埋めているようだ。
「とは言え、ただ埋めるわけではありませんが」
「と、言いますと?」
「陛下と宰相はこれを機に、王都の整理を行うようです。目が行き届いていなかった場所にも目が行き届くように、色々と準備をするつもりのようですね。その一環として、この場所は平らに均して、広場にするそうです」
「なるほど」
「最終的にどのように使われるかは周辺住民次第ですが……。基本的には市場や催し物を開く場所になるのではないでしょうか?」
ヘルムス様の言葉を受けてよく見てみれば、確かに石畳にするための準備作業をしている魔術師の姿も見える。
それだけでなく、近くの建物の屋根上から大穴全体を見下ろし、何かを議論している人たちの姿もある。
働いている人たちの為に水や軽食を売っている屋台の姿も見えるし、商人らしき人の影もちらほらと見えているので、なんだか大規模な公共事業のような状態だ。
「逞しいですね。王都の人たちは」
「当然です。と言うより、王国の人間がこれ程度でへこたれるような人間でない事はミーメ嬢もよく知っている事だと思いますが?」
「それはそうですね」
そして復興作業はこの場以外でも行われている。
壊れた建物や損傷が激しい建物は魔術も活用して撤去して更地にした後、再建築。
損傷がそこまでではない建物も、補修用の魔道具を用いて元通りに。
王都の何処もかしこも、そんな状態だった。
これら王都住民の姿はまるで、ノスタのやった事に負けたりしないと言う、王都の住民たちの意地を感じさせるようなものだった。
「そうそう。陛下たちは王都の整理だけでなく、辺境の防衛計画や各領地の魔境管理の査定と言ったものの見直しも始めているようです。関わるにしてもだいぶ先の事になるでしょうが、もしかしたら、私たちにも影響があるかもしれません」
「そうですか。でもそれは必要な事だと思います。そこがある意味では今回の件の根本原因だとは思いますから」
「同感です。今回のような事件、そして根本原因の方を完全に無くせるわけではないでしょうが、それがしない理由になるわけでもありませんから」
と同時に、王都以外にも色々と手が入る事になるようだ。
それはある意味ではノスタの望み通りの展開なのかもしれないが……いや、流石にこれは邪推であるし、例え本当にそうだったとしても、口にするのも良くない事か。
結局のところ、ノスタは自分の都合で王都を混乱に陥れた犯罪者でしかないのだから。
「……。あの、ヘルムス様」
「なんでしょうか? ミーメ嬢」
「アレは何でしょうか?」
と、ここでワタシはそれに……この場所をどう整備していくのかのイメージ図を書いているであろう方、恐らくは芸術家の類であろう人に気づいた。
それはまあいい。必要な事だ。
問題はそのイメージ図に描かれているのが、どう見てもワタシの前でヘルムス様が傅いている物だったことである。
「ふむ。広場の目印となる像の素案の一つのようですね。なるほど、その方向で是非進めてもらいましょう」
「駄目ですから! 絶対に駄目ですから! どう考えても、平民で、闇属性で、チビで、女のワタシがヘルムス様に傅かれている像なんて問題にしかなりませんから!? 絶対に止めますからね!」
「ミーメ嬢の素晴らしさを称える像がこれまでにない方がおかしいと思いますので、此処で一つくらいは作るべきです。大丈夫ですよ、ミーメ嬢。うるさい連中は私が適当に言って黙らせます」
「そう言う話ではありませんが!? と言いますか、ワタシとヘルムス様の関係が今後拗れる可能性だってあるわけですし、広場へ置くには絶対に良くない題材ですって!?」
「はははははっ! それはあり得ませんので、大丈夫です。ミーメ嬢」
なんで、それを思いついた!?
そんなワタシの思いとは裏腹に、ヘルムス様は何故か乗り気になっていて、それをワタシはヘルムス様の腰にしがみついて、必死に止める。
一時の物かもしれないが、王都は平和を取り戻したのだった。
魔術も用いるので、復興はサクサクでございます。
像の製作も天然石または金属製でなければ、割と簡単に作られます。
これにて第三章完となります。
第四章との間には、少しだけ閑話を挟む予定ですが、二日に一度くらいのペースとなります。




