93:後始末の始まり
「はあああぁぁぁっ……」
ワタシは杖を手にしたまま、その場で崩れ落ち、杖を支えに辛うじて上半身だけを起こしているような状態になる。
その上で周囲を見るのだが。
正面のノスタが居た場所には深さ十数メートル、直径は30メートル以上50メートル未満くらいのクレーターが出来上がっていて、クレーター内には生命の気配は一切ないし、瓦礫もほぼ無い。
周囲の建物は壁から漏れ出てしまった衝撃波と暴風で傷つき、一部は倒壊してしまっている。
ワタシの近くにはヘルムス様、グレイシア様、ジャン様の三人が居るが、掠り傷を負っていて疲労困憊の様子ではあるが、全員無事。
他の宮廷魔術師の方々も、此処から見える限りは無事なようだ。
「お疲れ様ですミーメ嬢。ただ申し訳ありませんが、幾つか急いでやっていただきたい事と、決めておかなければいけない事があります」
「と言いますと?」
ヘルムス様が近づいてきて、声をかけて来る。
「あれほどの光でしたので、恐らくはこちらにユフィール様たち救護部隊が向かっているはずです。今この場には宮廷魔術師しか居ないので問題はありませんが、あちらにはそうでない魔術師も居ますので、隠蔽の魔術のかけ直しをお願いします」
「……。そうですね。確かに必要そうです」
正直に言うと、今の私は魔力面はともかく、肉体面と精神面については疲労困憊の状態で、油断していると今すぐにでも意識を手放してしまうのではないかと言うくらいには眠い。
が、ヘルムス様の言う隠蔽については、ワタシがトリニティアイである事を隠すためには必要な事なので、『おさきまっくら』の為に解除していた常駐の防御魔術たちと一緒にかけ直してしまう。
これで気絶してしまっても、二重三重の意味で大丈夫になった。
「それで決めておかないといけない事とは?」
「この後と言い訳ですね」
「この後……? っ、そうでしたね」
「ええそうです。困った事に今回の事件はノスタが犯人ではあり、既に討伐もされましたが、主に脅威となっているのはノスタの魔道具によって生み出された魔物たちです。あれらを駆逐するまでは事件解決とは言いません」
ヘルムス様の言葉で私は思い出す。
そう、大本は断ったけれど、まだ状況が終わっていない事に。
王都の中で暴れ回っている魔物がまだまだ居るであろう以上、ここで寝ているわけにはいかなかった。
『『船』、その辺は心配いらねえぞ』
「『風鳩の魔術師』殿。と、言いますと?」
『『剛拳』『硝子』『渦潮』が主に頑張っている事に加えて、一般の騎士たちも戦いに慣れてきたのか、駆除の進み具合は少しずつ速くなってる。この分なら、お前らがこっちに救援へ来る頃には、もう片は付いてる』
「そうですか」
が、『風鳩の魔術師』様に言わせれば、ワタシたちが手伝わなくても大丈夫なくらいにはなっているらしい。
本当にそうならいいのだけど……。今のワタシでは確認する余裕もなさそうだ。
『と言うか、あんな大物を狩ったのにまだ働けなんて言えるわけない。ってのが宮廷魔術師長のお言葉何でな。もうじき着く『白衣』の救護を受けたら、王城に引き上げて来いってのが、上の決定だ』
「分かりました。ではそうしましょう」
とりあえず宮廷魔術師長的には、既にお疲れ様でいいらしい。
「俺っちなんかはまだ元気があるんで、残党狩りに行ってもいいですけど?」
『残党狩りは俺と『鉄弓』『雷釘』の三人で十分だよ。『焔槍』、お前はこの場に残って、他の連中の護衛だ。その辺りはスラム街だから、上から見えない位置に魔物が潜んでいる可能性もある。他が王城へ引っ込んだ後にまだ動けるなら、その時には動いてくれ』
「了解」
そう言うとジャン様は周囲を警戒し始める。
「はぁー、死ぬかと思った。壁が必要なら、事前に教えてくれよ……」
「『土壁』先輩のおかげで助かりました。マジで感謝です」
「痛てて……。まあ、これくらいで済んだなら、おじさんにしては幸運かなぁ」
で、そうしている間に、近くにいた他の宮廷魔術師……推定『土壁の魔術師』『石抱きの魔術師』の二人に、見知らぬ氷属性の男性が近づいてくる。
前二人は元気そうだが、氷属性の男性は片腕が折れている様子で、非常に痛そうだ。
と言うか、本当に誰だろうか?
属性からして、『鉄弓』『雷釘』のお二人でない事も確実だし。
勿論、『風鳩の魔術師』様とも違う。
でも、左目の虹彩と瞳孔がスロットのように回りまくっているので、第二属性持ちであり、格好も宮廷魔術師の物なのだけど。
「『賭事の魔術師』殿はまた怪我をされたのですか」
「そうだよ。おじさんの目の前の壁が偶々脆かったようでね。吹き飛ばされて、叩きつけられて、その時折れちゃった。正直、今この場でのたうち回りたいくらいには痛いね」
「それはその……」
「ああ、『闇軍の魔女』、君は悪くないから大丈夫。ついでに『土壁の魔術師』君も悪くない。おじさんの踏ん張りや防御が足りてなかっただけだから。とりあえず『焔槍の魔術師』君、護衛はしっかり頼むよ。この中で元気そうなの、君くらいなんだから」
どうやら『賭事の魔術師』様だったらしい。
ノスタとの戦いの中で活躍している姿は……見た気がしないな。
氷による拘束や壁張りはグレイシア様が大半はやっていた気がするし。
ただ、ジャン様が背筋を伸ばして応じている辺り、尊敬されている方ではあるっぽい。
ワタシが腕を治すのは……今の集中力を欠いている状態でやりたくはないな……うん。
「さてそれで『船の魔術師』。言い訳の方は?」
「これから決めるところです。とは言え、想定外の大物が出てきてしまったため、門外不出の秘儀……触媒や魔道具も用いた特別な儀式魔術の一種を用いた。とでもしておけば良いかと」
「無難なところだけど、おじさんもそれで同感かな。真実を明かすのは陛下、宰相閣下、宮廷魔術師長、宮廷魔術師仲間。ここまでかな。じゃあ、それ以外から何か尋ねられた時は、『『船の魔術師』に聞いてくれ』でいいかい?」
「構いません。これは私のするべき事ですので」
「分かった。ではそう言う事にしておこうか。他の皆もそれでいいね」
言い訳と言うのは……、ノスタをどうやって倒したかの部分と、きっと王国中から見えたであろうノスタが爆発した時に立ち昇った光の柱についてか……。
ワタシがトリニティアイである事を隠すのなら、確かに何か言い訳は考えないといけないわけで……。
うん、申し訳ないけれどヘルムス様に任せるしかなさそうだ。
そして、『賭事の魔術師』様の言葉に誰もが頷いている。
「はー、トレガレーの坊ちゃんは献身的だねぇ。そんなに婚約者の事が大切なのか?」
「勿論」
「お、おう……」
で、ここで『石抱きの魔術師』様が、ヘルムス様に対して、何処か揶揄うように話しかけたのだけど……ヘルムス様が満面の笑みでそれに応じた事で、むしろ『石抱きの魔術師』様の方が気圧されている。
いやでも、ここでワタシの事を大切と言われるのは……恥ずかしくもあり、嬉しくも有りで……ああ駄目だ。割と真面目に頭が回らなくなってきた。
「ヘルムス様。ミーメ様がそろそろ本格的に限界でございます」
「そのようですね」
ワタシの倒れかけた体をグレイシア様が支えてくれる。
あ、ヤバい。
瞼に力が入らなくなってきた。
意識も途切れ始めてきた。
「みんな~無事かしら~!?」
ユフィール様の声が聞こえてきたような気がする。
「こちらです!」
「分かっているわ~。とりあえず~消毒と止血をしちゃうわね~シュッシュー~からの~『ファーストエイド』~!」
傷口の当たりをお酒っぽい何かで拭われた後に、柔らかな光が周囲一帯に降り注ぎ始めたのを感じながら、ワタシは眠り始めた。
宮廷魔術師ですが、ミーメたち含めて約二十人ほどが登場しております。
まあ、詳しい人物像などは機会があればと言う事になるでしょう。(なお、圧倒的おじさん率)
02/01名称変更
02/02誤字訂正




